★Trichoderma cornu-damae (カエンタケ)

■ 2009年08月15日 撮影

京都伏見稲荷を訪れた際に偶然出会えた念願のキノコ。春に毎年行ってたのに! ブナ科樹木等広葉樹林の地上に稀に発生する、見た目通りの「火炎茸」です。 その真っ赤に燃え上がる炎のような外見が最大の特徴。愛好家には人気高いかな? ずっと探していたのですが、発生が少ない種なので出会えるとは思いませんでした。 ベニナギナタタケに似ていますが、肉質が硬いと言う点で容易に区別できます。 2014年にPodostroma属から本属に変更されています。 Hypocrea属に置かれていた時期もあり、かなり頻繁に属名が変わっている印象がありますね。

珍しくこの位置でネタバレするのはページトップにこの内容を持って来たかったためです。 ご存知の方も多いでしょうが、本種は世界でもトップクラスの致命的な猛毒菌です。 毒成分はサトラトキシンHを含むトリコテセン系マイコトキシン類であり、猛毒御三家に匹敵する毒性です。 胃腸系、循環器系、神経系、皮膚・粘膜等、ほぼ全身に重大なダメージを与えます。 重症の場合は多臓器不全を起こして死亡することもあり、実際に死亡事故も起きています。 また運良く一命を取り留めたとしても、脳に後遺症が残る事こと多いようです。 さらに毒素の皮膚刺激性が強く、汁に触れるだけで炎症を起こすことがあるので注意が必要です。

・・・とここまで脅しておいてなんですが、本種が置かれている現状は何ともカオスです。 ネットやメディアでその毒性が広められた結果、見付けたら通報され駆除までされています。 これは行政からの指示によるものが多いのですが、これに対しては 「他の触って炎症を起こしたり食べたら致命的な野生生物はOKでなぜカエンタケはダメなのか?」 と言う当然の疑問が生じませんか? 動物ならマムシやスズメバチ、植物ならウルシやキョウチクトウ・・・危険な自然毒など数え切れません。 しかし彼らは注意喚起の看板は建てられこそすれ駆除はされません。動物に関しては向こうから襲い得るにも関わらずです。 行政からの指示ですので「止めろ」とは言いません。 ただ個人的には上記の問いに納得できる答えを出せる方だけが通報して欲しい、そう願うばかりです。 私はいまだその答えを出せずにいますが・・・。

また本種の皮膚刺激性に疑問を唱えるために意図的に曝露実験を行う方が少なからず居られます。 結論から申しますと極めて危険なのでやめて下さい。 炎症を起こした起こさなかった、なんてことはただの結果論。特に価値も無い、ぶっちゃけどうでも良いことです。 本種の毒素は経皮吸収されます。少量でも毒素は身体に入れるべきではありません。 短時間手に持つくらいなら大丈夫でしょうが、意図して長時間接触することは避けるべきです。


■ 2009年08月15日 撮影

文章にするまでも無いでしょうが、外見的にはまさに「炎」。カッコイイです。 色は赤橙色で肉は硬く、内部は白色。複数に分岐して人の手のようです。 形状は様々で、一本のみが伸び上がったり、分岐が長くなったりと多種多様。


■ 2009年08月15日 撮影

先端はやや色が薄いですね。胞子はこの表面で作られています。分かりますか? 表面に細かな粒々が見えますね。これが埋まっている子嚢殻の飛び出た部分。 成熟するとここから胞子を噴出し、全体が白っぽく汚れたように見えます。

毒性については注意喚起のため致命的な猛毒菌ですと前述しております。 正しい知識を身に付けて、楽しいカエンタケライフをお楽しみ下さい。

■ 2015年07月12日 撮影

最後に出会ったのは何時だったか・・・数年振りに生えた姿を見れました。 実はメールにて同じ範囲を勢力圏にする愛好家の方にタレコミを頂きました。 その方の情報もあって無事人気種のカエンタケに再会できた次第であります。


■ 2015年07月12日 撮影

これぞまさに火炎!燃え上がる炎のような実にカッコイイ形状ですね。 人気がある理由も納得でしょう。ベニナギナタタケとは迫力が別次元です。


■ 2015年07月12日 撮影

ちなみに発生環境はこんな感じ。ナラ枯れの切り株脇に大発生してました。

■ 2015年07月12日 撮影

ちなみにこれがカエンタケの老菌。こうなると全然雰囲気が違いますね。 鮮やかな赤色は消え失せて褐色となり、同じ菌とは思えない色合いに。 また表面に白く積もっている物は本種の胞子。これも危険みたいですね。

■ 2015年07月12日 撮影

触ってみました。その後は様子見してましたが異常はありませんでした。 カエンタケの悪評ですが、実際には軽く触ったり撫でたりした程度では大丈夫のようです。 問題は潰して汁を着けた場合や長時間皮膚に接触させた場合でしょうね。 それでも短時間でも皮膚への接触は避けるべきだと考えます。 一応湿り気を感じるくらいには指で強く摘んでみましたが、案外軟らかいです。


■ 2015年07月12日 撮影

ここからは慎重に。ナイフで切断して断面を撮影!何と内部は白色なんです。 ウチの擬人化娘が白い下着を愛用してるってのはこれに因んでたりします。 赤い断面に細かな点が見えますが、これが本種の極めて微細な子嚢殻です。


■ 2015年07月12日 撮影

表面に思いっ切り寄ってみました。白い粉が子嚢殻から吹き出した子嚢胞子。 この胞子が粘膜に触れるだけでも軽度な症状が出る可能性ありとの説も。 一応この付近にずっと居ましたが健康被害なんて無かったですよー。

