■Tolypocladium paradoxum (ウメムラセミタケ)
■ 2023年10月08日 撮影 安定して地元に発生する坪が地元にあるのでとても助かっています。 冬虫夏草としては珍しく秋〜晩秋にかけて各種林内地上に発生する「梅村蝉茸」です。 発生環境は様々で針葉樹林にも広葉樹林にも発生しますが、探しやすいのはヒノキ林かな? その名の通り各種セミの幼虫を宿主とし、 ヒグラシ、ミンミンゼミ、アブラゼミなど宿主の守備範囲が広いです。 色が非常に地味のため、比較的大型のワリに発見難易度が高いですね。 形状がハナヤスリタケに似ており、過去に誤同定されたこともあります。 それもそのはず、属名の通り本種はトリポクラジウム属であり、菌生冬虫夏草の仲間なんです。 種小名の「paradoxum」も「奇異な、説明の付かない」の意味の中性形容詞であり、 本来ツチダンゴ生の本属菌がセミから発生する異様さが由来となっています。 冬虫夏草が虫を宿主に選ぶ、その進化の一端が垣間見える興味深い種です。 なお、本種の離島型と呼ばれている直根型タイプは子実体の形状や地下部の構造などから別種としました。 ■ 2023年10月08日 撮影 子実体はハナヤスリ型。子実体はオリーブ色〜黒緑色と表現されます。 色の幅が広いのは成熟が進むに連れてどんどん暗色に変化するためです。 子嚢殻は埋生で先端部がやや突出します。柄も同色で基部は明色です。 外見が似た同属菌のイネゴセミタケは子嚢殻が半裸生型なので区別は容易です。 ■ 2023年10月08日 撮影 初めて断面作成に挑んだ際は2時間くらいかかりましたが、慣れれば30分チョイでここまで行けます。 本種が非常に厄介なのは地下部が菌糸状と言うマジで極悪な特徴です。 ツブノセミタケなど掘り採り難易度が高いとされる種でも地下部はワリと頑丈な菌糸束なのですが、 本種の場合は菌糸束になっていないガチ菌糸。綿毛みたいな状態なので、 周囲の土を崩したり、奥を通る根を引っ張っただけでプツッとギロチンしてしまいます。 無数の枝分かれが存在するため、完全に残すことはほぼ不可能。 持ち帰るなら周囲の土ごと採取するほうが無難です。 ■ 2023年10月08日 撮影 宿主はヒグラシの幼虫でしょうか?結構深い場所に居る印象です。 本種の特徴に宿主が菌糸に覆われると言うものがあります。 宿主は脚だけを残して完全に菌糸に覆われてしまっています。 菌糸は様々な方向に広がっており、巣穴の内壁にまで広がっていることが多いですね。 いかにもなセミ生冬虫夏草ですが、特に薬効成分も無い模様。商品価値無しです。 ただしセミ生としては非常にカッコイイ部類なので観賞価値は高いです。 何よりその高い断面作成難易度から、掘りテク向上の練習には最適かも。 ■ 2023年10月21日 撮影 実はこの子実体、撮影のためだけに断面作成したので、採取せずに埋め戻しました。 約2週間後に再訪したのですが、ギロチンしていなかったのでちゃんと成長してくれていました。 すでにサンプルは持っており胞子観察まで済ませているので、あとは現地で胞子を撒いてくれればヨシ! ■ 2016年10月10日 撮影 初発見かつ旧TOP写真だった子実体です。ツブノセミタケを探していたら偶然発見しました。 実は発見は前日9日の日没寸前で撮影できなかったので翌日もフィールドへ。 この2種は似た環境に出ると良く聞きますが、確かにそうっぽいですね。 ■ 2016年10月10日 撮影 その後数多の子実体を目にすることになりましたが、この子実体はかなり大きかったのだと分かりました。 子嚢殻の数の多さから相対的に見れば、結実部の大きさが良く分かります。 ■ 2016年10月10日 撮影 断面作成を行いましたが、所要時間は2時間。過去最長を記録しました。 あまりにも菌糸が広がりすぎていて巣穴の表面にまで広がっています。 