■Elaphomyces sp. (ツチダンゴ属 No.003)

■ 2020年01月12日 撮影

K.Y.氏に探し方を教わって以降、様々な場所で出会うようになった黒いツチダンゴのお馴染みさんシイやカシの樹下の根の周辺に少し顔を出すように発生する小型のツチダンゴ属菌です。 国内で見られる硬質の外皮を持つ黒いツチダンゴの中では本種が最もポピュラーかも知れません。 海外では良く似た種が複数知られていますが、国内のものについてはまだ検討中のようです。 外見は他の黒いツチダンゴとほぼ同じですが、胞子に大きな特徴があります。

いまだ正体不明であり、この日K.Y.氏が研究用の標本を採取していました。 ソレを元に論文を書く段階であり、非常に貴重な出会いだったと思います。 また本種は菌生冬虫夏草のアマミカイキタンポタケの特異的な宿主とされています。


■ 2020年01月12日 撮影

ちなみに白い○の部分に発生しています。 正直ここまで群生しているのは珍しいですね。 どちらかと言うと斜面にポツポツとまばらに発生していることが多い種ですので。


■ 2020年01月12日 撮影

子実体は不規則な球形でツヤはありませんが、水分が多いと鈍い光沢を持ちます。 色は湿時黒色で、乾燥するとやや赤みが出て暗小豆色になります。 何がヤバいって見ての通り本種はマジで石にしか見えないんですよね。 何度が実際に自分の目で見て、慣れておかないと視界に入りません。


■ 2020年01月12日 撮影

拡大するとこんな感じ。アミメツチダンゴなどを見ていると同属菌とは到底思えません。 この場所はアマミカイキタンポタケが発生したフィールドからも近い良い感じの沢筋です。 ガヤドリなどの気生型冬虫夏草発生の実績もあり、今年の夏が楽しみです。


■ 2020年01月12日 撮影

本種最大の特徴は何と言っても胞子が肌色と言うことです。 この独特な色合いは本種の同定に大いに役立ちます。 また子嚢胞子が非常に大型で、何と30μmに達することもあるとのこと。 ここまで大きいと光が透けないのですが、本種は胞子が肌色のため光が透過しやすく観察しやすいです。 最初はデコボコした被膜に覆われており、被膜が剥がれると表面の針状突起が露出して細点が見えるようになります。

硬い外皮に粉っぽい中身。当然ながら食不適です。食えたモンじゃねぇ。 ちなみに大きくても直径1cmと相当小さいので食用価値など皆無でしょう。

■ 2018年04月30日 撮影

初発見はGWに行ったK.Y.氏発起人の地下生菌オフ。この日最大の目玉となりました。 慣れない内は見付けられませんでしたが、目が慣れれば次々見付けられました。


■ 2018年04月30日 撮影

ここでは乾燥や成長度合いの違いなのか、表皮が黒色〜暗小豆色と個体差が激しかったです。 この子実体は小豆色系。ただこれは単に脱色とかかもですね。


■ 2018年04月30日 撮影

割ってみると外皮は硬くのような感触で、パリパリと音を立てて割れます。 どうやって成長しているのかが気になりますが、最大の特徴はやはり胞子の色。 肉眼でも肌色と分かるのは本当に面白いです。


■ 2018年04月30日 撮影

帰宅後に黒バック撮影すると事前に聞いていたもう一つの特徴に納得です。 明るい胞子の色も相まって、この倍率でも胞子の粒がクッキリ見えるのですね。


■ 2018年04月30日 撮影

顕微鏡で観察してみると胞子が簡単に見えました。肌色なので光が良く透けます。 球形の子嚢胞子はこの段階では被膜に覆われてデコボコに見えています。


■ 2018年04月30日 撮影

この頃はまだ新しい顕微鏡に慣れていなかったので、あまり綺麗な写真が撮れませんでした。 被膜が剥がれると表面の針状突起が露出して細点が見えるようになります。 撮影時は気付きませんでしたが、確かに表面が砂嵐のように粗面に見えます。

■ 2018年04月30日 撮影

2株写っていますが、不自然に黒いので分かりやすいですよね。写真では。 これがフィールドでとなると急に難易度が上がります。石にしか見えないんです。 黒いツチダンゴ系は実際に自分の目で見ていないと中々目に止まりませんね。


■ 2018年04月30日 撮影

3人がかりで探してこれくらい見付かりました。慣れさえすればイケますね。 ただ不思議と中身がほぼスッカラカンだったりするので持ち帰る際は要注意。

■ 2018年05月26日 撮影

1月後・・・何と地元発見に至りました。ビックリですよ。 まさか自力発見できるとは思ってなかったので発見した時は森のなかで「え?え?」と奇声上げちゃいました。 もしかすると本種は見付けづらいだけで普通種の可能性が高いのかも知れません。


■ 2018年05月26日 撮影

なぜか撮影中ずっとアリがうろついていました。 胞子散布に野生動物が関与している説が有力ですが、アリはどうだろう。 単に臭気につられて来ただけかな?


