■Byssonectria sp. (ビスソネクトリア属 No.001)

■ 2022年02月05日 撮影

春の菌生冬虫夏草を探しに訪れた地元の雑木林。広義のアミメツチダンゴが大群生する場所です。 そこでこの時期には珍しい大規模な盤菌の群生を発見しました。 暗色に朽ちた腐植やその周囲の地上に発生しており、派手な色ですぐ分かりましたね。 しかし発見段階では未熟で正体が分からず、翌週に再訪問してようやく正体が判明しました。 海外では見付かっていますが、国内では属そのものがほとんど見付かっていない珍しい子嚢菌類です。

タイムリーなことにこの数ヶ月後の2022年5月に国内で本属菌初発見および新種記載の論文が発表されました。 そこでは「B. cartilaginea (シロシトネチャワンタケ)」が紹介されています。 現状国内ではこれ1種のみの報告なのですが、発生状態や顕微鏡観察結果に相違が見られました。 結果的には海外では一般的な「B. terrestris」が最も特徴に合致します。 ですが国内未報告と言うことと、自分の知らない別種の可能性アリと言うことで不明種扱いでの掲載としました。


■ 2022年02月05日 撮影

先週発見した段階ではまだ未成熟でしたが、1週間後に訪れるとビンゴ!成熟段階は完璧でした。 本種のような小型の子嚢菌類をわざわざ追って観察したのは初めてではないでしょうか? それだけ初見段階で違和感があったと言うことなんですけどね。


■ 2022年02月05日 撮影

子嚢盤は最初オオゴムタケのような厚みのある椀形ですが、成長すると子実層面はほぼ平らに開きます。 子実体の色は橙黄色ですが、何かの原因で上手く成長しないものは飴色になるようです。 それよりも注目すべきは基部ですね。


■ 2022年02月05日 撮影

そう、本種の基部にはコキララタケやタケリタケのように菌糸マット(スービクル)が形成されるのです。 小型の子嚢菌類でここまで明確なものを形成する種は心当たりが無かったので違和感が凄かったです。 最初は安直にクモノスアカヒゲヒナチャワンが属するArachnopeziza属菌を疑いましたが・・・。


■ 2022年02月05日 撮影

帰宅後にマクロレンズで撮影してみました。やっぱり見慣れない雰囲気です。


■ 2022年02月05日 撮影

見慣れないと感じる理由はこの子嚢盤の外見です。色は見慣れたオレンジ系の黄色ですけどね。 まず子嚢盤の形状ですが、厚みがあって子実層面がほぼ平らになるあたりティンパニみたいです。 そして本種の子嚢盤最大の特徴と思えるのが縁部の白い付着物です。 まるでイタチタケの傘周囲のつばの名残りみたいな見た目です。恐らく開く際の外皮の名残りでしょう。


■ 2022年02月05日 撮影

どんぐりの殻に広がるスービクルですが、コレを見るに比較的薄く広がっている印象です。 またArachnopeziza属菌の菌糸はもっとフワフワしており、子嚢盤の側面にもっと這い上がります。


■ 2022年02月05日 撮影

顕微鏡観察開始です。今回は属レベルで珍しいので、しっかりと構造を見ます。


■ 2022年02月05日 撮影

まずは子嚢と側糸を切り出してみました。 子嚢は長さ200μm前後で安定、8個の子嚢胞子を一直線に並べます。 側糸は基部が切れていますが隔壁ありで分岐無し、長さは子嚢とほぼ同じ。 特徴的なのは先端がカールし、先端付近に色素を含有することでしょうか。 この辺の特徴は本属菌だとほとんど同じです。


■ 2022年02月05日 撮影

子嚢胞子は紡錘形で長さは最大でも18μm。ここがちょっと引っかかりました。 内部には複数の内包物が見られますが、両端に大き目の油球が1個ずつ配置されているものが多いです。 結論から言いますと、本種の胞子はちょっと他の種に比べて小さいなと言うことです。


■ 2022年02月05日 撮影

メルツァー試薬でのアミロイド反応もチェック。 これは論文通りの非アミロイドで青くなりませんでした。 ただ先端付近が少し褐色に染まっているようにも見えます。

ここで考察ですが、海外で代表的な本属菌の種小名は「fusispora」「terrestris」の2種。 そして今回国内で発見された「cartilaginea」を加えた3種で検討します。 ただ海外2種はそもそも同種である可能性も指摘されていて、ますます「sp.」扱いが良い気もして来ます。 まず初めに、今回見付けた種はこれら3種に比べて胞子サイズが若干小さいと言う疑問が残ります。 「terrestris」が若干範囲的に含まれていますが、残り2種は25μmに達するので考えにくいです。 次に「cartilaginea」ではないと判断した理由ですが、それはスービクルの厚みです。 「cartilaginea」は糞生の性質が強い上にスービクルの厚さが2mmにも達します。 今回見付けたものは排泄跡の可能性はありますが森林性に見え、スービクルもかなり薄いです。 このため少なくとも「cartilaginea」ではないなと言うのは判断できたと思います。

正体不明ですので食毒不明です。そもそも小さすぎて食えるものではありません。 加えて本種は動物の排泄跡に出るものが多いです。そんなもの、食べたいですか?


■ 2022年01月29日 撮影

初発見は1週間前。こんな寒い時期にこの規模の群生とは珍しいと驚いたものです。 ただこの時は未熟のため、属名を疑うこともできませんでした。 本種に見覚えがあるなと思ったのは翌週の2月5日のこと。 海外の図鑑「Fungi of Temperate of Europe」で見覚えがありました。


■ 2022年01月29日 撮影

上から見るとこんな感じ。最初は盤菌だと思いませんでした。 でもこの発生の仕方はちょっと不自然かな?放尿跡の可能性はありますね。 海外で森林性と呼ばれているものも、この可能性がありそうです。


■ 2022年01月29日 撮影

最初は盤菌だと思えなかった理由はコレ。子実層面が綿毛状の膜に覆われているのです。 ハラタケ型で言うことろの「膜質のつば」ですね。なので最初は球形だと思いました。 良く見ると膜が裂けて子実層面が見え始めており、ここでやっとチャワンタケだと気付きました。 椀の周囲に残っていた白い残骸はコレだったんですね。
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