★Taphrina wiesneri (サクラ天狗巣病菌)

■ 2019年04月07日 撮影

おそらく最も多くの日本人が目にしたことの有る植物寄生菌類でしょう。 撮ろう撮ろうと思っていたのに2018年度はリアルがバタバタで満開の時期を逃してしまいました。 翌年にしっかりとリベンジできたのでキチンと掲載できましたよ。 ソメイヨシノなどのサクラ類の枝に特徴的な病徴をもたらす植物寄生菌類です。 お花見の時に感じた違和感の正体、それはコイツ。ヤドリギじゃないよ?

各種天狗巣病は脇芽の成長を促すサイトカイニンが増えるために起こります。 原因は担子菌類、子嚢菌類、寄生虫など様々ですが、原理は同じです。 海外では天狗巣病の類は「魔女のほうき(witch's broom)」と呼ばれます。 まぁサクラは古くは海外に無いので、モミとかのヤツでしょうけど。


■ 2019年04月07日 撮影

本種の感染を受けた枝は毎年小枝を無数に生じ、どんどん大型化します。 この小枝が叢生した部分にはほとんど花が付きません。 そのため満開の花の中にぽつんと葉っぱだけの塊ができるのです。 このような部位を「天狗巣」と呼びます。確かに鳥の巣みたいですね。


■ 2019年04月15日 撮影

この時病徴部の葉を採取して家で少し水に挿しておきました。 1週間ほど経っても見た目には変化はありませんでしたが、葉の裏には異変が起きていました。 葉を薄く切って断面を観察してみると・・・。


■ 2019年04月15日 撮影

明らかに植物組織ではない細胞が葉の裏側に見られます。 しかし1週間も経ったのに見た目にはコレ以上の変化は見られません。 そこでビニール袋で水差しごと包んで湿度を上げてみることにしました。


■ 2019年04月18日 撮影

湿度を上げてたった3日、正確には2日目には異変が起き始めていました。 1週間もの間変化がなかった葉に暗褐色の病斑が広がり始めたのです。 そしてこの症状については昨年の野外観察段階で見覚えがありました。


■ 2019年04月18日 撮影

本来ほぼ無毛で光沢があるハズのソメイヨシノの葉の裏がツヤ消し状態になっています。 正確には裏面の枯死した周囲、生きている表面が白い粉を吹いています。 これぞ本種が植物寄生菌類たる証拠なんですよね。


■ 2019年04月18日 撮影

写真上部はサクラの葉の組織です。上方が葉の表、下方が葉の裏になります。もうお分かりですね。 裏面に光沢がなかったのは葉の裏側に子嚢がビッシリ形成されていたからなのです。 本種はこう見えてれっきとした子嚢菌類なんですよ。


■ 2019年04月18日 撮影

油浸対物レンズで高倍率撮影すると子嚢の様子が良く分かります。 子嚢は長くても40μmほどで見慣れた子嚢菌類のそれに比べるとかなり短いです。 また子嚢胞子の数も大きさも不揃いなのも普段とは違う感じですね。


■ 2019年04月18日 撮影

絞りを変えて撮影。15日に観察していたのは未成熟の子嚢だったんですね。 やたら枝を増やすのは子嚢を形成するための表面積を広げると言う明確な狙いがあるワケですね。 キノコがひだや管孔で表面積を増やす努力をしたように、本種は宿主を利用しているのです。 進化って凄いですね・・・。


■ 2019年04月18日 撮影

子嚢先端を観察していて気付いたのですが、コレどうやって胞子を噴出するんだ? 肥厚部があるワケでもないし、蓋も見られません。 そう思っていたらこんな写真が撮れました。未成熟の子嚢の奥に見える抜け殻に注目。 子嚢の先端が破れているのが分かります。 「飛ばす」と言うよりも「飛んで行く」感じなんでしょうか?


■ 2019年04月18日 撮影

子嚢が単体で見やすい場所がありました。 胞子の数や大きさがまちまちなのは、本種の胞子が子嚢内外で出芽によって増えるためです。 「酵母じゃあるまいし」と思われた生物系視聴者の皆様、正解です一般的な酵母は子嚢菌門ですから。 実はこのような天狗巣病系の病徴をもたらす植物寄生菌類は担子菌サビキン目が多いので、本種は少数派かな?


■ 2019年04月18日 撮影

サクラ天狗巣病の子嚢胞子です。 大きさは不揃いですが無色、基本的に球形〜楕円形で不規則な内包物が見られます。 良く見ると一部に突起ができ始めているものが見られます。出芽が始まっているようですね。


■ 2019年04月18日 撮影

一応メルツァー試薬で染めてみました。子嚢を見ると染めたくなるよね・・・。 とりあえず全く反応しないので非アミロイドみたいです。

葉の裏側に現れる以外は常に植物体の枝内部に居り、食えるわけないです。 本種で特筆すべきは何と言ってもその分布の広さと防除の難しさしょう。 もうご存知でしょうが、場所によっては本種に感染してない樹が少数派なレベル。 桜の名所では本種の防除に力を入れていますが、楽な作業ではありません。 感染部位は最終的に枯死するため、胞子の飛散を防ぐためにも切除します。 しかしどうしても残しが出るため、この作業を複数年継続実施する必要アリ。 本種は著しくサクラの観賞価値を下げるので「ヒトの心の毒」でしょうか?