この宿主どころか周囲にまで菌糸が広がるのは本種の大きな特徴のように思います。 ■ 2016年10月10日 撮影 帰宅後クリーニングしてみました。これじゃ分からないので黒背景へ。 ■ 2016年10月10日 撮影 これでOK。本種の厄介な性質、地下部が菌糸状がとても良く分かりますね。 明確な地下部は形成せず、菌糸状態で土や根をうまく避けて上に伸びています。 そのため地下部が複雑な網目状になり、断面作成の妨げとなります。 また何がキツいかって菌糸が軟質ですぐに切れちゃうんですよね。 本当はもっと細かな枝分かれがあるんですが、完全に残すのはほぼ不可能だと思われます。 ■ 2016年10月10日 撮影 なんと撮影中に凄まじい勢いで胞子を飛散し始め、かなり焦りました。 急いで証明をセットして子嚢胞子が子嚢殻先端から噴出する様子を撮影! あまり観察できない虫草が胞子を飛ばす様子を動画に収められました。 ■ 2016年10月10日 撮影 動画に浮かれていただけではありません。ちゃんと胞子も捕まえました。 これが本種の子嚢胞子。糸状でカバーガラスに降り積もるほどの量です。 しかしこの当時の顕微鏡ではこの画質が限界。後にリベンジとなりました。 ■ 2016年10月15日 撮影 一度やってみたかった冬虫夏草掘り実況動画。その題材には最適でしょう! と言う事で断面作成動画撮影のために前回の場所をもう一度訪れました。 目星はつけていたのに場所を失念してしまい1時間探し回るハメに・・・。 ■ 2016年10月15日 撮影 興味深かったのは結実部と柄の境界部分。子嚢殻がまばらなんです。 徐々に子嚢殻の分布密度が低くなってゆくって感じで境界は不明瞭。 下の方では密度が低すぎてまるで裸生のような突出具合になってます。 ■ 2016年10月15日 撮影 1時間15分かかりました。泣きそうです。もう二度とやりたくないです。 動画的には面白かったかもですが、私個人は翌日筋肉痛と腰痛に・・・。 ■ 2016年10月15日 撮影 今回注目すべきは何と言ってもこの宿主を覆い尽くしている菌糸です。 ツクツクボウシタケののっぺりした菌糸とは違い、ガビのようにボサボサ。 しかも広がり足りないのか巣穴の壁面をビッシリと覆っていました。 お腹側の白くなっている質感の違う菌糸が子実体に繋がっています。 ■ 2017年10月07日 撮影 あるびの氏をお招きしてのキノコ狩りオフ最終地でのターゲットの一つ。 無かったらどうしようと思っていたら探し始めて5分で見付かりました。 ■ 2017年10月07日 撮影 若いからなのか日陰だからなのか分かりませんが、妙にオリーブ色でした。 ただあるび氏のメインはツブノセミタケ掘りだったのでコチラはサブ。 これも掘りたかったですが、発生数も時間も足りなかったので撮影のみで。 ■ 2018年10月13日 撮影 地元観察会でご案内したウメムラさんです。下見の段階から発見はしていました。 流石にこれを観察会中に掘りとるのはムリなのでそのままにしてもらいました。 8日に参加者さんがもう1株見付けたのですが、それでも今年見れたのは2個体だけでした。 ■ 2018年10月13日 撮影 結実部も十分成熟しているようですし、2本ある子実体のうち1本を持ち帰って顕微鏡観察を行いました。 この発生量だと流石に採取量は抑えたいです。 ■ 2018年10月13日 撮影 子嚢殻は卵形〜洋梨形。大きさはまちまちですが、成熟したものだと500〜600μmの範囲のようですね。 封入時に少し潰してしまったのですが、凄まじい量の子嚢が漏れ出してきてビックリしました。 そりゃ肉眼で見えるくらいガンガン胞子が飛ぶわけだ。 ■ 2018年10月13日 撮影 子嚢1つを切り出してみました。