■Cordyceps sp. (ノムシタケ属 No.002)

■ 2022年07月23日 撮影

春にヤンマタケやクサナギヒメタンポタケ、アマミカイキタンポタケが出た驚異のフィールド。 「ここはベストシーズンに来たらきっと凄い」と確信して訪れた冬虫夏草の最盛期。 フィールドに足を踏み入れて僅か十数mと数分で発見した真っ赤の美しい冬虫夏草。 発見時は宿主が鱗翅目の幼虫だったので普通に「ホソエノコベニムシタケですね」で華麗にスルー。 しかし何となくもう一度顕微鏡観察しようかな?と1個体だけ採取していました。それがこの発見につながるとは・・・。

本種については非常に複雑な背景があるのでまずコレを説明せねばなりません。 本種は1987年の7月に山形県で初めて発見され、ホソエノコベニムシタケと名付けられました。 その後外見の良く似た種「財田型」が発見され、かつてホソエノコベニムシタケには「山形型」と「財田型」が存在しました。 しかしその発見以降、山形型の発見報告はぱったりと途絶え、日本中で見付かるのは財田型ばかり。 その結果、財田型が和名として「ホソエノコベニムシタケ」を襲名し、本種は保留種となりました。 しかし実は19年ほど経った2006年頃から本種が見付かり始めていました。 ただ、この情報は研究者や愛好会の耳には届かず、山形型はずっと「幻の種」でした。 現在ではこの山形型は様々な地域から発見されています。 標本も十分な数が集まっているので、今後何かしらの動きがあるかも知れません。

上記の経緯をまとめると、旧山形型の本種こそがある意味本当のホソエノコベニムシタケ。 胞子の形状からCordyceps属であることは間違いありません。 一方で旧財田型の現ホソエノコベニムシタケは以前はCordyceps属でしたが、現在は別属のBlackwellomyces属。 今後はどう扱うのが良いのでしょうね?


■ 2022年07月23日 撮影

発見時は先入観からホソエノコベニムシタケだと思い込んでいたのでマクロ撮影はさっさと済ませていました。 しかし今見ると分かる異様な子実体の赤さ子嚢殻の細かさ。思い込みとは恐ろしいものです。 シャクトリムシハリセンボンが近くで見付かったのもあって意識が完全にソッチに行っていました。未熟者ですわ。


■ 2022年07月23日 撮影

葉を裏返してみると荒く編まれた繭。中の宿主は真っ白な菌糸に覆われていました。 ただこの感じから鱗翅目であることは読み取れたので、胞子観察のためにケースに入れました。 この時に持ち帰る判断をした自分を褒めてあげたいです。


■ 2022年07月23日 撮影

帰宅して簡単にクリーニングしたものを黒バック撮影。 宿主から伸びた柄は極細で、この状態でも切れないか心配でした。


■ 2022年07月23日 撮影

モヤモヤしたものがハッキリと違和感に変わったのはこの写真を撮った時でした。子嚢殻が細かすぎる。 ホソエノコベニムシタケが属するBlackwellomycesならは白い結実部に橙色の大きな子嚢殻を間隔を開けて形成するハズ。 何よりもこの子嚢殻の感じには凄い既視感がありました。それはハチ繭生のCordycepsです。


■ 2022年07月23日 撮影

さらに拡大してみました。密集していて見辛いですが子嚢殻は裸生に近く、色は鮮やかな紅色。 この段階では胞子は観察していませんでしたが、Skype会議に「ひょっとすると山形型かも?」と書き込みました。


■ 2022年07月23日 撮影

クリーニング後に黒バックしたものです。菌糸が繭を貫通していたため切らないか心配でした。 やはり宿主は鱗翅目の幼虫ですが、今まで宿主として見たことが無い種のような気がします。


■ 2022年07月23日 撮影

黒バック撮影のベストショットです。宿主と子実体の様子が綺麗に写せたと思います。 しかしこうして見ると思うのがその赤みの強さです。 冬虫夏草には「紅」と言う色を含む和名を持つ種が複数存在します。 ベニイロクチキムシタケやアマミコベニタンポタケ、本家ホソエノコベニムシタケなどです。 しかしこれらは絵描き的に色を意識している自分としては「紅」ではなく「オレンジ」です。 ですが本種は明確に「赤い」と感じることができます。これは冬虫夏草では初めての経験でしたね。


■ 2022年07月23日 撮影

そしてこの姿が確認できた時は本当に嬉しかったですね。明確にヌンチャク型です。 実は高性能の顕微鏡でこのタイプの胞子を観察したのは初めてだったので感動しましたよ。 長さはバラツキはありますが、200〜220μmの範囲内でしょうか? 本種の発見時の顕微鏡観察で「胞子の端が長く伸びる」との報告がなされていますが、 これはヌンチャク型の片方が消失したものだったと思われます。


