■Taphrina deformans (モモ縮葉病菌)

■ 2020年04月25日 撮影

知り合い宅のハナモモに発生していたので頼み込んで撮影と採取をさせて頂きました。 図鑑で見て覚えてるって大事ですね。でないと虫害だと思ってスルーしちゃいます。 サクラ天狗巣病菌と同じタフリナ属の植物寄生菌類で、子嚢菌門に属します。 モモの産地ではワリと普通に見られて厄介がられますが、逆にそれ以外の地域ではワリとレア。 モモとその変種のズバイモモにも感染します。

ちなみに属名で画像検索をかけると海外の写真が多く出てきます。 本種は同じモモ亜属のアーモンドにも感染するため、その写真が多いようです。 国内ではモモが主な被害者であり、家庭でもハナモモは良く植えられているので検索すると結構ヒットします。


■ 2020年04月25日 撮影

本種の最大の特徴は葉が不規則に肥大することでカールし、黄緑色や赤褐色になることです。 この縮葉状態の部分に子嚢が形成され、そこから子嚢胞子が飛散します。 ただ同属のサクラ天狗巣病と比べるとかなり子実層は形成しづらいように感じます。

食えるどころかヒトの食い物を荒らす植物の病気です。ただの葉ですし食用価値なんて有りません。 一度発生すると植物体にとどまって冬を越し、翌年になるとまた新芽を狙って活動するようです。 そのため新芽が出る前に殺菌剤などを用いるのが効果的です。


■ 2020年05月12日 撮影

採取させて頂いたサンプルが成熟せずに枯死してしまい、もう一度採取させて頂きました。 TOP写真の下に垂れてる葉ですね。なので黒バック撮影! 以前見た時は葉の付け根が変形している程度でしたが、ここまで変化しました。


■ 2020年05月12日 撮影

追培養しても一切変化の無かった表面ですが、今回は最終段階で違いが分かりました。 サクラ天狗巣病菌と同じ、明らかに白く粉を吹いたようになっています。


■ 2020年05月12日 撮影

もう少し拡大してみました。ここであることに気付きました。これ葉の表だ! サクラ天狗巣病菌は葉の裏側に子嚢を形成しますし、色々と葉の裏のほうが生育に都合良いと思ってたので意外です。 裏返してみても裏面には光沢があり、子嚢は形成されていないようです。この違いは一体・・・?


■ 2020年05月12日 撮影

マクロレンズで限界まで拡大してみました。これは明らかに子嚢が形成されていますね。 ただのカビとの違いは白い部分の見た目が均一で表面に糸状の菌糸が無いこと。 薄っすらと粉をまぶしたようになっているのが特徴ですね。


■ 2020年05月12日 撮影

2年後し・・・2年越しにようやくこれを見ることができました。


■ 2020年05月12日 撮影

葉の切片を作成して断面の構造を観察してみました。 下に気孔が見えてますのでやはり葉の表側に子嚢が形成されていますね、見間違いじゃなかったようです。 また嫌に色が白いなと思ったら表面付近の葉緑素が消失してしまっています。 赤く変色した段階で破壊されてしまうんでしょうか?


■ 2020年05月12日 撮影

やっと子嚢が見えました!これくらいの絞りで撮るのも良い感じなんですよね。 ただこれだとピントが合う距離範囲が狭すぎて・・・難しい。


■ 2020年05月12日 撮影

深度合成をしてみました。こうして見ると本種が子嚢菌類なんだなと実感できますね。 サクラ天狗巣病菌の子嚢と比べるとずんぐりむっくりですね。


■ 2020年05月12日 撮影

油浸対物レンズ使用を解禁したことでこのような非常に小さいものの観察環境は劇的に良くなりました。 子嚢盤を持つ子嚢菌類との最大の違いは切片の大半が植物体だってことですね。 細胞壁を持つぶん頑丈にできているので、菌体を切断するよりも断然切断が楽です。 ただ本種の子嚢は植物体表面に形成されているので、指で押し潰さないようにしなくては。


■ 2020年05月12日 撮影

これが限界の拡大。これが本種の子嚢とそこに内包された子嚢胞子です。 子嚢は高さ30μm。1000μmが1mmですので、それを考えると本当にミクロの世界です。 ただ見慣れた子嚢菌類の子嚢とは内包されている子嚢胞子の感じが違いますね。


■ 2020年05月12日 撮影

子嚢胞子はサイズも形状もバラッバラですが、基本的には楕円形です。 良く見ると変な感じの胞子が見えますが、これは出芽によって胞子が増えている途中です。 同じ子嚢菌門の酵母と同じ特徴であり、胞子から芽生えるように新たな胞子が形成されます。 この出芽は子嚢内部でも起きるため、子嚢内部があんなにゴチャゴチャするんですね。


■ 2020年05月12日 撮影

子嚢には頂孔も蓋も無いので、こんな感じに壊れて胞子が放出されます。 とりあえずこれでようやく本種の家庭で観察できる全てを見れた気がします。

■ 2018年05月19日 撮影

初見時は赤い部分が形成されていませんでした。 知り合い宅の方は害虫か何かしら吸汁性害虫の被害だと思っていたそうです。 特定の地域以外ではマイナーな病気なので知らないでしょうしね。


■ 2018年05月19日 撮影

病徴部を頂いてきました。健全葉と比べると感染した葉が如何に変形しているかが良く分かります。 アブラムシなどによる虫害では葉が萎縮するのが普通ですが、本種はやや肥大します。 また虫体が見当たらない点でも疑えるかと。


■ 2018年05月19日 撮影

感染した葉を拡大してみました。葉全体が不規則にカールし、黄緑色になって来ています。 感染部位によって差がありますが、赤褐色に変化した部分も出てきます。


■ 2018年05月19日 撮影

成熟するとこの表面に無数の子嚢が形成されます。 そこから胞子が噴出するため白色粉状となります。 ただこの時は追培養に失敗し、子嚢胞子は観察できませんでした。 採取許可はいつでも貰えるので、何度か試さないとダメかも知れません。

■ 2020年04月25日 撮影

2年振りの再会でしたが、今年も元気にいつものハナモモに感染していました。 今回は複数の感染部位を採取させて頂きました。知人に感謝! まぁその方には「何で病気見て喜んでるの?」と至極ごもっともな疑問を投げかけられましたけども。


■ 2020年04月25日 撮影

野外で観察しても子嚢が形成されている様子がありませんので、まずは黒バック撮影のみ。 同属菌でもサクラ天狗巣病菌とは全く異なる病徴を作るのは不思議なものです。


■ 2020年04月25日 撮影

葉がよじれると言えばアブラムシなどの吸汁性害虫が媒介するモザイク病などが有名。 身近なものだとナス科植物の葉にモザイクを生じさせるキュウリモザイクウイルス(CMV)でしょうか。 トマトやピーマンの葉が萎縮している光景を見た方は少なからず居られるのでは? ですが本種は感染部位と健全な部位が明確に分かれるあたりが「菌っぽい」のでしょう。

ちなみにこのサンプルは未成熟のまま枯死してしまいました。 サクラ天狗巣病菌で成功した方法と同様に高湿度環境を維持しましたが失敗。 しかしどうも本種は子嚢を作る環境が少し違うようです。 個人的には近縁なウメ縮葉病菌の発生状況から通気の良い低湿度環境が好きなのではないかと予想。 加えて本体からの養分供給、つまり正常な生育環境が必要なのではないかと予想してみます。
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