■ 2015年07月12日 撮影

本日のベストショット。見た時は叫んじゃいました。何と言う迫力だ・・・。

■ 2016年10月22日 撮影

10月後半だと流石にもうシーズンオフですが、まだ辛うじて出ていました。 ただ流石に生育不良感バリバリで、これ以上は成長しないと思われます。 しかし遂に地元にまで来てしまいました。嬉しいやら嬉しいやらです。

■ 2017年09月24日 撮影

地元のフィールドを管理している地元の自治体が大規模な森の手入れを実施。 その際にナラ枯れ寸前の樹だけ残すと言う暴挙をかまし、見事に荒れました。 結果カエンタケがついにこのフィールドに顔を出すようになってしまいました。 見れるのは嬉しいのですが、冬虫夏草の類に影響が出るのは困るなぁ・・・。

■ 2017年10月14日 撮影

次の観察会までは保つだろうと思い放置しておいた良い感じの子実体です。 残念ながらそれまでの間に降った雨で流された土や枝で壊れてしまいました。

■ 2017年10月18日 撮影

あまりの鮮やかさに息を呑んだ幼菌。見事な真紅のピースサインでしたね。 本種の魅力である赤色は成長や降雨で結構簡単にくすむみたいですね。 なので雨の直後に発生した幼菌はこんな感じで彩度が高いのでキレイです。

■ 2018年09月23日 撮影

今年はあまり良い子実体に出会ってないなと思っていた矢先、ナラ枯れの根元に小さな子実体を発見。 もしかしてと思って周囲を探してみると・・・。

■ 2018年09月23日 撮影

上の写真の子実体の周囲を探して見ると、比較的小型ながら状態の良い子実体を多数発見しました。 そう言えば何だかんだで触るのを遠慮して採取したことがないことに気付いてしまいました。 良い機会ですので採取して顕微鏡観察することに。


■ 2018年09月23日 撮影

この子実体が一番熟してそうだったので、片方のツノを折って持ち帰りました。 あまり大きい標本を持ち帰っても処分に困りますからねコイツ。 その際に当然触っていますが、やはり特に何ともなかったですね。


■ 2018年09月23日 撮影

カエンタケの子実層面を顕微鏡観察してみました。 肉眼での観察でも分かりますが、内部は白色なので透明感があり、あくまでも外皮が赤いだけです。 子嚢殻は埋生で先端部がやや突出しています。子嚢殻内部に並んだ子嚢が透けて見えていますね。


■ 2018年09月23日 撮影

子嚢を観察してみました。内部に無数の子嚢胞子が見えています。 この状態だと分かりませんが、胞子を単独で観察してみると面白いことが分かります。


■ 2018年09月23日 撮影

図鑑によっては掲載されていないことがありますが、実は本種の胞子は2胞子性に見えます。 これ正確には「8つの胞子がそれぞれ分裂して16個になる」なんですね。 本種は以前Hypocrea属に分類されていた時期がありましたが、これはこの属が2胞子性のためです。 ただこの状態が観察されると確かにそうっぽくみえるんですよね。 二次胞子は表面に微細なとげがビッシリ生えています。

■ 2018年10月08日 撮影

地元で観察会があるとのことで事前に調査していたときに発見。 下見段階では撮影せずに観察会当日に撮影しました。 ウチの地域ではナラ枯れが終息気味のようで、本種の発生は目に見て減った気がします。


■ 2018年10月08日 撮影

少し遅かったようで先端部は腐ちてカビが生えてしまっていました。 それでも形状的には及第点。観察会当日も良い被写体になって頂きました。

■ 2018年10月08日 撮影

下見段階では気付かなかったのですが、カビた子実体が出ている幹の周囲にもう1個体居るのを参加者さんが発見! コチラはかなり状態が良いようです。しかし腹立たしいことに出ているのは虚の中。撮影できねぇ! 何でそこから出ようと思ったし。

■ 2019年08月24日 撮影

明らかに大型の子実体に出会う機会が減った気がします。これでも一番大きいヤツ。 何か撲滅運動やってる頃が一番立派なのが見付かってた気がしますね。 ナラ枯れも終息しつつありますし、今後意外とレア菌になっちゃったりして。

■ 2019年08月24日 撮影

非常に綺麗な幼菌を発見!やっぱ若いと色が少し鮮やかかな? これが育ったトコロが見たかったですが、以降このフィールドは訪れませんでした。

■ 2022年10月15日 撮影

この場所は2019年の発見以降、2020年、2021年と発生が途絶え、もう出なくなったと思っていました。 しかししんや氏とのウメムラオフで道中立ち寄った際に発生に再会! しんや氏もこの日別の場所で最初に見ていましたが、より火炎っぽい子実体に興奮しておられました。


■ 2022年10月15日 撮影

この日最初に訪れた場所の子実体は分岐無しの1本立ち。 しかしこの場所はいかにもカエンタケっぽい分岐があり、鮮度もベストコンディション。 被写体としてとても優秀でした。2022年はメディアにて散々悪者扱いを受けた本種。 しかしキノコウォッチャーとしてはご褒美ですよ。 この日はちょうど「きのこの日」だったので、そう言う意味でも良い出会いでしたね。

■ 2022年10月29日 撮影

久し振りの開催となった京都きのこ展。その後で関西型のミヤマタンポタケを見に行きました。 そう言えば展示品にカエンタケが無いのは寂しいなと言う話をしていたので探してみることに。 以前は大量発生していたフィールドですが、最近は全然出ていなかったとのこと。 辛うじて見付かった1個体は無事翌日展示された模様。減ってるんですかね?
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