■Torrubiella sp. (ランノウアカツブタケ)

■ 2016年01月23日 撮影

クモ生冬虫夏草を見付けた沢筋を歩いていた時にクモの卵嚢を幾つも発見。 帰宅後に本種の存在をネットで知り、狙いを定めて探索を行い、無事発見に至りました! まだ仮称扱いですが「卵嚢赤粒茸」と言う和名が現在は付いています。 沢筋をライトで照らしつつ見上げながら歩き、葉の裏に発生を確認しました。 Torrubiella型の気生型冬虫夏草なのですが、 クモの卵嚢に使われる特殊な糸を宿主とする異質な存在のようです。

はたして卵嚢自体が宿主なのか、あるいは中の卵も栄養源なのか、そこら辺も謎に包まれています。 個人的には肉眼的、顕微鏡的なレベルで糸そのものが宿主だと感じています。 日本中でごくごく普通に見られる種なので、是非探して調べてみて下さい。 ちなみに現在は事実上Torrubiella属は存在しないので、この学名は暫定的なものです。

また近年、ヤママユガ科の鱗翅目の繭に発生するCocoonihabitus属菌が発表され、 その生態やマクロとミクロの形態的特徴から、本種も同属菌である可能性が極めて高いです。 その場合、上記の栄養源の謎もハッキリするため、研究が待たれますね。


■ 2016年01月23日 撮影

ジャンプして葉をちぎり取りました。ガのサナギに産み付けたのかな? 何か良く見るとコナサナギタケも発生しているように見えますが・・・。 肉眼ではほとんど分かりませんが、拡大すると見えて来るんですよね。


■ 2016年01月23日 撮影

更に拡大してみました。淡黄色の太い糸は小型のクモの卵嚢と思われます。 中には卵は無し。すでに巣立った後で卵嚢も傷んで来ているみたいです。 ・・・ん?何か表面にオレンジ色のつぶつぶがいっぱい付いているような?


■ 2016年01月23日 撮影

更に更に拡大してみました。そう、オレンジ色の子嚢殻なんです! これこそランノウアカツブタケ。非常に珍しい冬虫夏草なのです。

珍しい理由の1つは本種がクモの卵嚢に使用した糸を宿主としている点。 冬虫夏草には昆虫の幼虫や成虫以外を宿主とする種が複数存在します。 代表的なモノだとツチダンゴ等の地下生菌、ヤマガシュウの実など。 ヤスデの卵やバッカクキンの菌核から発生するような種も存在しています。 ですがこれらは全て生きた宿主に感染していると言う点では共通です。


■ 2016年01月23日 撮影

生態が似た種にカマキリの卵嚢から出るコゴメカマキリムシタケがあります。 コチラも昆虫の生体ではなく生産物を宿主とする珍しい冬虫夏草です。 が、この種はしっかりした子実体の先に子嚢殻を付けた結実部を形成します。 ですが顕微鏡で見ると本種は子嚢殻の土台となる子座が存在しないのです。 つまりクモの糸から直接子嚢殻がズドンと出ているのです。意味不明です。 菌糸も全く張り出していませんし、繊維の中に侵入しているみたいですね。

ちなみに左の方に漂っている糸状の物は分裂した子嚢胞子ですね。

恐らく今まで見てきたキノコの中で紛れも無く単体では最小でしょうね。 今回ばかりは比喩ではなくマジで目に入れても痛くない食不適菌でしょう。 と言うか食ったと言う自覚があったらそれはそれで問題アリかも知れません。

■ 2016年01月23日 撮影

ガガンボ氏、どろんこ氏、いんたー氏をお招きしてのオフ会最大の目的。 それは本種の採取。1ヶ所目で時間を食いすぎ、現地でも中々見付からない! 私は発見、ガガンボ氏も発見、いんたー氏も発見。焦るどろんこ氏。 でも無事発見し、全員が採取できて本当にホッとしましたよ、俺。 ちなみに左から私oso、どろんこ氏、いんたー氏、ガガンボ氏発見分。 実はどろんこ氏のはガガンボ氏が千切った片割れだったと言うオチ。


■ 2016年01月23日 撮影

いんたー氏発見分。均等に子嚢殻が出ている感じが美しい標本ですね。 未熟な子嚢殻は少し丸みがあり、色も黄色で赤みはあまりありません。 そして注目すべきは子嚢殻の色のバラ付き。お分かりになるでしょうか? 子嚢殻が赤みの帯び方、どうやら周辺部から色が濃くなっているんです。