■ 2018年05月26日 撮影

前回はマイクロメーターを持っていなかった上に顕微鏡に慣れていなかったので再戦! 今回は深度合成も活用しつつ撮り直しました。子嚢胞子の直径は27〜30μmと大型。 ツチダンゴ系は大きくても20μm前後の胞子を持つ種が多いので異質に感じます。


■ 2018年05月26日 撮影

もう一つの特徴、それは表面です。本種の胞子は最初膜状の層に覆われてデコボコに見えます。 しかし成熟するとこの層が破れてその内側にあった針状突起が露出します。 この写真がそれが一番キレイに撮れているかも。トゲトゲした質感が分かりますか?


■ 2018年05月26日 撮影

あと嬉しかったのは子嚢が見れたことですね。 ツチダンゴ系の子嚢は早期に消失してしまうため滅多に見ることができません。


■ 2018年05月26日 撮影

奥行きがある対象を見るのは苦手ですが、油浸対物レンズで観察してみました。 ピントをずらした写真を重ね合わせてなんちゃって深度合成しております。 まだ膜状の層がありますが、それを透過して密集した針状突起が見えています。 ここまでハッキリ写っているのは胞子自体の色が薄いため。他のツチダンゴ系ではここまで光は透けません。

■ 2018年05月26日 撮影

最初に発見した場所を雰囲気を覚えて、道すがら似た雰囲気の樹下を探すと・・・ありました! とりあえず斜面かつ木の根の脇と言うのが特徴のようです。 ここで覚えた雰囲気は後にとある冬虫夏草を探す際に役に立つこととなります。

■ 2018年10月27日 撮影

ミヤマタンポタケの坪でガガンボさんが発見したもの。 アマミカイキタンポタケそっくりなミヤマがあったのでもしやと思いましたが、似てるだけどミヤマでした。 しかしこうもバンバン見付かるところを見るとやはりカシ林では普通種なんでしょうか。

■ 2018年11月18日 撮影

本種は春先のキノコだと思っていたのですが、10月末のオフ会で発見されてビックリ。 もしかして地元でも出てるのではないかと思い見に行くとビンゴ! どうやら本種は春と秋の2回、発生のタイミングがあるようです。

■ 2018年11月18日 撮影

アマミカイキタンポタケが発生していた場所に行ってみると、寸分違わず同じ場所に出ていました。 もしかしたらコイツらが来年の宿主になってくれるかも知れませんし、そっと置いておくことに。 すぐ近くにあった別個体を観察用に持ち帰りました。


■ 2018年11月18日 撮影

帰宅後に黒バック撮影です。乾くと色が明るくなりますね。


■ 2018年11月18日 撮影

肉眼では平滑にしか見えない表面ですが、実はツチダンゴらしい凹凸がちゃんとあるんですよね。 ただ本種の場合は凹凸があまり顕著でないため、光を曲面にカスらせると何とか分かる程度です。 言われないとただの粗面にしか見えませんからねコレ。


■ 2018年11月18日 撮影

無水エタノールで封入することを覚えたosoに死角なし! 表面張力が小さい無水エタノールであれば粉々した本種の胞子でも気泡ができません。やったぜ!


■ 2018年11月18日 撮影

前回の胞子観察時は新しい顕微鏡を頂いてまだ間なしの頃。あれからそれなりに技術も上がりました。 光源の扱いなどにも慣れて比較的肉眼で見たのと近い写真が撮れるようになったかな?


■ 2018年11月18日 撮影

表面の針状のとげ、外側の膜質の層、内部の油球が全て見えるよう震度合成した本種の子嚢胞子です。 最初は膜質の層に覆われていますが、成熟すると剥がれてその内側のとげが露出します。 大型かつ淡色の胞子のため顕微鏡観察は非常に楽ですね。

■ 2019年05月04日 撮影

初めてであった思い出の場所に帰って来ました。発生している場所まで同じでした。 まぁ菌根菌なので当たり前なんですけど。


■ 2019年05月04日 撮影

割ってみると見慣れた肌色胞子。この時は外皮の特徴に目が行っていませんでした。 ちなみに本種は子実体を嗅いでみても無臭でこれと言って妙な香りはしませんね。


■ 2019年05月04日 撮影

胞子を少し光源を変えて撮影してみました。 胞子の表面に微細なトゲがあるのはすでに書きましたが、それとは別に不規則な色ムラが確認できます。 今までも写っていますが、どうもそのトゲがある層が不規則にヒビ割れているみたいですね。


■ 2019年05月04日 撮影

ピントを少しズラすと外皮の大きないぼ状突起が良く分かりますね。 特に潰れてしまった子嚢胞子だと外皮がモコモコしているように見えます。 普通に胞子の中心にピントを合わせると輪郭部が緩やかにデコボコしてたのはコレですね。

■ 2019年05月04日 撮影

断面が今までと違うので「もしや別種か?」と盛り上がりましたが同種でした。 しかし発生範囲は以前は見付からなかった場所なのでOK! にしてもメンバーの平均的な黒いツチダンゴ探査能力がぐんぐん上がってる気がする。 どんなステータスだって感じですが。