長さは約350μmで図鑑の記載通りでしょうか? ■ 2018年10月13日 撮影 切り出さずに先端部だけを見るために子嚢殻から飛び出した子嚢を撮影しました。 先端の肥厚部とみっちり詰まった子嚢胞子が確認できます。 しかしこれら全部がセミを狙って飛んでゆくワケですから、考えてみれば凄い殺意ですよね。 ■ 2018年10月13日 撮影 子嚢胞子は糸状で二次胞子に分裂します。 ちょうど分裂途中のものがあったのでパシャリ。 本種の子嚢胞子はかなり二次胞子に分裂しやすいので、放出後早めに、かつ衝撃を与えずに封入しないとバラバラになってしまうので注意。 ■ 2018年10月13日 撮影 子嚢胞子をさらに拡大してみました。糸状で長さは300μm前後みたいですね。 やや未分裂の細胞もありますが、数えてみると64個の二次胞子に分裂するのが確認できました。 また両端の二次胞子は弾丸形で少し尖っています。 ■ 2018年10月13日 撮影 二次胞子は円筒形で長さは4〜5μm。セミ目に感染する冬虫夏草としてはかなり細かく分裂するほうだと思います。 まぁジャンル的にはツチダンゴとかに感染する冬虫夏草に近いですからね。ハナヤスリタケなんかのソレに良く似ています。 ■ 2018年10月13日 撮影 8日の段階で参加者さんが発見した超特大の子実体!自分もここまで大きなものは初めて見ました。 と言うかここまで立派なものをなぜ下見の段階で見落としていたし。 ただまぁ成熟した個体はかなり暗色になるので見付けづらいんですけどね、と言う言い訳。 ■ 2018年10月13日 撮影 子実体の大きさはこの子嚢殻の密度を見ればお分かり頂けるかと思います。 何か柄の色が青緑色になっててぶっといので本当にウメムラなのかと疑いたくなります。 あまりにも立派だったので採取もおこがましいと思い拝んでおきました。 ■ 2018年10月14日 撮影 別の観察会にて某氏が発見!どこに居るか分かりますか? ■ 2018年10月14日 撮影 正解は中央やや左に見える黒い出っ張り。 このフィールドでの初発見で大盛り上がり! しかも自分は広葉樹林で見たのは初めてだったので別の意味で驚きました。 ヒノキ林の冬虫夏草と言うイメージがあったので超意外。 聞けば普通に広葉樹林にも居るよとのこと。 京都遠征でも広葉樹林で見たのでヒノキ林限定ってワケでもないみたいですね。 ■ 2020年10月11日 撮影 2019年はいつものフィールドでの発生が見られませんでした。 と言うのも長らく手が入っていなかったのに大規模伐採があったのです。 切られた枝や幹が発生場所に放置され、日光が入って環境が変わってしまったのです。 地面も捨てられた材で塞がり探すことができませんでした。 もうこの場所には出ないかと諦めかけていたのですが・・・。 ■ 2020年10月11日 撮影 まだ居てくれました・・・メッチャ嬉しかったです。 ただ見付けられたのはこの1個体のみ。恐らく同一宿主から出ていると思われます。 来年も発生が見られるか観察を続けたいと思います。 ■ 2021年10月09日 撮影 コロナ禍であまり外に出られませんでしたが、本種だけは出会いたいなと思い晩秋の山へ。 しかし明らかに周囲の雰囲気がキノコシーズンオフな感じで、期待薄でした。 探しても探しても見付からず、今年は出会えないかと諦めかけていたら1個体だけ見付けました。 ■ 2021年10月09日 撮影 あったとは言え流石に成熟し切ってましたね。子実体の色も暗色で胞子を噴出した後のようです。 ただTwitterにて2022年1月末に成熟個体の発見報告があり、度肝を抜かれました。 ひょっとすると冬場でも出ているのかな? ■ 2022年10月15日 撮影 しんや氏をお招きして本種を探す「ウメムラオフ」を決行しました。 私は地元フィールドを誰かに案内する際はボウズを避けるために基本的に下見をしておく心配性。 