■Caloscypha sp. (キチャワンタケ属 No.001)

■ 2019年03月09日 撮影

スギ林のキノコを探していて発見。以前にも同じ時期に似たキノコを見たことがありました。 いわゆる「スギ林のキチャンタケ」と呼ばれているもので、早春のスギ林では普通に見られます。 顕微鏡レベルでの違いがないためキチャワンタケとされていますが、あまりにも外見的特徴が違います。 このたび別種として良いと判断する機会があったため、不明種扱いで別種として掲載しました。

キチャワンタケは通常早春のモミ林に発生し、比較的大型で変色性を持ちます。 現状別種とする基準がないため、分かっちゃいるけど混同してるって状態ですね。 もし和名が付くならスギノキチャワンタケみたいなのが分かりやすくて良いなぁ。


■ 2019年03月09日 撮影

子実体は椀形で鮮黄色。子嚢盤は薄く、基部には柄はほとんどありません。 大きいものでも直径1cm以下とかなり小型ですが、黒く腐ちたスギ林地上にあると良く目立ちます。 注目すべきはキチャワンタケ特有の子嚢盤外面の青変性がほとんど無い点です。 ごくわずかに青くなったかな?と思える子実体もありますが、ハッキリ言って誤差範囲。 子実体のサイズも変色性も発生環境もここまで違えば流石に別種でしょう。


■ 2019年03月09日 撮影

子実層面を顕微鏡観察してみました。まぁココら辺はキチャワンタケと同じなんですけど。 ちなみにこれメルツァー試薬で染色してません。ノーマルでこの色です。


■ 2019年03月09日 撮影

その証拠に分離してしまった子嚢は無色透明です。


■ 2019年03月09日 撮影

その理由がコチラ。本種の側糸は黄色の色素を含んでいるのです。 そのため重なって厚みが増すと真っ黄色に見えていたと言うワケ。 ちなみに側糸には分岐と隔壁があります。 子嚢胞子は8個で1列に並んでいますが、成熟が進むと2列になって先端に詰まります。


■ 2019年03月09日 撮影

子嚢胞子の形状に関してはすでにココまでの写真でネタバレていましたね。 本種の胞子は綺麗な球形です。数も多くて観察しがいがあります。 普段楕円形やら紡錘形やらを見る機会が多いので、こう言うのは新鮮な気が。


■ 2019年03月09日 撮影

油浸対物レンズを用いて高倍率撮影してみました。 1つ前の倍率だと内包物は無さそうでしたが、この倍率だと微細な油球らしきものが見えます。 直径は6〜7mmであまり大きなバラツキは無いようです。


■ 2019年03月09日 撮影

コチラはメルツァー試薬で染色した状態。呈色しないので非アミロイドです。 注目すべきは子嚢内部の胞子です。 染色されて分かりやすいですが、本種の胞子は透明の皮膜に覆われています。 これが水中で膨らむのだそう。低倍率撮影時に胞子の周辺がボケていたのはこのためだったんですね。

不明種なので当然ながら食毒不明です。仮に無毒でも食用価値無しでしょう。 彩りに使うにしても1cm以下ではお話になりませんし、そもそも群生しないので収量も見込めません。

■ 2019年03月09日 撮影

実は本種の発見はオマケ。本当に探していたのはスギ黒点枝枯病菌のほうでした。 枝枯れの酷いスギを見付け、熊手で地面を掻いたら真っ先に目に入ってきたのが本種でした。 ホンモノのキチャワンタケは知っていたので、この段階で別種を疑ってました。


■ 2019年03月09日 撮影

小さいキノコですが鮮やかな黄色は非常に写真映えしますね。 一応スギ林に出るものも基部付近が若干青っぽくなることもあるようです。 しかしモミ林に出るようなものとは青変性のレベルが違います。 これを環境の差と言うのは流石に横暴でしょう。
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