■ 2019年05月04日 撮影

別種かと疑った理由は外皮が2層になっていたため。 色も変だったのでもしかしてと思いましたが、これは成熟段階の違いだったようです。 確かに完熟した子実体にも色の明暗はありますが2層構造が確認できます。


■ 2019年05月04日 撮影

頑張って断面を薄く切り出して顕微鏡観察してみました。 この「薄く」ってのがキツいの何の。何度も失敗してようやくコレです。 黒い外皮の内側に色の淡い菌糸で満たされた2層目が存在し、その内側がグレバです。


■ 2019年05月04日 撮影

以前から本種を含め黒いツチダンゴ系の外皮をその質感から「炭みたい」と思っていました。 しかし顕微鏡観察の結果あながち間違いでもない気がして来ました。 ご覧の通り無数の穴の空いた多孔質で、ホントに炭みたいです。 どうりでパリパリと割れてしまうワケですね。 これがどうやって成長して大きくなるのか・・・想像できません。


■ 2019年05月04日 撮影

良い感じに3つの胞子がまとまっていました。これ実は気泡に吸い寄せられたものです。 完熟したグレバは粉っぽいので水封が難しく、無水エタノールで封入したのですが、それでも気泡が入っちゃいますね。


■ 2019年05月04日 撮影

子嚢胞子の最も外側の層の大きな膨らみが良く分かる写真が撮れました。 右の胞子の外側に大きな膨らみがボコボコと並んでいるのが確認できます。 この層の内側に微細なトゲで覆われた層が存在すると言う感じですね。


■ 2019年05月06日 撮影

数日後、twitterでメルツァー試薬による反応が見られる黒いツチダンゴが存在するとの情報をGET。 試しに反応を見てみると見え方が全く変わりました。表面の凸凹も微細なトゲも見やすいです。


■ 2019年05月06日 撮影

黒いツチダンゴの中には子嚢胞子が青く染まるアミロイド反応を示す種が存在します。 しかし本種は一切反応なしの非アミロイドでした。 ただ心なしか微細なトゲが観察しやすいですね。 まぁこの手法は胞子の色が薄い本種くらいしか効果が無いかもですが。

■ 2022年07月16日 撮影

夏真っ盛り!菌根菌やクモタケが見付かってホクホクのフィールドで変なモノを発見。 地面に黒いくぼみが無数に開いています。 最初は黒い小型のチャワンタケかと思いましたが、何かこれ見覚えがあるぞ?


■ 2022年07月16日 撮影

周囲の落葉を退かすと凄い数の黒い球体が!新発生地発見!やったぜ! しかもこの場所の発生密度はかなりもの。これは期待できそうです。


■ 2022年07月16日 撮影

念のため割ってみましたが、予想通り胞子の色は肌色。間違いありません。 しかもこの場所、本種を宿主とする新種と思しき冬虫夏草の発生地のすぐ近くなんです。 ひょっとするとこの場所にも何か出るかも知れません。 ただ周囲に水源が無く気中湿度が低いので出ない可能性は高いですけど。

■ 2022年11月03日 撮影

菌生冬虫夏草を探して秋深い山中を匍匐前進していたら驚きの光景に遭遇。 これヤラセじゃなくてマジでこの密度で出ているんです。 流石にこの密度は初見だったので「うおっ」と言う声が出ちゃいました。 これ斜面なので直上から転がり落ちた子実体が引っかかっているなってのも数個ありますね。


■ 2022年11月03日 撮影

割ってみるとやっぱり肌色。と言うか同年7月に見付けた場所のすぐ近くです。 となるとやっぱり本種を特異的な宿主とする冬虫夏草の発生を期待して良いかも? と言うか胞子が少ない気がします。ひょっとして寄生されてる?

■ 2023年12月30日 撮影

2023年を締めくくる年末地下生菌オフにてめたこるじぃ氏が発見。 斜面好きなハズの本種が普通に平坦な地面に出ていました。 こうなると発見難易度が急激に上がりますね。


■ 2023年12月30日 撮影

断面を見てみると何かいつもと雰囲気が違うので念のため持ち帰らせていただきました。 グレバ白さからアサヒヒメクロツチダンゴの可能性を疑ったためです。 ただココに載ってる時点でネタバレですが、実際には肌色胞子の種でした。


■ 2023年12月31日 撮影

帰宅後に黒バック撮影してみましたが、おや?何か部分的に肌色ですね。 これ硬質なハズの外皮が綺麗に切れたのは未熟だったためでした。 まだ胞子形成が進んでいなかったので白く見えたみたいです。


■ 2023年12月31日 撮影

この後胞子観察をしてみたのですが、バチクソ肌色胞子と全く同じものが見えたので省略です。 ただ子実体が若かったため子嚢が多数確認できたので撮影しておきました。 アサヒヒメクロツチダンゴじゃなかったのは残念ですが、また新しい知識が得られたのでヨシ!
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