■ 2022年07月23日 撮影

ヌンチャク型の胞子となると疑われるのがヒメサナギタケモドキ同種説です。 実際あちらはイラガの繭から出るので鱗翅目の幼虫と言う点では共通です。 ですがどうしてもこの子実体の異様な赤さから個人的には別種を疑っています。 まだハチ繭生のCordycepsのほうがヒメサナギタケモドキに似ているでしょう。


■ 2022年07月23日 撮影

ヌンチャク型の胞子の太い部分を油浸対物レンズで拡大してみました。 良く見ると複数の隔壁があるのが分かります。 恐らく細い部分にもあるのでしょうが、これは相当高性能な顕微鏡じゃないと見れないでしょう。

保留種として放置されてきたので実質的に不明種ですので、当然ですが食毒不明です。 薬効があるかも分かりませんので、見付けたら然るべき研究機関にサンプル提供しましょう。 ある程度見付かっているとは言え何だかんだまだ珍しい種ですので・・・。

■ 2021年07月23日 撮影

1年前の同日、どろんこ氏とハヤカワセミタケの発生状態の調査を行っていました。 以前からこの場所にはホソエノコベニムシタケが出るとは聞いていたのでそこまで驚きは無く、 むしろ三脚で潰しそうになったのをササッと撮影していました。 しかし2022年の発見を受け、これも山形型だったことが分かりました。ビックリですよ。

■ 2022年07月23日 撮影

この日の調査では本種は途中でスルーされるくらいの個体数が見付かりました。 参加者全員普通のホソコベだと思っていたので「またコイツか」と軽くあしらわれるレベル。 この結実部で何で気付かなかったんだ・・・。

■ 2022年07月23日 撮影

少し歩いて落ち葉を少し退けるとあるわあるわ小さな赤い子実体。 大げさではなくそこまで意識して探していないのに20個体くらい見付かったと思います。 意識して探せば多分倍は出ていたのではないでしょうか?


■ 2022年07月23日 撮影

本種は結実部の形状が多彩なのも特徴な気がします。 未発達とかそう言う感じではなく、短かったり長かったり分岐したり。 未熟な子嚢殻は無色で透明感があるのでキラキラ輝いて本当に美しいですね。

■ 2022年07月23日 撮影

この日見付かった中では最も美しく、そして立派だったんじゃないでしょうか? 葉の裏の宿主から複数の子実体を形成していました。 ですがこの発見は探索の終盤なので、誰も採取せずに撮影用に斜面に祭られて終わりました。


■ 2022年07月23日 撮影

多分同意して下さる方は居られると思いますが、この菌糸の這い方がCordycepsっぽいですよね?ね? 菌糸に覆われていても分かるほどに宿主が他のものより大きいためか子実体の数が多くサイズも大き目。 でもこの白い柄の部分を見るにギロチン率高そうだなぁと思ったり。

■ 2022年07月31日 撮影

ここまでの報告を受けて標本採取が必要となり1週間後に再調査となりました。 この日はこの日でハスノミウジムシタケが見付かったりと驚きはあったのですが、 山形型は全然無いんです。ヤバいんじゃないかと参加者全員焦る焦る・・・。 最終的には標本はゲットできたので良かったんですけど心臓に悪いです。 1週間でここまで状況が変わるとは・・・!


■ 2022年07月31日 撮影

立派な子実体です。こうして見るとホソエノコベニムシタケとはあまり似ていない気がします。 こんなに美しい子実体を持つ種が保留扱いと言うのは勿体無い!

■ 2022年07月31日 撮影

少し上で「本種の結実部は形状が安定しない」と書きましたが、コレを見ると同意頂けるのでは? これサイズを黙っておけばキツネノエフデって言ってもある程度騙せそうな気がします。 とりあえずCordyceps属菌ならあまり先細りにはならないでもらいたいですね。

■ 2022年07月31日 撮影

急遽参戦したガガンボ氏が発見した群生です。 なおこの日の収穫を受けてまた翌週同じ場所を訪れることになったのですが、 その時は1本も見付かりませんでした。これは旬を把握する必要がありますね。

■ 2023年07月02日 撮影

7月末にこの場所でオフを開催するため下見に訪れました。 少し早いですが山形型も健在で一安心。 ・・・だったのですが、本番は高温と乾燥で不発だったようです。 発生期間が短い種ですが一応発生は続いていたっぽいので来年に期待したいですね。
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