★Tolypocladium subsessilis (フトクビクチキムシタケ)

■ 2017年08月05日 撮影

以前富士山でとある外見が似た冬虫夏草を見ていたので気付けましたね。 夏に腐朽材中の甲虫の幼虫から発生する極小の冬虫夏草「太首朽木虫茸」。 虫草の師であるどろんこさんがずっと推していただけに嬉しかったですね。 魅力的な種ですが極めて小型のため発見が難しく、採取もまた難易度高め。

以前はCordycepsだった時代も有りますが、現在はタンポタケと同属菌。 それも少し前まではElaphocordyceps属菌だったんですが、それも変更。 アナモルフは「T.inflatum」。種小名不一致で「ined.」が付いています。 外見はクビナガクチキムシタケに酷似し、以前は混同されていました。


■ 2017年08月05日 撮影

結実部直径は1.5mm程度と極めて小さく、ただの白い点にしか見えません。 これは富士山でクビナガを見てたからからこそ。でなきゃ見落としてました。 色は白色。子嚢殻は半裸生でやや淡い黄褐色。右の白い物体も子実体です。


■ 2017年08月05日 撮影

2つの子実体は頭部と尾部から発生している可能性を示唆していました。 この段階で掘る前からフトクビではないか、と疑う事ができたのは成長か? ノコギリで材ごと切り出して持ち帰り、家で慎重にクリーニングしました。


■ 2017年08月05日 撮影

クリーニングした状態です。ブナ材なので軟らかくて掘りやすかったです。 クビナガは非常に硬いカエデ材なので彫刻刀が必須でしたからね・・・。


■ 2017年08月05日 撮影

結実部はハスの実型で材に貼り付き、内部が太く短いのが和名の由来です。 内部には菌糸に覆われた甲虫の幼虫が。そしてコイツには見覚えが有ります。 黒くツヤの有る外骨格に中ほどが太い胴体。そして二又に分かれた尾部。ブナ材と言う点も共通です。 と言うかこれクチキツトノミタケと同じ宿主ですよね? と言う事は図鑑の記述通りゴミムシダマシ科の甲虫の幼虫で良いのかな?


■ 2017年08月05日 撮影

結実部を拡大してみました。先端が露出した子嚢殻が実に本種らしいです。 本種の厄介な点は子実体が脆いと言う事。簡単に崩れてしまうのです。 なので材を完全に剥がし切る事は私の腕では断念せざるを得ませんでした。

ちなみに子嚢胞子も観察したのですが、顕微鏡の性能が悪く、ちゃんと観察できませんでした。 これは今後の課題としておきます。

食用価値は無いですが、アナモルフは薬用として有名な物質を作ります。 それは臓器移植時の拒絶反応を抑える免疫抑制剤のシクロスポリンA。 ただ本種自体は極めて小型であり、それ目的での摂取は非現実的ですね。

■ 2018年09月09日 撮影

1年後に同じ場所を訪れると、以前見た材には居ませんでしたが少し離れた場所にて無事再会。 ただ発見できたのはコレ1つだけだったので、採取も断面作成もせず子嚢殻数個だけ切り取って持ち帰りました。


■ 2018年09月09日 撮影

結実部を拡大してみました。以前発見したものと比べると成熟が進んでいるようです。 子嚢殻は半裸生で淡黄褐色。以前見たものと比べて濃色で先端が尖っています。 子実体自体は灰白色で、クビナガとは異なり材表面に菌糸が広がらないのが特徴。


■ 2018年09月09日 撮影

子嚢殻が数個しか無いので観察は慎重に行いましたが、無事成功しました。 子嚢殻を潰すと中から子嚢が飛び出してきました。


■ 2018年09月09日 撮影

子嚢1つを切り出してみました。左に見える目盛りは全部で100μmなので約400μmチョイ超えるくらいでしょうか。 すでに内部が凄いことになっています。


■ 2018年09月09日 撮影

長いけどあえて載せますよ。子嚢胞子は糸状で、無数の二次胞子に分裂します。 数えてみましたが二次胞子の数は123個でした。 二次胞子の数は2のn条になることが多いので、本来は128個に分裂するのかな? 確かに短い二次胞子の倍以上の長さの細胞が複数見られるので、未分裂のまま噴出したようです。


■ 2018年09月09日 撮影

二次胞子は長さがややまちまちですが、3〜6μmの範囲内に収まっているようです。 図鑑の表記では3〜4μmとされているので、長さがちょうど倍なので未分裂のものが存在しているようです。 残念ながら標本採取しなかったためアナモルフは観察できませんでした。これも宿題ですね。
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