しかし今回は前週の下見で発見できず、不安が残るまま当日を迎えました。 ところが本来探すはずではなかった場所で5個体も発見!色々と予想外の結果となりました。 ■ 2022年10月15日 撮影 5個体のうち子実体が綺麗で胞子観察できそうな子実体は2個体。内1個体は若干未熟。 と言うことで断面作成に最も向いていると判断したのがこの最も綺麗な子実体でした。 この独特なオリーブ色、実にトリポクラジウムだなぁって外見ですね。 老成すると黒くなってしまうので、この色合が個人的には一番好きです。 ■ 2022年10月15日 撮影 しんや氏に愛用のスコップをお貸しし、断面作成に挑戦して頂くことに。決してSではない。 が、しかし、しばらく掘り進めたところであまりの根の多さに私にバトンタッチ。 採取が目的だったため精密な断面作成は諦め、ある程度土を残した状態で止めました。 しんや氏もその後採取と帰宅後のクリーニングに成功し、オフ会は大成功の内に幕を下ろしました。 ■ 2022年10月15日 撮影 実は今回の場所で最初に発見したのはしんや氏のこの子実体。初見でこれを見付けるとは・・・。 この場所は普段見ている場所からはかなり遠い場所。似た環境はその場所まで続いています。 と言うことはこのフィールド一帯が発生地である可能性が高いです。これは期待が高まる! ■ 2022年10月29日 撮影 京都きのこ展の後で訪れたフィールドでガガンボ氏が発見。 写真は無いですが、前回もこの周辺で見付かっています。 ここはミヤマタンポタケ(関西型)のフィールドで完全な広葉樹林。 地元が針葉樹林ばかりなので凄い違和感あるんですよね。 ■ 2022年11月12日 撮影 地元フィールドを適当に巡ってみました。目的は以前発見したコレラタケと思しきキノコ。 しかし残念ながら時間が経ちすぎて消滅していたので、ついでに本種をチラ見。 もう11月も半ばだと言うのにまだ出ているのか・・・。 ■ 2023年10月08日 撮影 TOP写真に採用した子実体を発見した際に以前しんや氏が発見した場所の近くに子実体発生を確認。 まだオチビさんだったのでそのまま放置しておきました。すると・・・。 ■ 2023年10月21日 撮影 約2週間経って再度訪れてみると、イケメンウメムラさんに成長してくれていました! 置いておいて良かったー。8日の撮影段階では後ろにもう1本子実体があることに気付かず、 帰宅後の写真編集時に気付くと言う大失態をかますも、ピンボケで自信がありませんでしたが、 ちゃんと後ろにも立派なウメムラさんが居ました。合ってましたね。 ■ 2023年10月21日 撮影 手前の子実体を拡大してみました。格好良いですねぇ〜。 断面作成してみたくはありましたが、2本が1個の宿主から出ている可能性が高く、 そうなると断面作成が難しいため断念しました。 ■ 2023年10月21日 撮影 他にも居ないかなと匍匐前進していたら、居ました!まだ若いので綺麗なオリーブ色です。 この色だと目立つので見付けやすいんですが、成熟すると急激に発見難易度上がりますよねコイツ。 これも子実体が2つ見えるので、同じ宿主から出ている可能性がありますね。 ■ 2023年10月21日 撮影 発見時は細い落枝を挟むように子実体が伸びていたので、 枝を取ったらボキッと折れたようなちょっと不格好な形状になっちゃいました。 若めですが子嚢殻はしっかり形成されており、胞子観察するならこれくらいが良いかもですね。 ■ 2023年11月19日 撮影 ガガンボ氏が私と木下氏参加の地下生菌オフにて発見。 時期が遅かったため過熟で真っ黒になっていました。最初はハナヤスリタケかとも思ったんですが、 肉にやや透明感があるのでウメムラで良いでしょう。ハナヤスリはもっと肉質が締まってますし。 |