■Tolypocladium japonicum (タンポタケモドキ)

■ 2022年07月04日 撮影

ガガンボ氏主催の岡山冬虫夏草オフ最終日に出会いました。実は密かにずっと出会いたかった種です。 どれくらい出会いたかったかと言うと広東虫草をの撮影を怠る程度には出会いたかったです。 夏場に地下生菌のツチダンゴを宿主に発生する菌生冬虫夏草の「タンポ茸擬」です。 和名的にアイツに似ているのかな?と思いきや、そうでもないですよね、本種。 なおいまだに「タンポ」をどう漢字で書けば良いのか分かりません。個人的には「単穂」かなと思ってますが。

この場所のツチダンゴは遺伝子レベルでガチの和名「ツチダンゴ」であることが確認されています。 つまり学名「Elaphomyces granulatus」です。これもちゃんと未感染個体を観察すべきでしたね。 子実体を切断した場合、アミメツチダンゴのような模様が断面にありません。


■ 2022年07月04日 撮影

本種は和名こそタンポタケに似ている的なニュアンスですが、 子実体はタンポ型ではなく棍棒型で全体的にオリーブ色系です。 結実は暗緑褐色ですが、柄は灰青色をしているものが多いです。 形状だけならウメムラセミタケにも似ていますが、本種のほうが肉質がより強靭。 この硬い肉質は菌生冬虫夏草のソレだなぁと感じますね。 私個人としてはぶっちゃけハナヤスリタケに似ていると思いました。 ただこれはこの後の観察結果で覆されることとなります。


■ 2022年07月04日 撮影

今回はしっかり胞子観察までしたかったので標本採取させて頂きました。 しかし凄い発生量でどれを掘れば良いか目移りしちゃいます。 まぁ贅沢な悩みではありますな。


■ 2022年07月04日 撮影

適当に採取に望みましたが、出て来たのは3個のツチダンゴ! 図鑑では1個の宿主からドバッと出ている写真を見ていたので、てっきり1個から出ているものと・・・。 ちなみに手前に小さな宿主から出た小さなタンポタケモドキが転がり落ちてます。 一応様々成長状態が見たいと言うことで全て持ち帰らせて頂きました。


■ 2022年07月05日 撮影

遠征から帰宅した翌日です。流石に当日は疲れて寝てしまったので、退社後に撮影開始。 まずは黒バック撮影ですが、クリーニングで水に濡らすと胞子噴出が始まってしまいました。 なので実際には先に顕微鏡観察を済ませております。 子実体は宿主から直根状に出ており、細根状のハナヤスリタケと比べれば確かにタンポタケ寄り。


■ 2022年07月05日 撮影

結実部は成熟すると暗オリーブ褐色ですが、幼菌の頃は淡黄緑色です。 子嚢殻は埋生で先端部がやや突出。ハナヤスリタケとは異なり先端部だけが突出する感じです。 こうして見ると確かに形状を除けば基本構造はタンポタケ寄りであることが分かります。


■ 2022年07月05日 撮影

そして胞子観察して思ったのはやっぱりタンポタケ寄りだなと言うことでした。 子嚢胞子は糸状で長さは200μm前後。16個の二次胞子に分裂します。 二次胞子は両端付近ほど長くなり、両端の細胞は弾丸型になります。 この特徴は完全にタンポタケ系に多いものであり、 128個の細かい二次胞子に分裂するハナヤスリタケとは縁遠いことが伺えます。


■ 2022年07月05日 撮影

二次胞子は両端がやや丸みを帯びた円筒形で、長さは10〜20μmと倍近い振れ幅があります。 内部には油球様内包物を含んでおり、低倍率で見ると二次胞子が縞模様のように見えるのはこのため。 両端の二次胞子だけ長さも形状も異なるのが分かりやすいと思います。

薬効があるとも聞きませんし、普通に土臭いので食不適で良いでしょう。 猛毒と言うのも属的には考えにくいとは思いますが、菌臭くて食べれるようなものではないでしょう。 菌生冬虫夏草としてはかなり大型の種なので、愛でるに留めましょう。

■ 2022年07月04日 撮影

この場所の発生量は凄まじく、斜面全体に発生が見られました。 最初は斜面の見えている範囲だけかと思いましたが、少し探すと更に上の棚の部分にも発生が見られました。

■ 2022年07月04日 撮影

気に入っている一枚です。ツチダンゴを背景にズラリと並んでいる構図が最高ですね。 幼菌の頃はあまり黒くなくてオリーブ色が強いのが分かります。 私は本種が好きになりすぎて写真撮影に没頭してしまい、結果広東虫草を撮り損なうと言うミスを犯しました。 ただその分良い写真が沢山撮れたので良しとしましょうかね。

■ 2022年07月04日 撮影

随分雰囲気が違いますが、これは深い落葉に埋もれていたためです。 他の菌生冬虫夏草でも地面に露出しているものと腐植に埋もれているもので柄の長さがかなり変わります。 でもここまで長いと流石にタンポタケのそっくりさんとは言えませんね・・・。

■ 2022年07月04日 撮影

タンポタケモドキを見ていて気付いたのは、柄の分岐が少ないと言うことです。 ハナヤスリタケだと柄が分岐しているものが結構居るんですが、本種はほとんど見なかったと思います。 この写真を撮ったのも、珍しく分岐していたためです。オマケ的な感じでしたけど。

■ 2022年07月04日 撮影

個人的ベストショットはコケとのコントラストと成長段階の違いが良く分かるこの1枚。 この日のトリに相応しいと思っています。正直本種はそこまで発生がレアな冬虫夏草ではありません。 それを何でこんなに夢中で撮影したかと言うと、初見だったからなんですよね。 本当に素晴らしいフィールド!案内して下さったガガンボ氏に感謝です。
■図鑑TOPへ戻る