■ 2018年04月10日 撮影

初めて観察したのは2018年。しかし時期を外してほぼ葉桜になってしまっていました。 暦的には2019年よりも早かったハズなんですが、これは2019年が早すぎただけでしょうね。 この写真を撮った時から「来年は絶対に時期を逃さない」と覚悟を決めていました。


■ 2018年04月10日 撮影

花はほとんど終わっていますが、その分だけ天狗巣部分の茂り方が顕著で分かりやすいです。 もう少し経つと健常部も葉が茂るためあまり目立たなくなります。


■ 2018年04月10日 撮影

満開の頃は綺麗な葉なのですが、花が散る頃になると葉に異変が起きます。 別に生育環境は悪くないハズなのに葉が縁から褐変し枯死してゆきます。 2019年の実験から湿度が上がると症状が進みやすいようですね。


■ 2018年04月10日 撮影

枯死した葉を裏返してみると、葉の表の黒変のワリには変色していません。 それどころか枯死部の表面が白色微粉状になっていることに気付きます。 野外で強い光が当たると粉状になっているのが良く分かります。


■ 2018年04月10日 撮影

帰宅後にCanon製「MP-E65mm F2.8 1-5×マクロフォト」で撮影。 すると表面に霜が降りたような透明感の有る粉状の物体が確認できます。 この子嚢の形成具合は2018年での観察のほうが顕著ですね。


■ 2018年04月10日 撮影

この頃はまだgajin氏に顕微鏡を頂く前だったので顕微鏡の性能も撮影画質もズダボロです。 顕微鏡の性能は置いといて何と言うか切片作成とかも技術は上がったんだなと実感はできますね。 それでも子嚢が見えた時は感動しましたね。

■ 2018年04月10日 撮影

ソメイヨシノへの感染が多いですが、このように他品種にも感染します。 ただちに影響が出るものではありませんが、不格好さは否めません・・・。

■ 2019年04月07日 撮影

観光地ではある程度手入れがされていて目にすることが少ない本種。 しかし人の手が入らない山間部の川沿いの道ダム湖周辺などは高湿度が見込めるので本種も活発です。 ここは集落と集落を繋ぐ川沿いの桜並木ですが、適度な発生量で良い被写体が多かったです。 やっぱ満開時期に探さないと写真映えしませんね。


■ 2019年04月07日 撮影

空を背景に見上げると枝が叢生している様子が良く分かります。


■ 2019年04月07日 撮影

病徴部には花がほとんど咲きません。「ほとんど」と書いたのは多少は咲くためです。 しかしその量はごくわずかで無視できるレベル。

■ 2019年04月07日 撮影

非常に分かりやすい天狗巣です。これ野外だと花がもっと白く見えるので写真以上に良く分かります。 ただ自分でも撮ってて思ったんですが、花を撮らず病気を撮っている自分自身に凄く違和感はありましたよ。 ええ、そこはもう。

■ 2020年04月18日 撮影

新型コロナウィルス感染拡大防止に伴い人が集まるような場所へはあまり行けなくなってしまいました。 お花見会場も例外ではなく、人が集まらない場所を探す必要が出て来てしまいましたね。 まぁそんな場所いくらでも知ってるんで全然問題無かったですけどね!


■ 2020年04月18日 撮影

感染部位を黒バック撮影しました。もうこの状態で違和感が凄いですね。 しっかりした太さの枝には似合わない小さな葉が密生し、しかも部分的に枯れ始めています。 ちなみにシャクトリムシが隠れていて、思いっ切り握っちゃいました。擬態すげぇ。


■ 2020年04月18日 撮影

葉の裏側を拡大してみると、明らかに白っぽく見えます。


■ 2020年04月18日 撮影

高倍率のマクロレンズで撮影してみると白く見える理由が良く分かります。 葉の裏面にビッシリ子実層が形成されているのです。 葉脈部分以外はほぼ覆われているようです。こえぇ。


■ 2020年04月18日 撮影

すでに観察済みではありますが、もう一度顕微鏡観察してみました。 葉の表面には何ら変化はありませんが、裏面は完全に子実層に覆われ、無数の子嚢が確認できます。 普通に見ただけだと少し白い程度ですが、こうして見るとかなり厚みがありますね。 もしかすると早期の枯死は葉裏の気孔を塞がれるからでしょうかね?


■ 2020年04月18日 撮影

子嚢もしっかりと子嚢胞子を内包しています。時期的にまだ未熟な子嚢が多いかな? それでも低倍率で観察している時も周囲に子嚢胞子が漂っていました。 防除するのであればやはり葉が出る前に感染部位を除去しなければダメでしょう。


■ 2020年04月18日 撮影

油浸対物レンズで前回よりも綺麗に撮影することができたサクラ天狗巣病菌の子嚢胞子です。 同じ子嚢菌門でも酵母に近い性質を持っているため、子嚢胞子からの出芽が確認できます。 出芽は子嚢の中でも起こるため、子嚢内部の胞子の数も一定ではありません。 当然ながら出芽で増えた分小さくなるため、胞子のサイズもバラバラです。

■ 2020年04月18日 撮影

感染部位が非常に多いソメイヨシノです。この病気の厄介な点は天狗巣が枯死することです。 サクラの枝はどの部位であっても基本的に枯れること無く成長し続けます。 しかし本種に感染した部位は一定期間胞子を撒き散らした後に力尽きて枯死します。 このため枝を失ったサクラの樹は大きなダメージを受けることとなります。 見た目だけならまだヒトのエゴですが、実害があるとなると看過できません。
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