■ 2016年01月23日 撮影

ガガンボ氏発見分。いんたーさんの物より成熟しているので赤みが強いです。 てかこれギンメッキゴミグモよりもっと大型のクモの卵嚢でしょうね。 皆さん持ち帰って追培養にチャレンジするとの事で経過が楽しみです。 比較的高い温度(20℃)の方が低温より成熟が早いみたいです。 生態的にも元々は春に成熟する種なのではないかとの考察がされてます。

■ 2016年04月16日 撮影

あれからかなりの日数が経ちました。まさか出会えるとは思わなかった! と言うか相変わらず小さくてルーペが無いと確認するのは無理ですね。


■ 2016年04月16日 撮影

発見した段階で夕方だったのでマクロレンズでの撮影は困難を極めました。 子嚢殻が鋭角的に尖っています。子嚢胞子が完成している頃なのかな? やはり本種は探す人が居ないだけで、実際にはかなり一般的な種のようです。

■ 2016年06月04日 撮影

正直まだ居るとは思わなかった。結構息が長い虫草みたいですね。


■ 2016年06月04日 撮影

今回は野外で超マクロ撮影に挑みました。絞りとブレとの戦いでしたね。 良く見ると古い子嚢殻の隣に小さな新しい子嚢殻が形成し始めています。 それより気になったのは主脈のようなものが有ると言うことなんです。 子嚢殻を中心に放射状に糸が太くなってますが、これが「宿主」でしょうか? 新たな子嚢殻もその主脈上に形成されているようです。

■ 2018年05月20日 撮影

新しい顕微鏡が我が家に配備されたため本種を見てみたくなりました。 途中道が封鎖されていて山の反対側から回り込むという苦労がありましたが無事発見できました。 やはり時期的には春から夏にかけてがピークみたいですね。


■ 2018年05月20日 撮影

相変わらず何が何だか分かりませんね。アブラムシの抜け殻は見えてますが。


■ 2018年05月20日 撮影

帰宅後にマクロレンズで撮影してやっと湧く実感。 ちなみに右に見える白い塊は何とコナサナギタケ。 顕微鏡観察しようと思ったら分生子だらけで何事かと思っちゃいましたよ。 そう言えば以前もクモの卵嚢内の小さいガの蛹からコナサナギが出てましたね。 クモが先かガが先か。いずれにせよそう言った自然の摂理が存在している模様。


■ 2018年05月20日 撮影

低倍率で子嚢殻を観察。撮影中に子嚢胞子がブワッと吹き出したので焦りました。 子嚢殻は肉眼ではオレンジに見えますが、顕微鏡観察のために少し潰すとむしろ黄色が強いです。 しかし乾燥しているためか水を弾いて撮影が大変だこと。


■ 2018年05月20日 撮影

もう少し倍率を上げて子嚢殻を観察。内部は子嚢と側糸がみっちり。 コレ実は左方向に子嚢胞子が移動しているのがリアルタイムで見えていました。 動画録ろうとも思いましたが、肝心の写真が疎かになったらイカンと我慢しました。


■ 2018年05月20日 撮影

ちなみに子嚢はこんな感じです。 先端に透明な肥厚部があるあたり、やっぱり冬虫夏草なんだなと実感します。


■ 2018年05月20日 撮影

ついに見れました!ランノウアカツブタケの子嚢胞子です!糸状で細長い二次胞子に分裂します。 二次胞子は長さが7〜10μmほど。1つの子嚢胞子が幾つの二次胞子に分裂するかまでは観察できませんでした。 と言うのもignatius氏によると「繋がった状態の胞子を観察するのは至難の業」なのだそうです。宿題だなぁ。

■ 2018年08月11日 撮影

また出会う機会があったので観察ように採取してきました。 内部はクモ関係の残骸はおろかガの蛹が侵入したり、それに更に寄生蜂や冬虫夏草が生えたりしています。 時間経過的にも、やはりクモの糸そのものを宿主と考えるのが妥当な気がします。


■ 2018年08月11日 撮影

今回は「赤粒」の名に恥じぬ見事な色合いの子嚢殻!成熟度合いは十分なようです。 今までで見てきた中では最も濃色ではないでしょうか。 時間経過で白く脱色した糸にこの色の子嚢殻は実に映えますねぇ。


