■Zelleromyces sp. (チチショウロ)

■ 2023年11月19日 撮影

地元で出ないんですよね・・・初邂逅の2019年も菌友との地下生菌遠征時でした。 晩秋から冬にかけて広葉樹下に発生する「乳松露」です。 普通種だ普通種だと言われるワリに地元で見たことが無く、出会えると嬉しい地下生菌です。 ちなみに和名に「ショウロ」とありますが、ショウロ属とは無縁であり、 ワリとチチタケ属菌から進化したと言うのが肉眼的に分かりますよ。

大事なお知らせ。本種はLactarius属に含めるべきと言う考え方が現在は主流となっております。 と言うのも分子系統解析の結果そのような結果が出たのです。なので「L. sp.」とすべきか迷いました。 実際、海外の図鑑でもすでにベニタケ科の地下生菌がRussulaとして掲載されていたりします。 ただ英語Wikiにもあるように現在の属名は定着して使用され続けており、当サイトでもこのまま掲載することにします。 チチタケ属であると言う認識が定着するまではこの属名で掲載する予定です。


■ 2023年11月19日 撮影

子実体は地下生菌らしい類球形で、色はチチタケそっくりな黄褐色。 ワリと彩度の高いオレンジ色なので、かなり視認性が高いです。 地下生菌と言うジャンルですが、地上に露出していることが多いそうです。


■ 2023年11月19日 撮影

このフィールドで出会ったチチショウロに驚かされたのがその大きさ。 何と直径5cm!記載にある最大サイズの子実体が多数見られました。 ここまで大きいのは本種を見慣れていると言うガガンボ氏も驚いていました。


■ 2023年11月19日 撮影

子実体を1つ切断してみると本種の最大の特徴が良く分かります。 和名にも「乳」とあるように、外皮にあたる部分から白色の乳液が染み出すのです。 新鮮な子実体だと滴るほどの量の乳液が出て来るのでビックリしますよ。


■ 2023年11月19日 撮影

ちなみに本種は上でも太字で書きましたが「外皮にあたる部分」からしか乳液が出ません。 にも関わらずなぜか子実体の中心部分からも乳液が染み出しています。 どうやらこれ発生段階で2個の子実体が癒着したっぽいですね。それで大きいのか!


■ 2023年11月19日 撮影

拡大してみるとこんな感じ。胞子を形成する部位であるグレバは小腔室だらけの迷路状。 未熟な状態だと白色ですが、成熟するとオレンジ色に変化します。 また子実体の地面側には柄の名残の無性基部が存在します。 本種はチチタケと並べると色も似てるわ乳液も似てるわで地下生菌を学ぶ上でとても優秀な教材ですね。 ちなみに以前胞子観察は済ませているので、今回は採取せず、詳細は後述です。

食毒不明です。学名すら合ってるか分からないような状態ですからね。 香りはそこまで悪くないんですが、食用として人気のあるチチタケの食用価値は引き継いでいない模様。 ちなみに食べたと言う方曰く「クソ不味い」だそうです。

■ 2019年12月29日 撮影

2019年の年末に行われた親しい若手キノコ屋忘年地下生菌オフにて参加者の木下氏が発見しました。 参加者のガガンボ氏は地元で見慣れているとのことで羨ましい限り。 今回は半分に割ったサンプルを頂けたのでしっかりと観察することができました。


■ 2019年12月29日 撮影

子実体は整った球形で表面は茶褐色で結構派手な色合いです。 図鑑で見るものはもっと黄色みが強いように見えますが、単なる写真写りかな?


■ 2019年12月29日 撮影

掘り起こしてみました。実は今回も上の写真が自然な発生状態であり、地上に露出していたそうです。 地面から取り外したものを裏返してみると、確かに裏側は黄色っぽいですね。


■ 2019年12月29日 撮影

結果は知ってはいましたが、やはり切断した時の衝撃は大きかったです。 和名の通り傷付くと表皮から白色の乳液を染み出させました。 ショウロがヌメリイグチに近縁なのと同じで、 本種はチチタケの性質を残したまま地下生菌に進化したのが分かりやすいですね。 遺伝子のデザイン能力の凄まじさを思い知らされます。


■ 2019年12月29日 撮影

拡大してみるとこんな感じ。内部のグレバは空間が多いので、見た目以上に軽いです。 また、持っていると菌臭に混じってほのかに果実臭のようなスッとした香りがします。 これが本種の特徴の一つです。この臭気は密閉ケースに入れておくと明確に感じ取ることができます。


■ 2019年12月29日 撮影

半分に割った片割れを頂くことができたので帰宅後に黒バック撮影してみました。 この時何かデジャヴュを感じるなと思ったのですが、その正体が判明しました。 ミヤマコイシタケです。色もサイズも違いますが、断面の雰囲気が似ていると感じたのです。 思えばミヤマコイシもベニタケ科に近縁な地下生菌。あながち間違いでも無さそうですね。


