■Tuber japonicum (ホンセイヨウショウロ)

■ 2019年11月23日 撮影

gajin氏に個人的に案内して頂くハズが、地元観察会の皆様との観察会に発展してしまいました。 しかし遂に出会うことができました国産Tuber「本西洋松露」です。 種小名にも反映されていますが「日本の」と言う意味の学名を持つ親近感の沸く存在です。 樹種を問わず各種林内地上に露出するように発生する大型のセイヨウショウロ属菌です。

本種はジャポニクムグループと呼ばれるセイヨウショウロ属の中の一群に属します。 胞子に特徴があり、国内では本種の他にウスキセイヨウショウロが確認されています。 このフィールドの子実体はDNAレベルまで調査済みなので、自信を持って掲載できますね。


■ 2019年11月23日 撮影

ちょっと遠目すぎるのでもう少し寄ってみました。 ほとんど土に埋もれていましたが、ハケで少し掃除してやるとこんな感じで群生していました。 この場所の植生は基本的には広葉樹ですが、あまり周囲に菌根を作りそうな樹種が見当たらないような。


■ 2019年11月23日 撮影

子実体は不規則な塊状で色は黄褐色〜茶褐色。 やや赤みを帯びているようにも見えます。 子実体表面は平滑で、イボセイヨウショウロのような表面構造は見られません。 一見すると小さいように見えますが、奥は深く埋まっていて見えないだけでかなり大型です。


■ 2019年11月23日 撮影

コロンと取れた子実体を切断してみると、断面には美しい大理石模様が現れました。 これは地下生菌への進化の過程でチャワンタケ型の子実体が内部に折りたたまれた名残りです。 白い筋のような部分が通常の組織で、やや透明感がある部分が子実層になります。


■ 2019年11月23日 撮影

帰宅後に黒バック撮影したものがコチラ。本種の構造が良く分かる写真になりました。 臭気ですが、ややナッツ臭はするものの、どこかエチレンガス臭も感じます。 別の都道府県で採れた同種はまた違った臭いで、爽やかなナッツ臭のみだったりします。 と言うのも、Tuberの臭気は微生物の影響が大きいとされているのです。 今回の場所はあまり良い微生物に恵まれていない、と言うことなのでしょうか? まぁ当然と言いますか、臭気に釣られたのかキノコバエの幼虫が侵入していました。


■ 2019年11月23日 撮影

子実体表面を拡大してみました。平滑ではありますが、やや菌糸状に見えます。 以前見たプベルルムグループの子実体の光沢のある平滑さとはまた異なる印象を受けます。


■ 2019年11月23日 撮影

また本種の子実体はトリュフと聞いて想像していた異常に不規則な形状をしています。 とてもじゃないですが「球体」とは呼べず、ホント「塊」って感じです。


■ 2019年11月23日 撮影

子実体断面はこんな感じです。この特徴的な大理石模様は流石のTuberって感じですね。 ただイボセイヨウショウロのような黒トリュフ系と比べると模様があまり複雑ではないようです。 後述しますが、これについては本種が地下生菌になってまだ比較的時間が経っていないためと考えられます。


■ 2019年11月23日 撮影

もう少し寄ってみました。表皮はかなり薄いようです。 グレバをマクロ撮影していて違和感に気付きました。あれ?これって・・・。


■ 2019年11月23日 撮影

マクロレンズの倍率を上げてビックリ!子実層部分がつぶつぶして見えますね。 コレ何と本種の子嚢なんです!子嚢が大型すぎてマクロレンズで見えちゃうんです! 良く見ると小さな濃色の粒が写っていますが、これが成熟した胞子ですね。


■ 2019年11月27日 撮影

数日追熟させた後、グレバをカミソリで薄くスライスして顕微鏡観察してみました。 黒く見えるのは気泡が入り込んだ子実体の組織。 その周囲を埋め尽くしているラグビーボールのようなものが子嚢です。 良い忘れていましたが、本種はこんな外見ですが立派な子嚢菌類ですからね? 子嚢の中には大きな胞子が1つ。未成熟な子嚢胞子は球体で表面は平滑、成熟時よりも大きいです。


■ 2019年11月27日 撮影

あまり成熟していないようですが、何回もサンプルを取って調べると・・・居た! 所々に濃色のしっかりした胞子が散見されます。一応追熟はできていたのかな?


■ 2019年11月27日 撮影

これが目に飛び込んできた時は感動で椅子から一旦ケツを浮かせてガッツポーズしましたよ。 これこそホンセイヨウショウロの子嚢胞子です!

