■Tolypocladium sp. (アマミカイキタンポタケ)

■ 2020年05月24日 撮影

ことの発端は2018年。地元で珍しい黒いツチダンゴを発見したことでした。 K.Y氏にそれを報告したところ、その黒いツチダンゴから特異的に出る菌生冬虫夏草が存在すると教えて頂きました。 それを受けて菌同志の木下氏をお招きして探索を行ったところ、本当に出ちゃいました! 肌色胞子の黒いツチダンゴから発生する激レア冬虫夏草「奄美皆既タンポ茸」です。 「皆既」は奄美大島にて初めて見付かった年に皆既日食が起きていたためだそうです。

本種は掲載時点で初発見された奄美大島、それ以外だと誤同定の福島県と直近の広島県でしか発見例がありませんでした。 その後2020年になって静岡県でも発見されましたが、ソレ以外の発見例はまだ無い模様。それくらいレアです。 しかしこの分布は本種が日本中に広く分布している可能性を示唆しています。


■ 2020年05月24日 撮影

この日は以前からどろんこ氏に頼まれていた標本採取。 初発見は2018年でしたが、2019年は不作で1個体しか見付けられませんでした。 なのでちょっと心配でしたが、この日は中々の発生量で一安心。 子実体は典型的なタンポ型で全体的に黄褐色〜オリーブ色。 古くなると全体的に暗色になるようです。


■ 2020年05月24日 撮影

少し掘ると浅い場所に宿主が見えました。 本種は本属菌としては珍しく、硬質の外皮を持つ黒いツチダンゴに特異的に発生します。 しかも肌色の胞子の種からしか発生が確認できておらず、宿主特異性は確実にあると思われます。 写真では分かりづらいですが、宿主の直径が7mmくらいしかありません。 つまり本種は結実部の直径5mmくらいしかない非常に小さい冬虫夏草なんですよね。


■ 2020年05月24日 撮影

実物を見たどろんこ氏も言ってましたが、宿主に対して大きいですね。 これは他の冬虫夏草でも言えることですが、どこにそんな栄養があるんだってレベルです。


■ 2020年05月24日 撮影

どろんこ氏にお送りする標本だったので、クリーニングはあまりやりませんでした。 水を使って洗浄すると給水による刺激で胞子を放出してしまう可能性があるからです。 結果的には未熟だったようで杞憂に終わりましたが、黒バック撮影はしておきました。 前回の写真があまり良い子実体じゃなかったですからね。


■ 2020年05月24日 撮影

子実体はしっかりとしたタンポ型で、結実部と柄の境界はハッキリしています。 結実部もほぼ完全な球形で、普通のタンポタケをミニチュアにしたような感じです。 子嚢殻は埋生で成熟すると頂孔がやや突出します。


■ 2020年05月24日 撮影

宿主の黒いツチダンゴです。 発生環境や未感染個体の胞子観察から、当サイトの「ツチダンゴ属 No.003」と同定できました。 肌色の胞子を持つ種で、同日に同じツチダンゴから発生する同属未知種も見付かっています。 このツチダンゴ自体はかなり分布が広いので、他の地域でも発生しているのでは? 胞子観察等は初発見時に完遂しているので、今回は必要最低限の採取で留めました。

食うとかそう言う問題じゃないです。採取してサンプル提供をすべきレア冬虫夏草です。 と言うか恐らくレアではなくて普通種の可能性大ですが、とにかく発見例が少ないので分からないことが多いのです。 どうせ小さくて食えたものじゃないので、黒いツチダンゴの発生環境を参考に本種を探してみて下さい。

■ 2018年06月02日 撮影

初めて見付けた子実体です。実は発見したのは木下氏でした。 この段階では本種の存在は知っていましたが、正直「出ればラッキー」くらいのノリでした。 でも「ハナヤスリタケありました!」と聞いて見に行って絶句しました。 木下氏はこの発見の凄まじさが最初あまり実感無かったようで、後からジワジワ来てましたね。


■ 2018年06月02日 撮影

比較的若い子実体を拡大してみました。 この場所はヤマビルが出没するので意識を取られて絞りが調節できてませんね。 まだ比較的若いので結実部が明るい色合いかと思ったら胞子吹いてくれませんでした・・・。