■ 2019年12月29日 撮影

表皮は茶褐色で彩度が高いので結構派手に見えますね。 図鑑だと平滑と書かれていますが、トゲやイボが無いと言う意味で実際には少し毛羽立ったように見えます。 成長度合いによっては表皮が亀甲状にヒビ割れて鱗片状になっている部分も多いです。


■ 2019年12月29日 撮影

帰宅段階では現地で染み出していた乳液は乾いていました。 なので切れ味の良いカミソリで薄く断面を削いでみると、また乳液が出て来ました。 下方に見える少し凹んだ部分が本種の基部にあたります。


■ 2019年12月29日 撮影

グレバは迷路状の小腔室で満たされ、色は黄色。 未熟時は白色ですが、成熟すると最終的にはオンレジ色〜褐色になります。 マクロレンズでもある程度小腔室内壁に胞子が形成されているのが分かりますね。


■ 2019年12月29日 撮影

チチタケ属と言えば表皮もですが、ひだからも乳液が出る印象があります。 しかし本種が乳を出すのは表皮のみで、ひだの名残りであるはずのグレバからは明確な乳の染み出しは見られません。 もしかすると肉眼では分からない程度には出ているのかもですが、ちょっと不思議な気がします。 乳液に何かしら外部からの障害を遠ざける性質があるのであれば、内部のグレバには乳液を出す性質が不要なのでしょうか。


■ 2019年12月29日 撮影

さぁ!地下生菌と言えば顕微鏡観察だ!まずはグレバをスライス!


■ 2019年12月29日 撮影

小腔室内壁には担子器がビッシリ並んでおり、このようにビッシリと担子胞子が形成されています。 担子菌類の胞子としては極端に大きいのは風による胞子散布を前提としていない証拠です。


■ 2019年12月29日 撮影

見てみたかった担子器も無事発見できました。2胞子性ですね。 本種は担子菌類なので当然担子器が存在しますが、胞子を作り終えたらその存在は邪魔。 担子器は写真のように萎んで消滅してしまうので、探すのがワリと大変です。


■ 2019年12月29日 撮影

チチショウロの担子胞子です。大きいものだと10μmを超えますが、小さいものだと6μmほどあります。 比較的整った胞子の形状をしている担子菌類にしては胞子サイズに倍近い直径差があるのですね。


■ 2019年12月30日 撮影

深度合成を行った本種の担子胞子です。綺麗な球形で表面に棍棒状のトゲがあります。 この見た目もベニタケ科に近縁とされているコイシタケやミヤマコイシタケに似ていますね。 まぁ地下生菌の仲間には球形でトゲを持つって胞子の種が多いんですけどね。適した形状なんでしょうか?


■ 2019年12月29日 撮影

深度合成を行わず、胞子の内部にピントを合わせると、内部に大きな油球を1つ内包していました。 しっかし顕微鏡写真ばっかになっちゃうなぁ・・・地下生菌は仕方無いっちゃないんですけど。


■ 2019年12月30日 撮影

でも本種は顕微鏡観察の甲斐がある地下生菌なのは間違いありません。 そう、チチタケ属はベニタケ科。ベニタケ科と言えばメルツァー試薬を試さなくては! これもミヤマコイシタケで体験済みだったのですが、やはりこの姿を見れると嬉しいですね!


■ 2019年12月30日 撮影

ベニタケ科の胞子は胞子表面の構造がアミロイド反応を示すと言う性質があります。 コイシタケは例外ですが、ミヤマコイシタケでもトゲの先端が青く染まる様子を観察できます。 本種はと言うと胞子全体、特にトゲが強く青く染まるのです。 本種が地上生の見慣れたベニタケ属菌から進化した証拠をご自宅で見れるなんて良い時代になったモンですわ。


■ 2019年12月30日 撮影

キレイに染まった部位があったのでオマケにパシャリ。 幸せな顕微鏡観察でした。標本提供をして下さった木下氏、ありがとうございました。 普通種だそうなので地元でも頑張って出したいですね。

■ 2023年11月19日 撮影

試しにカッターナイフで表皮を切り付けてみましたが、想像していたより乳液が少ないですね。 肉質がしっかりしすぎていて、傷付いても組織が密着していて乳液が出にくいようです。 その辺はユルユルのチチタケとは違いますね。

■ 2023年11月19日 撮影

2023年の地下生菌オフで大群生に出会うことができたのでTOP写真を差し替えることができました。 この場所は数もですがサイズも凄まじく、理想的な発生状況を見れてしまった気がします。 逆にハードルが上がりすぎな気もしますが・・・。

■ 2023年11月19日 撮影

野良スイセンの根本に異様な物体。埋もれているので分かりづらいですが多分直径6cmくらいあります。 今回の発生地は本当に素晴らしい子実体ばかりで、撮影し甲斐がありました。 発生環境も凄い普通で、それこそどこにでもあるような広葉樹林でした。 ウワサでは中部以東では珍しいと聞きますので、何とか地元でも見付けたいものですね。
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