■Ciborinia sp. (ニセキンカクキン属 No.001)

■ 2021年03月27日 撮影

初発見はスダジイの森で地下生菌を探していた時のこと。 ウスベニタマタケを発見して喜んでいたら見慣れない小さな盤菌を発見。 良く見ると基部に長い柄を見付け、掘り出してみてキンカクキン科を疑い、ネットで調べてみました。 すると有名な子嚢菌類サイト様にて同種の掲載を発見。イグチ氏とも相談し本属に決定。 春にヒサカキの樹下に発生する極めて小型のニセキンカクキン属菌です。

春、ツバキやモクレン、ハンノキ、スギと言ったキンカクキン科が動き出す頃に一緒に目を覚まします。 かな〜り一般的な種なのですが、ヒサカキがキンカクキンが発生する樹種と認識されていないため発見例が少ないです。 また子実体が極めて小型のため、意図して探さないと目に入らないかも知れません。 しかし生態も面白く、掘り採り難易度も高めで挑む価値アリの良いキノコです。オススメ!


■ 2021年03月27日 撮影

まず注目すべきは子嚢盤の大きさです。左はヒサカキの花。 花のサイズをご存じの方はお分かりでしょうが、子嚢盤の直径は大きいもので2mm弱です。 ざっと見た感じ1.0〜1.5mmくらいのものが多いですね。


■ 2021年03月27日 撮影

子実体はアイボリーカラーでキンカクキン科としてはかなり白に寄った色調です。 と言うか他の菌核形成種が茶色っぽいのが多いので、なおさら異質に感じるのかも知れません。 子実層面に付着している白い粒はヒサカキの花粉です。


■ 2021年03月27日 撮影

初発見の年はどれも地中深くの菌核から発生していたので掘るのが冬虫夏草レベルの難易度でした。 ですが2021年はどれも素直!浅い場所に居てくれて非常に助かりました。 左の子実体は古い花の付け根、萼の部分から出ています。 しかし右のものは明らかに黒い菌核から出ているのが分かります。


■ 2021年03月27日 撮影

以前から本種の菌核が押しつぶされたラグビーボールのような形状なのは知っていました。 しかしどれも植物体のどの部位にあたるかが周囲に名残が無いため判断できませんでした。 ですが今年は浅い場所からの発生が多かったためか、菌核の周囲に植物体が残っているものが多く、 萼の内部から発生している状態を数多く見ることができました。


■ 2021年03月27日 撮影

萼の内部にある球状の部位、となれば双子葉類の花の構造をご存じの方であれば容易に子房を疑うでしょう。 ヒサカキの花は花弁自体は極めて小型で短期間で朽ちてしまいます。 また子実体の発生源がほぼ例外なく花茎と萼の付け根の内部から出ています。 そして菌核を形成できるほどの栄養価を蓄えている部位・・・となれば子房の可能性が極めて高いと思います。 丸みがあると言うのもその予想の後押しです。


■ 2021年03月27日 撮影

実は前回の顕微鏡観察は失敗しています。 未熟だったためか、あるいはそもそも別種を採取してしまっていたか、いずれにせよ胞子が全く違いました。 子嚢盤部だけを持ち帰ったものがあったので、誤ってそれを観察してしまった可能性大です。


■ 2021年03月27日 撮影

顕微鏡観察中に面白いものが見れたので急いで動画撮影に切り替えました。 画面中央やや右あたりから胞子の噴出が始まり、そこから連鎖的に胞子が飛び出しました。 最終的には画面端まで噴出し切りました。自然界ではコレが起きているワケですね。 これだけ勢い良く飛び出したらそら大型種なら音がするワケです。


■ 2021年03月27日 撮影

胞子の噴出を楽しめたので胞子観察です。うん、やっぱ子嚢胞子の形状が以前顕微鏡観察した時と違います。 もう子嚢の中の段階で違いますもん。やっぱ別種の椀部分だけを持って来ちゃったのかなぁ?


■ 2021年03月27日 撮影

本種の子嚢胞子は紡錘形で両端が結構尖ります。 内包物はほとんどありませんが、まばらに油球様のものと、透明感のある球体が2個見えます。 そして注目すべきは片側にキャップ状の皮膜があることです。 最初は像のブレかと思いましたが、剥離したものも見られるので間違い無いですね。 胞子の形状は異なりますが、似たようなものがハンノキのCiboria属菌にも見られますね。


■ 2021年03月27日 撮影

メルツァー試薬での呈色反応です。科や属的に分かってはいましたが当然ながら頂孔アミロイドです。 結構しっかりと色が付く印象ですね。


■ 2021年03月27日 撮影

面白かったのが胞子噴出後の頂孔部の形状です。 噴出前は綺麗な通り道が見えていましたが、噴出後は頂孔が広がるんですね。 メルツァー試薬で青く染まった部分が大きく押し広げられているのが良く分かります。 そりゃあんだけ勢い良く吹き出すんだからそうなりますか。


■ 2021年03月27日 撮影

子嚢と側糸が分かりやすいように切り出してみました。 子嚢と側糸はほとんど同じ長さですが、若干側糸のほうが長いかな? 側糸は糸状で分岐は見られず、隔壁あり。 先端付近は少しだけ太くなるようです。