ここからは情報量が多いのでお覚悟を。 まず子嚢ですが、本種の子嚢は他のセイヨウショウロ属のグループと比べて細長いです。 「いや、丸いだろ」とお思いかもですが、他のグループはほぼ球形です。 本種は子嚢自体に基部と肥厚した頂部が分かる程度にはまだ子嚢本来の形状を残しています。 これはまだ長細かった頃の子嚢の名残りだと考えられます。 また他のグループと比べて子嚢内部の胞子数が少ないことも特徴でしょう。 本種はせいぜい1つの子嚢内部に入っている胞子の数が1〜2個ですし。


■ 2019年11月27日 撮影

そしてこの子嚢胞子の美しさを見て下さい! ジャポニクムグループの最大の特徴は胞子が成熟しても淡い色のままと言う点です。 他のグループは多少なり濃い色合いになりますが、本種は完全に成熟しても淡黄褐色のままです。 直径は50μmとかなり大型で、表面に隆起した網目模様が存在します。 まるでハニカム構造のようになっており、ヤマビルの卵嚢を連想させます。


■ 2019年11月27日 撮影

もう1パターンで深度合成してみました。本当に美しくて惚れ惚れします。 濃い色合いになる胞子に比べるとインパクトに欠けますが、個人的にはこの地味さが和風で好きですね。 日本っぽい的な?何よりもこの表面の網目が本当に美しい!完全な球形なのもポイント高いです。

一見すると白トリュフのようにも見えますが、残念ながら現状では食毒不明です。 先に述べた通り臭気の原因は細菌などの微生物に影響されるようで、あまり食すべきではないのかも知れません。 臭気の良いものはナッツのような爽やかな香りを持つので、もしかすると食用価値があるかもですね。


■ 2019年12月01日 撮影

継続観察したくて追熟させていましたが、流石に傷みが激しく悪臭を放ち始めました。 ルーペで見ると表面は腐り始めてセンチュウの巣に。カビも来ていたので限界と判断しました。 まずは切り出した子嚢です。やはり球形ではなく細長い子嚢の名残りが見られます。


■ 2019年12月01日 撮影

成熟途中の子嚢胞子を発見しました。胞子の周囲に網目状の構造ができつつあります。 こうしてみるとかなりの厚膜ですね。


■ 2019年12月01日 撮影

やっと見れました胞子2個入りの子嚢です。これ以外にも多数見られました。 ジャポニクムグループは国内だと本種とは別にウスキセイヨウショウロが存在します。 ウスキは子嚢内部に胞子が1つだけ入っていることが多いとされます。 ただ胞子の網目がもっと粗いので、胞子だけ見ればホンセイヨウショウロでした。 本種は胞子2つの子嚢が多いとのことなので、成熟時の気候条件とかが影響するのかも知れません。

■ 2019年11月23日 撮影

少し離れた林道脇に転がるように発生していた別の個体群です。 一応これも同種であることが確認済みですが、最初に見た場所のものより全体的に小型ですね。 奥にももう1株写っています。今年は大発生だったようです。


■ 2019年11月23日 撮影

かなり小型の子実体。表皮が薄いためか内部の構造がうっすら透けて見えているようです。 あまり土には埋まっておらず、地上に露出しているものがほとんどでした。 ただ小さいように見えて地下部は大きいので、簡単には抜けません。

■ 2019年11月23日 撮影

最初の場所に戻ってパシャリ。分かりづらいですがかなりの数が発生しています。 野生動物に胞子散布を手伝ってもらっていると言われるだけあって、どこかしらが齧られています。 今回は胞子観察を確実に行うため、一番左の小さめの個体を採取しました。が・・・。


■ 2019年11月23日 撮影

左のキレイな部分が地表に出ていた部分。何と大部分は地下に埋もれていました。 そして画面中央を見ても分かるように、撮影中にキノコバエの幼虫が這い出してきました。 もうこの段階で嫌な予感しかしなかったワケですが・・・。 と言うか掲載する段になって写真を見返すと侵入跡だらけじゃねーか!


■ 2019年11月23日 撮影

知ってた。まぁそうなりますわな。内部はほぼ完全に食い尽くされていました。 褐色の部分には胞子は全く見られず、キノコバエはあまり胞子散布には役立たないのかな?


■ 2019年11月27日 撮影

コチラも数日間追熟した後に顕微鏡観察してみると、ちゃんと成熟した胞子が見れました。 しかし図鑑で書かれているように2つ以上の胞子を含む子嚢は1つも見られませんでした。 そのためウスキセイヨウショウロの可能性も疑いましたが、DNA検査済となるとそれも無いでしょう。 そもそも胞子表面の網目の密度的にはホンセイヨウショウロで良いと私も思いますし。 何とか他のフィールドで発見したいですね。
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