■Taphrina mume (ウメ縮葉病菌)

■ 2020年05月12日 撮影

良くお邪魔するお宅のウメに不思議なものを発見。最初は何かの花かと思いました。 近寄ってみると確かにウメの樹ですが、葉に異常が生じています。 葉の裏を見てすぐにタフリナ属菌による病害であると確信しました。 「縮葉病」の原因菌として有名な植物寄生菌類で、子嚢菌門に属します。 最初はモモ縮葉病菌がウメに感染したのかと思いましたが、ウメやアンズに感染する別種が存在しました。

縮葉病としてはモモが圧倒的に有名で、ウメはあまりネット上でも症例が少ないです。 ウメの縮葉病とされるものはアブラムシなどの吸汁性害虫による縮葉症状です。 見分けるポイントは害虫による被害は葉が赤変せず萎縮すること。 また当然ながら葉の裏側に子嚢が形成されないことで区別できます。

ちなみに本種のシノニムとして「T. deformans var. armeniaca」が存在します。 種小名を見ても分かる通りモモ縮葉病菌の変種と言う扱いですね。 一応「mume(ウメ)」を意味するこの学名で掲載することにします。


■ 2020年05月12日 撮影

遠くから見た時は花が咲く樹なのかな?と思いましたが、近付いてみると普通にでした。 しかもかなり赤みが強く、花と間違えたのも無理も無いって感じ。


■ 2020年05月12日 撮影

さらに寄ってみます。赤いのは新芽で、葉のほとんどが真っ赤に染まっています。 下に行くほど葉は緑色になりますが、やや赤みは残り、縮葉の病徴が目立ち始めます。 実はウメは新芽が出る頃にアブラムシにやられやすく、葉が縮むことが多々あります。 ですがその場合は葉が緑色のままで小さく萎む点で明確に異なります。


■ 2020年05月12日 撮影

新芽付近を拡大してみました。フタホシテントウさんが居られました。 一応新芽付近にアブラムシが居たので、それを狙っていたのかな? 新芽はまるでケイトウのようで、非常に美しいです。 モモ縮葉病菌に比べると赤色が顕著に現れますね。


■ 2020年05月12日 撮影

野外ですがなんちゃって黒バック撮影です。背後に黒い板を置き、編集で黒くしています。 室内じゃなくても結構綺麗に写せるものですね。 葉は確かに縮れて波打ちますが、モモ縮葉病菌のように肥大はあまりしていません。

ここから一日前に戻ります。この段階ではモモ縮葉病菌がウメにも感染したと思っていました。 なので一向に成熟しないモモ縮葉病菌のサンプルを見かねて、コイツを代わりに観察しようと考えたのです。 しかし観察後にモモ縮葉病菌はモモとズバイモモにしか感染せず、ウメには感染しないことを知ります。 そこで調べた結果、本種に行き当たり、合っていると言う確信を得ました。


■ 2020年05月11日 撮影

葉の裏側をマクロ撮影してみました。 最終段階で肉眼でも白っぽく粉を吹いているように見えましたが、これやっぱ子嚢ですね。 葉の裏側に子嚢が形成されるのはサクラ天狗巣病菌と良く似ています。


■ 2020年05月11日 撮影

葉の切片を作成して低倍率で顕微鏡観察してみました。 すると葉の裏にかなり厚い感染部位の層が出来ており、そこに子嚢が無数に形成されていました。 また葉の表面にも多少子嚢が形成されているようです。


■ 2020年05月11日 撮影

倍率を上げてみました。間違い無くタフリナ属菌ですね。 子嚢直下の細胞は本種によるものなのか、色が抜けて周囲の植物細胞とは異なる色合いになっています。


■ 2020年05月11日 撮影

子嚢を油浸対物レンズで観察してみました。 本属菌は子実体を形成しないので、顕微鏡観察で個性と呼べるのは子嚢くらいのものですからね。 子嚢は短く、サクラ天狗巣病菌よりも短くてモモ縮葉病菌と比べて一回り小さいと言う印象。 先端部には頂孔も蓋も無く、写真のように破れて胞子が外に飛び出します。


■ 2020年05月11日 撮影

非常に観察しやすい子嚢がポツンとあったので拡大してみました。 子嚢内部には子嚢胞子が沢山詰まっています。 普通、子嚢内部の胞子の数は分裂の関係から2のn乗になりますが・・・。


■ 2020年05月11日 撮影

本種の胞子は同じ子嚢菌門の酵母と同様に出芽により増える性質があります。 出芽は子嚢内部でも起こるため、子嚢胞子の数は一定ではありません。 また出芽するたびに小さくなるため、子嚢胞子の大きさもバラバラになります。

食毒とかどうでも良いですが、モモ縮葉病菌を見た後だと本種のほうが凶悪な印象です。 モモ縮葉病菌は1本の樹に対して探さねばならないほど部分的に発生し、感覚的にはもち病菌に似ています。 しかし本種の病徴は樹の随所に及び、この部位が枯死すると考えると植物体へのダメージは小さくありません。 一応薬剤散布で抑えられるみたいです。

■ 2020年05月12日 撮影

基本的に梅園は管理されているのであまり出ないらしく、ネット上でもほとんど見かけません。 このように個人宅などの手入れが普段されない場所のほうが生存しているのかも。


■ 2020年05月12日 撮影

そこそこ害のある植物寄生菌類なのでしょうが、個人的には綺麗だなぁと感じてしまいました。 花だと勘違いしたのは当然だったかも知れません。 いつでもお邪魔できる場所なので、来年も見たいですね。
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