■ 2018年06月02日 撮影

コチラはやや結実部の形成不全を起こしている子実体。 基部に宿主の黒いツチダンゴが見えています。 大きいように見えますが、この子実体で高さが2cmほどしかありません。 タンポ型の子実体を作る菌生冬虫夏草としては極端に小さいですね。 後ろに見える小さい子実体はもはやマルミアリタケみたいです。


■ 2018年06月02日 撮影

1つ目の子実体を掘り出してみました。残念ながら宿主が割れてしまっていたようです。 色合い的に旬は過ぎているようで、恐らく中の栄養は使い果たしてしまったようですね。 コチラは胞子も観察できませんでした。 基部に不稔と思しき幼菌が見えており、1つの宿主から複数出ることもあるようです。


■ 2018年06月02日 撮影

もう一方の子実体も採取しました。コチラは自宅で胞子観察できました。 宿主のツチダンゴが完全な状態で残っていたため資料としてK.Y氏へお送りし、単離培養の後に博物館へ収蔵となりました。 生の状態でお送りし、単離培養も成功したとのことで、色々と明らかになれば良いなと思います。


■ 2018年06月03日 撮影

白バック撮影しました。全体的に暗色なので白背景だと映えますね。


■ 2018年06月03日 撮影

黒バック撮影もしてみました。 宿主のツチダンゴの直径が6mmほどしかないため、いかに小型の冬虫夏草かが分かるかと思います。


■ 2018年06月03日 撮影

結実部の形成不全を起こしているほうの子実体の結実部です。 上手く成長しなかったせいと言うかおかげと言うか、逆に子嚢殻が確認しやすくなっています。 どうやら結実部が出来る途中で虫に侵入されたためこのような形状になったようです。


■ 2018年06月03日 撮影

こちらはしっかりと結実部を形成したほうの子実体です。 子嚢殻の孔口はわずかに突出する程度で、暗色の点となって見えます。 結実部全体に見える孔口の数からも本種の小ささが相対的に分かりますね。


■ 2018年06月03日 撮影

宿主のツチダンゴが割れていたので内部もハッキリ観察できました。 本来内部は粉状で詰まっているのですが、本種に感染したツチダンゴの内部は菌糸状になっています。 他のタンポタケ系でもそうですが、胞子の発達が抑制されるようです。 中がこれだけスカスカと言うことはもう終わりがけかな?


■ 2018年06月03日 撮影

心配だった胞子も無事観察できました。糸状なのは分かるのですがかなり二次胞子に分裂しやすいようです。 短時間で隔壁部から分裂してしまい、このようにバラバラになってしまいました。


■ 2018年06月03日 撮影

乾燥させないようにスライドグラスに胞子が落ちてすぐに水封して観察しました。 子嚢胞子は糸状で多数の隔壁を持っています。


■ 2018年06月03日 撮影

深度合成と画像連結を駆使して1本の子嚢胞子をしっかりと写真にしてみました 子嚢胞子の長さは約400μmで図鑑の記載に有る330〜430μmの範囲に収まっています。 また分裂する二次胞子の数も64個でピタリと一致しています。 また両端の二次胞子はやや尖った弾丸形になっているも注目。 ここまで確認できれば本種と同定できたと考えて良いと思います。


■ 2018年06月03日 撮影

二次胞子も油浸対物レンズで高倍率撮影してみました。 長さは4〜7μm程度で、図鑑の記載にある3.5〜7μmの範囲に収まっています。 二次胞子の長さの差は両端に行くほど長くなるためでしょう。

■ 2019年06月02日 撮影

5月頃からチラチラ下見に来ていましたが、不思議と全然出会えませんでした。 今年はもう出ないのか?そう思っていましたが、時期をズラして来てみたら・・・。


■ 2019年06月02日 撮影

居ました!奥に見える赤っぽいのはダニです。成熟するとかなり黒色になりますね。 やはり気付かなかっただけで前から発生していたようで、発見段階ですでに老菌でした。 ただ今回見付かったのはこの1株だけだったので、採取はせずに放置しました。 貴重なキノコなので観察を続けたいですが、ヤマビルがね・・・。

