■Elaphomyces sp. (ツチダンゴ属 No.007)

■ 2022年11月13日 撮影

地元のフィールドで地下生菌とちょっと早目の菌生冬虫夏草を捜索中に発見。 最初に見た時は当然ながツヅレシロツチダンゴ近縁種だと思いました。 実際この場所で実績があるので、何の疑いも無く断面を作成。 すると予想だにしなかった断面が目の前に!ここで初めて事態の重さに気付きました。 こんな外見ですが何とアミメツチダンゴに近縁だったんです。 結論から申しますとツヅレとアミメ、双方の特徴を持った未記載種でした。

以前から国内で複数の採集例があり、とある冬虫夏草の特異的な宿主を疑われています。 現在研究されているとのことですし、サンプルも提供できたので、今後何か分かるかも知れません。 国内では未発見ですが、海外に外見が良く似た「E. decipiens」が存在します。 ただ胞子の形状が全く異なるため別種であることは確定。 謎だらけな上に非常に面白いミクロとマクロの特徴を持つので、発表されるのが楽しみです!


■ 2022年11月13日 撮影

子実体は直径1〜1.5cmとやや小型。淡黄色の菌糸に完全に覆われています。 この場所ではサキブトタマヤドリタケの宿主となる、 硬質外皮を持ち同色の菌糸に覆われたツヅレシロツチダンゴ近縁種が見つかっており、 この時は完全にそのときのモノと同種だと思い、久々に記録を取っておこうと思い撮影していました。


■ 2022年11月13日 撮影

すぐ近くの1個体を切断して断面を見た時は「はぇっ?」と言う情けない声を上げてしまいました。 てっきり灰青褐色のグレバが見えると思っていたので、見事にアミメツチダンゴ的な断面だったのでビックリ! しかしアミメっぽいようで良く見ると雰囲気が違う・・・?ここでヤベェ奴を見付けたことに気付きました。


■ 2022年11月13日 撮影

ここで急いで周囲を探すと他にもバンバン同種と思しきツチダンゴが見付かりました。 この辺から興奮して変なテンションになってたのを覚えています。 ヒトはパニクると語彙力が無くなるものなんです。「え?」を連呼してましたし。


■ 2022年11月13日 撮影

改めて撮影していてもやっぱり硬質外皮を持つツヅレシロツチダンゴ近縁種にしか見えません。 何度も見た姿なんですもん!と言うか再撮影する目的が無ければ普通にスルーしていたでしょう。 結構地下生菌に詳しい方でも見落としかねないくらい似ていると思いますよ。


■ 2022年11月13日 撮影

何度も何度も見て来たツチダンゴなので、外見は同じなのに中身が違う違和感が凄まじい。 試しにピンセットで表面を覆う菌糸を除去してみたのですが、その中には普通のツチダンゴ的な表皮が! 例えるなら「バナナを切ったら断面がキウイ」のネタ画像が眼前で現実になっている感覚です。


■ 2022年11月13日 撮影

並べてみるとこんな感じ。やっぱり先入観からか別種のツチダンゴが混入しているように見えます。 ただ同じフィールドで見付かる典型的なアミメツチダンゴに比べると直径が半分以下。 表皮の感じはアミメっぽいだけに凄く不思議な感じです。


■ 2022年11月13日 撮影

若干まだ信じられないのでもう1個体切断してみましたが、結果は同じ。 断面にはアミメツチダンゴで見られるような大理石模様、グレバも赤褐色です。 ただ何か雰囲気が違うなと思ったら大理石模様が変なんですね。詳細は後述します。 これは一大事と言うことで数個体持ち帰って家で詳細に調べることにしました。


■ 2022年11月13日 撮影

帰宅後に黒バック撮影した子実体です。上が表面を覆う菌糸あり。下が菌糸を除去したものです。 菌糸は淡黄色〜黄色で、色だけなら黄色い菌糸が交じるツヅレシロツチダンゴ近縁種と同じ。 外皮表面は黄褐色で表面にはトゲがあるのですが、アミメのような多角錐ではなくいぼ状です。 こんなツチダンゴの仲間は今まで見たこともありませんでしたよ。


■ 2022年11月13日 撮影

断面です。外皮断面にはアミメツチダンゴに似た大理石模様が見られます。 ただ何か違和感があるなと思ったら模様が粗いんですね。つぶつぶが小さいと言うべきか。 これについては外皮が薄いかつ子実体が小さいのダブルの効果ですね。 相対的に模様が大きいように見えるのでしょう。グレバは赤褐色の見慣れた色合い。


■ 2022年11月13日 撮影

この段階ではまだアミメツチダンゴの個体差の可能性もワンチャンと思っていました。 しかし顕微鏡で子嚢胞子を見た瞬間、それが誤りであることを確信したと同時に、 胞子のその格好良さに部屋でまた「えっ?」を連呼することに・・・。


■ 2022年11月13日 撮影

※オンマウスで変化します

高倍率で撮影した子嚢胞子です。褐色球形なのは普通なんですが、 この胞子表面の構造は世界中のツチダンゴを記載した論文でも見たことがありませんでした。 胞子表面は岩のようにゴツゴツしており、大きな亀裂が走っているかのようです。 どこかで見たことがあるなと思ったら、観葉植物の亀甲竜に似てますよね。


■ 2022年11月13日 撮影

※オンマウスで変化します

油浸対物レンズで撮影してみました。大きな破片がペタペタくっ付いているかのようです。 海外には本種に似て無印ツチダンゴ似の外皮と淡黄色の菌糸を持つ「E. decipiens」が存在しますが、 本種と異なり胞子表面は微細なトゲに覆われており特徴が一致しません。 その後詳しい方から本種の情報を提供して頂き、ようやく未記載種であることを知った次第です。

当然未記載種であり食毒不明です。土臭いわ中は粉だわで食用価値は皆無でしょう。 まだ国内での発見は数える程度ですので、もし見付けたら然るべき研究機関へ提供すべきだと思います。

■ 2022年11月13日 撮影

本種はツヅレ系の菌糸アミメ系の外皮の両方を持つ不思議な存在です。 それでいて胞子も格好良いと言う属性てんこ盛りのツチダンゴ。凄く好きになっちゃいました。 ちなみに本命だったツヅレシロツチダンゴ近縁種は消えてしまったんですよね。 何か大切なものと引き換えに別の大切な物を失ってしまった気がします。

■ 2023年01月07日 撮影

2023年菌始めは地元フィールドで地下生菌と菌生冬虫夏草探し。 ただ最近は雨が降っていなかったので全体的に発生は控え目でした。 それでも本種だけは確認しておきたかったので。


■ 2023年01月07日 撮影

相変わらずツヅレシロツチダンゴの仲間にしか見えません。サイズも1cm程度と小さいですし。 数は十分に出ているので1個体真っ二つにしてみました。やはりこの断面は異質ですね。 サイズと外を覆う菌糸が網目模様と合わないんですよね。 子実体が小さいせいで網目が相対的に粗いのが違和感の理由。本当に面白いヤツです。
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