★Tuber himalayense (アジアクロセイヨウショウロ)

■ 2017年12月23日 撮影

イヴ前日に京都で行った野郎数人が集まりキノコ観察会の最大の目標でした。 以前から展示品などで香りは嗅いでいましたが、自然な姿が見たかった! 晩秋〜冬にかけて公園などの撹乱地のブナ科樹木の樹下に発生する「亜細亜黒西洋松露」です。 海外で「黒トリュフ」と呼ばれている子嚢菌類の仲間です。 近縁種とは言え世界三大珍味に匹敵する香りを持つ種が日本に存在します!

ちょっと長くなりますが、本種の掲載については紆余曲折ありました。

そもそも本種を発見した当時はまだ国内の黒トリュフはイボセイヨウショウロだと言われていました。 また同時にイボセイヨウショウロの学名は以前から「T. indicum」とされていましたが、 国内産は複数種存在する可能性が示され、「sp.」扱いが適当だ、と言う流れだった頃です。 そんな中で見付けた本種ですが、何とそれからたった4ヶ月後にその常識が覆され、 イボセイヨウショウロと本種の2種が存在していることが明らかになったのです。 しかもイボとアジアクロの判別は胞子を見ないと分からないとのこと。 もう標本はその段階で破棄していましたし、そもそも手持ちの顕微鏡では性能的に観察不可。 その後何度も同じ場所を訪れましたが、発見には至りませんでした。

しかもその後の調査でそのフィールドで見られるのは全てアジアクロであるとの情報が。 顕微鏡も一新されて観察可能になったのに標本が手に入らない! イボセイヨウショウロで擬人化までした自分はもう悶々とした日々を過ごすことに・・・。 しかし青fungi氏が何とコロナ禍の中で標本を送って下さいました! そして追熟の後の顕微鏡観察でやっと本種だと同定できました。ありがとうございました!


■ 2017年12月23日 撮影

発見はいち早く地下生菌にハマったガガンボさん。経験の差を感じました。 カシの葉を熊手でどけるとそこには本種の特徴的な外皮がお目見えしました。 本種は地下生菌としては珍しく地表に露出するので発見は比較的楽です。


■ 2017年12月23日 撮影

子実体表面は黒褐色で表面は一面ピラミッド形のいぼに覆われています。 ちなみにまだ地中にある幼菌時は色ムラの有る美しい赤褐色をしています。 これが和名の由来ですね。何か調理器具の肉叩きのあの凹凸面みたいな感じ。

言わずと知れた高級食材の仲間。香りは本家「T. melanosporum」に通ずるものがあります。 ただし味と食感は全くもってダメで、むしろ香りしか価値は無いでしょう。 すでに中国では食用として確立されており、2023年には国内でも人工栽培に成功しました。 香りとしては「海苔の佃煮」と表現されることが多く、海外では珍重される香りですが、 日本人には意外と朝の食卓で馴染みのある香りかも?う〜ん「ごは◯ですよ!」を思い出す! ちなみに本家黒トリュフはもうちょっとガス臭くて海苔っぽさは控え目、 白トリュフはニンニク臭と表現されるので、方向性は全く異なります。

■ 2017年12月23日 撮影

すぐ近くにもう1株ありました。コチラもガガさん発見。間違いなく本日のMVP。


■ 2017年12月23日 撮影

無事2株見付かったので片方をスライスしました。想像以上に硬く力が要ります。 そう、この特徴的な断面を見るために探したと言っても過言じゃないですね。


■ 2017年12月23日 撮影

断面は黒色を下地として白色の筋が不規則に入った大理石模様になります。 パスタの上などに乗っているスライスがまさにこんな模様をシていますよね? この複雑な構造は椀形の子嚢菌類の子嚢盤が折りたたまれた進化の先です。


■ 2017年12月23日 撮影

数は出なかったので薄くスライスした一片を持ち帰り黒バック撮影しました。 感じ的には椀形子嚢菌類をグシャッと手の中で丸めたらこうなった的な感じ。 ウツロイモタケ(青木仮称)なんかがその中間的な姿と言われていますね。


■ 2017年12月23日 撮影

ホント芸術的な模様してますね。黒い部分に子嚢が形成されています。


■ 2017年12月23日 撮影

Canon製の「MP-E65mm F2.8 1-5×マクロフォト」を用いて断面撮影。 撮影時は気付きませんでしたが、写真整理の段になって気が付きました。 何と胞子の入った子嚢が見えるではないですか!これはビックリです! 地下生菌は全体的に胞子が大型ですが、にしてもここまで見えるとは・・・。


■ 2017年12月23日 撮影

本種の胞子はスライドガラスに断面を押し当ててもあまり採れません。 なのでカミソリなどの鋭利なもので断面をガリガリ掻いて採取します。 黒い楕円形の粒が本種の子嚢胞子、それを包む丸い袋が子嚢です。 子嚢内部の子嚢胞子の数は1〜5個の間で変動し一定ではありません。


■ 2017年12月23日 撮影

胞子は黒褐色の楕円形。表面にトゲがある非常に特徴的な姿です。 本家欧州の黒トリュフは網目模様が有あるので全く形状が異なりますね。 アジア産の黒トリュフはトゲを持つので「トリュフ入り〜」と言う商品を検鏡すれば産地が絞れますよ。 ただこ当時所持していた顕微鏡では胞子の表面構造は分からず仕舞いでした。

■ 2021年10月19日 撮影

初めての出会いから実に4年。毎年発見できず、コロナ禍で遠征もできず・・・。 そんな中で青fungi氏が入手したものを提供して頂くことができました! 本当にありがとうございました!まだ未熟で臭気も無いため、生米に埋めて追熟させることに。 どこかでこの方法が言いと聞いたことがありますので。


■ 2021年10月27日 撮影

暫く経ちましたが成熟した時の臭気が無いので、しびれを切らして端っこを少しだけスライス。 案の定ちょっと未熟なので残りは再度生米に埋めておきました。 しかし未熟とは言え本種がアジアクロセイヨウショウロである証拠は掴めました。 ただこの段階ではまだ未熟。もう少しお米の中に居てもらうことにしました。


■ 2021年11月07日 撮影

しばらく経ちましたが以前のような完熟状態になる様子が無く、傷みを感じ始めたので追熟はここで終了。 半分に切断して断面を撮影です。まぁこれだけ熟していれば十分でしょう。


■ 2021年11月07日 撮影

以前の段階でもある程度見えてはいましたが、この倍率でも本種がイボセイヨウショウロではないことが分かります。 しかしあまり成熟してないかもですね。う〜ん環境が良くなかったのかなぁ・・・。


■ 2021年11月07日 撮影

※オンマウスで変化します

本種は胞子表面にトゲがあるのですが、これはイボセイヨウショウロと同じです。 ですが本種の場合、トゲの基部が木の根のように広がり、隣のトゲの同様の広がりと繋がります。 このため部分的に網目模様になるのがアジアクロセイヨウショウロの特徴となります。 深度合成するとトゲが発達していない場合の胞子表面に網目模様があるのが分かります。


■ 2021年11月07日 撮影

上の写真ではまだ未熟ですが、成熟した胞子ではこんな感じになります。 トゲがしっかり見えますが、基部が星型のように見えるのがお分かりになるかと。 これは切り株を上から見た時の根の広がりを想像すると形状が見えて来ると思います。 今回の胞子観察で本種がアジアクロセイヨウショウロであることがハッキリし、胸のつかえが下りました。
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