■Vibrissea flavovirens (ヴィブリッセア フラヴォヴィレンス)

■ 2020年05月03日 撮影

2018年にこの場所で発見。その後ほぼ同じ場所で同じ時期に出会うことができました。 水に浸った広葉樹材に見慣れない色と形の子嚢菌類を発見しました。 発見当初はミズベノクズダマタケだと思って大はしゃぎしましていました。 しかし帰宅後の胞子観察で別種と判明!と言うかそもそも別属だし色が全然違いましたね。 和名はまだ存在しませんが、こう見えてピンタケ属の珍しい水生キノコです。

外見が似た同属菌に本種よりも有名なキイロヒメボタンタケが存在します。 ただコチラは子嚢盤の形状や胞子の長さが異なります。 ピンタケ属は海外だと本種似の平たい種が他にも存在します。区別が難しいですね。


■ 2020年05月03日 撮影

少し寄ってみました。子嚢盤の直径は大きくても2mmほどとかなり小さ目。 一見するとただの黄色いチャワンタケのように見えますが・・・?


■ 2020年05月03日 撮影

材が濡れているので青空を反射してしまって撮影しづらい! 本種は茶椀形ではなくボタン形で厚みがあります。 子実層面は黄色で水に濡れているほど色が鮮やかなように見えます。 ちなみに種小名の「flavovirens」は「黄緑色の」の意味ですが、緑要素は見当たらないなぁ。


■ 2020年05月03日 撮影

顕微鏡観察用に持ち帰ったものを黒バック撮影。 水に浸して持ってきたのでビッチャビチャです。


■ 2020年05月03日 撮影

拡大してみると子実層面が少し白い粉を吹いたようになっています。 これは初発見時にも見られましたが、噴出した子嚢胞子が塊になったものです。 この現象は本種では結構見られるっぽいですね。 そして本種がピンタケ属なんだなと感じる特徴、分かりますか?


■ 2020年05月03日 撮影

実は本種には柄があるのです。しかも子嚢盤の外側が褐色なのです。 しかも基部付近はもっと色濃く粗毛状で、ピンタケそっくりなのです。 形状が違いすぎてピンと来づらいですが、潰れたピンタケだと考えると分かりやすいかも?


■ 2020年05月03日 撮影

子嚢盤の外側が分かりやすいようもう少し拡大してみました。 褐色の表皮は細かくひび割れて模様のようになっています。 キイロヒメボタンタケは明確な柄を持たず、子嚢盤の外側が材に貼り付くのでこのような形状にはなりません。


■ 2020年05月03日 撮影

メチャクチャ綺麗に子嚢盤全体の切片が作れたので低倍率で顕微鏡観察してみました。 こうして断面を見ると境界から柄としての組織が存在することが良く分かります。 また子嚢盤外側の褐色の組織が形成される範囲も一目瞭然ですね。


■ 2020年05月03日 撮影

これが本種の子嚢盤の外側が褐色に見えていた正体です。 表面に褐色の細胞が並んでおり、非常に細かくひび割れていたのですね。 顕微鏡でこの細かなひび割れってことは相当ですね。


■ 2020年05月03日 撮影

子実層を観察して思ったのは全体的に子嚢が細いと言うことです。 チャワンタケ型の子嚢菌類なら子実層の厚み300μmなんてのは普通です。 ですがこの倍率なら子嚢やその中の子嚢胞子がもっとハッキリ見えるハズなんです。


■ 2020年05月03日 撮影

その理由がコレ。これも本種がピンタケ属である証拠ですね。 本種の子嚢胞子はまるで冬虫夏草のような糸状です。 またピンタケは1本のままで分裂しませんが、本種は複数に分裂します。 子嚢胞子の長さはバラバラですが、長くても200μmほどでキイロヒメボタンタケよりも短いです。


■ 2020年05月03日 撮影

これは初観察時には気付かなかった特徴ですね。 油浸対物レンズで観察すると隔壁を生じ、そこから分裂することが分かりました。 長さはバラバラですが、大抵は20〜30μ。3回分裂が起きて1/2→1/4→1/8の長さになります。