■ 2020年05月24日 撮影

2020年は初発見以降最も発生量が多い年となりました。 コレ以上フィールドの奥には行けていませんが、来年は人を呼んで探索したいですね。 ここヤマビルもですがイノシシも多いので、独りだと結構怖くて・・・人数が欲しい。

■ 2020年05月24日 撮影

キレイに並んだアマカイコンビ。左が若くて右が過熟って感じですね。 成熟度合いでここまで結実部の質感が変わります。

■ 2020年05月24日 撮影

本種はその小ささと色合いから発見難易度が高いと思っています。 左の大きめの子実体でも地面から1cmほどしか飛び出していません。 ここにあると知っているから見付けられるものの、事前情報無しはかなり厳しいと思います。 やっぱり本種は宿主から探すほうが可能性高そうですね。


■ 2020年05月24日 撮影

左の大きめの子実体はこの日見た中では一番整った形状をしていました。 個人的に大好きな菌生冬虫夏草なので、このフィールドを暖かく見守りたいと思います。 ヤマビルを除けば。

■ 2022年04月28日 撮影

キノコの猛者総勢5名での冬虫夏草オフ。その中でもこの日を代表する発見となったのが本種。 アメジストの詐欺師氏のお手柄でした。 少し前に大物を私に取られて拗ねていましたが、手のひらくるくるドリルでした。 当然ですが新発生地です。しかし環境がウチの地元のフィールドとそっくり! 発見の数分前に私が「地形もコケの種類も同じだ」と発言していたんです。 何か掴めた気がしますね。似た環境に出会えたら探す価値アリです。

■ 2023年04月22日 撮影

いつものように私が突如言い出した冬虫夏草観察会。最初は青fungi氏との2人かな? と思っていたら、しんや氏とめたこるじぃ氏も参戦して何だかんだで大きなオフ会に発展。 その最終目的だったのが昨年春に発見したアマミカイキ。今年も無事見れました。

良く見ると結実部にアリが居ます。狙って撮りました。


■ 2023年04月22日 撮影

大まかな発生ポイントは覚えていたのでスムーズに発見できました。 最初に見付けためたこるじぃ氏に断面作成して頂いたものがコチラ。見事な断面です! 初見の方がばかりだったので、本種のその小ささに戦々恐々としておられました。 黒いツチダンゴから発生している様子が良く分かります。

■ 2023年04月22日 撮影

この日見た一番大きな子実体です。それでも結実部の直径は4mm程度ですが。 昨年はベストシーズンでしたが、今年は胞子を吹き終わったものばかり。 やはり季節が早く進んでいるのかな?

■ 2023年04月22日 撮影

胞子を吹き終わったものが多かったものの発生量は申し分無し! 数多くの子実体を目にすることができました。本当い良いポイントですね。

■ 2023年04月23日 撮影

オフ会の翌日、地元の発生地が気になって連チャン。 心配していましたが今年も居てくれました。しかし幼菌ばかり・・・ウチの地域は遅いのか? 幼菌はこんな感じで結構鮮やかな橙黄色をしてるんですよね。

■ 2023年04月23日 撮影

一番成熟したものでもこの状態。子嚢殻が見えるのはもう少し先ですね。 左側の黒い根に囲まれたのが宿主のツチダンゴです。

■ 2023年06月04日 撮影

十分すぎるほど県外オフにてその姿を見て来た本種。 地元ではヤマビルが多くて敬遠しがちな場所に出るので明日遠のいていましたが、 やっぱ見ないとなと奮い立ち訪問。幸い襲われることも無く無事出会うことができました。 予想通り老成し始めでしたが、良い感じの宿主とのツーショットも撮れましたね。


■ 2023年06月04日 撮影

実は私、状態の良い本種の標本を持っていません。 地元初発見時の宿主が割れたもののみで、それ以外の状態の良いものは全て外部提供しています。 来年もし地元で状態の良いものに出会えて十分な数があれば標本採取しようかな? 今年は何かもう満足しちゃったので別に良いや!
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