■ 2018年08月11日 撮影

学習しました。今回は水ではなく無水エタノールで封入しています。 表面張力が水の30%チョイしかないため気泡が入らずスッと馴染みます。


■ 2018年08月11日 撮影

子嚢殻を個別に見れる場所を探してみました。子嚢殻は高さが180μm〜240μmほど。 クモの糸の表面に菌糸が這う様子は無く、むしろクモの糸から菌糸が吹き出しているように見える部分が存在します。 また子嚢殻が形成されている部分ではクモの糸が太くなっており、内部が肥大していると考えられます。 クモの糸そのものを宿主としないのであればわざわざ内部に侵入する必要性は低く、このような特徴は不自然だと思います。


■ 2018年08月11日 撮影

ignatius氏にご教授いただいた二次胞子に分裂する前の子嚢胞子の観察に挑みましたが、どうやっても成功しませんでした。 なので最後の手段!成熟した子嚢を取り出し、内部の子嚢胞子を観察すると言う強硬策に。 結果は大成功。子嚢胞子の長さは150μm前後で16個の二次胞子に分裂することも何となく確認できました。 しかし本当に自然放出が難しい・・・これは難易度高いと言う話も頷けます。

■ 2022年08月21日 撮影

久し振りの再会となりました。場所は長さ3.5cmのナンテンの葉裏。 何だかんだ言って大型のクモの卵嚢からの発生が多いのですが、今回はしっかりギンメッキゴミグモ系ですね。 周囲にも小さな卵嚢の残骸が結構あったので、確認すればもっと出ていたと思います。 そのため今回は卵嚢が黄色いので見栄えします。


■ 2022年08月21日 撮影

ルーペで覗いて「おっ?」と思ってすぐにマクロレンズで撮影しました。 今回のサンプルですが、今までと明らかに違う点がありました。 それは子嚢殻が潰れていないと言うこと。 今まで採取したものは発見段階で子嚢殻が潰れているものばかりでした。 そのため胞子を自然放出する力をすでに失っていたと考えられるのです。 でも今回のものは明らかにぷっくりしています。これは行けるかも?


■ 2022年08月22日 撮影

最近になって様々な冬虫夏草で自然落下に成功している方法で葉をスライドガラスの上にセッティングして就寝。 仕事を終えて帰宅し、ルーペでスライドガラスを確認すると薄っすらと見える糸状のもの・・・来た! 顕微鏡を覗いてこの姿が見えた時は思わずガッツポーズでしたよ。


■ 2022年08月22日 撮影

遂に「完全な子嚢胞子の観察は至難の業」とまで言われるランノウアカツブタケの子嚢胞子観察に成功しました! メチャクチャ嬉しいですね。子嚢胞子は糸状で長さは安定して140μm前後でプラスマイナス10μmと言った感じ。 16個の二次胞子に分裂することも予測ではなくしっかりと画で確認することができました。 子嚢胞子が短いので油浸対物レンズでの画像連結も簡単で助かりました。


■ 2022年08月22日 撮影

二次胞子はやや先端の丸い円筒形で先端に近いほど長く、両端の細胞は弾丸型になります。 長さは5〜12μmとかなりの長さの違いがありますが、ここでふと気付きました。 このテの子嚢殻のみの冬虫夏草と言うとアリノミジンツブタケやフタイロスカシツブタケ、 ツブガタアリタケなどが有名ですが、これらはどれも重複寄生菌ばかり。 そしてこれらは全て極めて細かい二次胞子に分裂します。 それを前提に見るとランノウアカツブタケは胞子的には明確な子実体を持つような真の冬虫夏草の1つと言えます。


■ 2022年08月22日 撮影

ここまでの胞子観察結果を頭に入れて子嚢殻をマクロ撮影してみました。 すでに胞子を噴出して萎んでいました。今まで見付けて来たのはこの状態だったのですね・・・。


■ 2022年08月22日 撮影

今まで色んな冬虫夏草の胞子を見て来ましたが、本種の子嚢胞子は冬虫夏草としてかなり進化した物に思えます。 そう思ってこの姿を見ると、必要最低限の構造だけを残して余計なものを取っ払った姿なのかもと思えて来ました。 何気に凄いものを見てしまったのではないでしょうか・・・?

■ 2023年02月11日 撮影

しんや氏との冬虫夏草オフにて氏のリクエストでご案内しました。 見付からないかと思いましたがしんや氏が発見!何とかノルマを達成できました。 そしてこれを見ていて気が付いたのが、右端の切れっ端にも子嚢殻があるんです。 本種は卵嚢内部の卵殻などが宿主として疑われているのですが、 右端の小さな糸の塊にはそれが無いように見えるんですよね。 でもしっかりと子嚢殻が存在してるんですよね。 本体から菌糸が繋がっているようにも見えませんし・・・どうなんでしょう?
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