■ 2020年05月03日 撮影

メルツァー試薬でアミロイド反応を確認してみました。 初発見時にもやったんですが、子嚢が細すぎで当時技術では観察できませんでした。 子実層直下の組織がアミロイドみたいで薄っすら青く染まっています。


■ 2020年05月03日 撮影

前回見た最大倍率ですが、うーん・・・こりゃ分かりませんね。 ただ一見すると非アミロイドのように見えます。 でもあれれ?確かピンタケは頂孔アミロイドだったはずでは? ちなみにこうして見ると側糸が子嚢よりも25μmほど長いんですね。


■ 2020年05月03日 撮影

てことで油浸対物レンズの出番です。 あー!メッチャ弱いけど頂孔アミロイドですね。メッチャ微妙ですけど! これ肉眼での観察では気付けないのでは?

流石に無毒でしょうが、あまりにも小さいので食用価値無しです。 ピンタケに比べると発生頻度は低いようで、めったに見かけません。ややレア? 顕微鏡観察すると面白いので見付けたら是非検鏡してみて下さい。

■ 2018年05月05日 撮影

チャワンタケ大好きアメジストの詐欺師氏との春の子嚢菌類オフ。 最大の狙いはカンムリタケでしたが、まさかの出会いにビックリ! 言うてこの時は別種だと思ってたんですけどね。


■ 2018年05月05日 撮影

若い内はくすんだ色合いですが、成熟すると鮮やかな色合いになります。 この段階で子実層面に付いた白いホコリのようなものを意識すべきでしたね。 本種の特徴の1つなので。


■ 2018年05月05日 撮影

これを撮っていなかったら危なかった! 特に何も考えずに側面から撮影したこの1枚が大きなヒントでした。 そう、これピンタケのように暗色粗面の短い柄があるんですよね。 まさにピンタケを押し潰したかのような形状。 キイロヒメボタンタケは子実層面の縁部が材に貼り付く点でも異なるとされていますし。


■ 2018年05月05日 撮影

これが顕微鏡を覗いて「あれ?」と思った光景。胞子が糸状なんです。 この段階ではミズベノクズダマタケだと思い込んでいたので俵形じゃなくてビックリ。


■ 2018年05月05日 撮影

ここでピンタケ属菌だと気付き、キイロヒメボタンタケを疑いました。 しかし子実層を観察してまた「あれ?」と思いました。 側糸の枝分かれが激しいのです。キイロヒメボタンタケってここまで頻繁に分岐したっけ?


■ 2018年05月05日 撮影

ここで最低倍率で側糸を見ていた時に違和感をおぼえました。 少し前にピンタケを見ていたから違いに気付けましたね。 確かに糸状の子嚢胞子なのですが、なぜか途中で折れているものが多数存在するのです。 水封しただけでこんなに綺麗にポッキリ折れるものなのでしょうか?


■ 2018年05月05日 撮影

そして調べてやっと子嚢胞子が分裂すると言う本種に辿り着きました。 糸状の子嚢胞子が半分に、その半分がまた半分に・・・と言う塩梅です。 また最も長い状態の子嚢胞子でも200μm前後であり、250μm以上のキイロヒメボタンタケよりも短いことが判明。 ここまでの情報でほぼ本種である確信が得られました。


■ 2018年05月05日 撮影

メルツァー試薬での染色結果です。 気になるのは子嚢や側糸ではなく基部の細胞が青く染まっていること。どうなってんの? ちなみにこの時は油浸対物レンズ封印中だったため、子嚢のアミロイド反応は観察できず。


■ 2018年05月05日 撮影

顕微鏡観察のために持ち帰った標本を少し乾かして黒バックで撮影してみました。 野外では分かりませんでしたが子実層面は凸凹しているんですね。 幼菌はピンタケと同様に淡色で、透明感のある半球形です。 垂生キノコと言えばピンカンムリミズベノニセズキンがメジャーなので本種は見付けるとちょっと得した気分。
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