不明種なので食毒不明ですが、あまりにも小さくて食用になどなり得ません。 と言うか基本的にキンカクキン科は食不適か食用価値無しのオンパレードです。 ただ個人的には毎年探しに行くくらいにはメッチャ好きなキンカクキン科菌! 知名度向上を目指して情報発信しまくりまっせ。


■ 2021年03月27日 撮影

オマケで別カット。左の子実体が上のほうで葉に乗せていた丸い菌核から出ているものです。 こんな小さい菌核からこれだけの菌体を伸ばせるなんてどんな栄養管理してるんだって感じです。 右に見えるのが落下したヒサカキの花の基部。この中の子房に感染していると思われます。

■ 2018年04月21日 撮影

初発見はこの時。スダジイにヒサカキが均等に混じる、そんな感じの環境です。 お目当てはシイ大好きウスベニタマタケだったんですが、熊手で地面を掻いたらコイツを発見。 最初はあまり意識していませんでしたが・・・。


■ 2018年04月21日 撮影

あまりにも小さくてキンカクキン科なんて思いもしませんでしたよ。 しかし子嚢盤の直下に長い柄を見た時にハッとしたんですよね。 「これもしかして菌核から出てる?」って。 これだけ長い柄を伸ばすと言うことは発生する元となるものが深くにあるはずですから。


■ 2018年04月21日 撮影

冬虫夏草の要領で掘り出してみましたが、正直冬虫夏草よりキツかった! なんせ地下部が冬虫夏草のように締まっておらず子嚢菌類の質感なのです。 そのため小さな土の粒との癒着を剥がそうとするだけでジ・エンドです。 辛うじて掘り出せたのはこの3つ。それまでに10本以上をロストしました。


■ 2018年04月21日 撮影

帰宅後クリーニングして白バック撮影です。途中で吐きそうになりましたよ。 左の大きいほうの椀の直径が2mmってこと、頭に入れておいて頂きたいです。 地下部の柄は非常に細く暗褐色で、深く埋まった黒い塊と繋がっています。 ですがこの段階では単に植物体を栄養源としているだけの普通の盤菌かも?


■ 2018年04月21日 撮影

大きい方の菌核を拡大してみました。長楕円形で厚みに丸みがあります。 モクレンのキンカクキンは扁平ですが、これは球体を潰して引き伸ばした感じ。


■ 2018年04月21日 撮影

小さい方の菌核を拡大してみました。内部はボロボロで組織は確認できず・・・。 大きいほうの菌核も切片作りに挑みましたが、残念ながら内部は朽ちており、切片を作ることができませんでした。


■ 2018年04月21日 撮影

でも見れたものもありました。それは菌核表面に植物細胞の名残りが存在すること。 菌核を潰して確認することはできたので、黒い表皮が植物由来だと判明。 栄養を元に外部に菌核を作る遊離菌核ではないことは分かりました。 そしてこれは本種がニセキンカクキン属菌である可能性を高めてくれました。

■ 2018年04月21日 撮影

実はこの日最初のフィールドでも似た環境で見付けて撮影していました。 ですがこの際は見事にギロチンし、そのままスルーしてしまったんです。 一度切ってしまうと菌核に辿り着くのは不可能でしょうね。

■ 2018年04月28日 撮影

gajin氏との観察オフにて同じ場所を訪れると、探し始めて速攻で次々と発見! やっぱりこの場所は安定して出てますね。


■ 2018年04月28日 撮影

最初は実物を見て「小さすぎて無理!」と仰っていたgajin氏も捜索直後から次々発見。 一見すると小さすぎて見付けられる気がしませんが、色が明るいので慣れると結構視界に入ります。 恐らくヒサカキが混在するカシ林などではごく普通に見られる種なのでしょう。

■ 2018年05月03日 撮影

前回確認し忘れたことがあったので標本採取リベンジに古くからの友人と共に山へGO! 友人はアラゲキクラゲを見付けて撮影する中、必死に掘り採った見事な子実体! 何と1つの菌核から4本もの子実体が出ていました!これは大捕物ですぞ! 菌核も3mmほどの大きさがあります。これなら切片作成もワンチャンあるかも。


■ 2018年05月03日 撮影

今回は菌核内部がしっかり詰まっていたので切片を作成できました。 黒い菌核表皮の内側は全てが菌組織、つまり菌核で間違い無いことが分かりました。 植物体を栄養源にしているだけなら内部に植物組織が残っているハズですし。 残るはヒサカキのどこを菌核化しているかです。恐らくは花由来でしょうけど。

■ 2022年04月29日 撮影

地下生菌を探して熊手で地面を掻いていた地元のフィールド。この場所で見るのは初めてです。 しかも凄い密度!子嚢盤も大きいものが多く、見上げれば確かにヒサカキの樹下でした。 この場所は菌生冬虫夏草がメインのフィールドなのですが、やっぱり環境は似るものですね。 流石に冬虫夏草の案内中だったのでサッと撮って次に行きましたが。


■ 2022年04月29日 撮影

やはりこの色!この何とも言えない穏やかな象牙色こそ本種のアイデンティティ! 非常に個性的なキンカクキン科菌だと思うので、早く学名が与えられると良いなぁと思います。 ところで写真撮ってて気付いたんですが、周囲に黄色い盤菌がチラホラ。 どうも黒く朽ちた葉から出てるっぽいんですが・・・これも今度狙って探してみようかな?
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