■Gautieria sp. (ガウチエリア属 No.003)

■ 2023年12月30日 撮影

2023年末に開催された6人参加での大規模地下生菌オフにて見付かりました。 発見時は表皮の質感からAroramyces属菌かと思われたのですが、切断して正体が判明しました。 マクロとミクロから観察した結果、過去に見た2種とは別種であると判断しました。 コナラの樹下に発生していたので、やっぱりブナ科広葉樹がお好きなご様子。 このような外見ですがホウキタケ属を起源に持つと言うユニークな地下生菌です。

全はシマショウロ属と呼ばれていましたが、「シマショウロ」が別属菌に使用されていたため、 現在は属名をそのままローマ字読みした「ガウチエリア」で通っています。 本属菌は表皮が消失する種としない種が存在するのですが、本種は初の後者でした。


■ 2023年12月30日 撮影

子実体は類球形で表面は菌糸で毛羽立ったような質感。 色は白色がベースですが、広範囲が肌色になっています。 これは表皮そのものの色もあるのでしょうが、子実体内部のグレバが透けているのも原因です。


■ 2023年12月30日 撮影

断面を見るまでは旧ヒメノガステル属のアロラミケス属菌だたと思われていたのですが、 発見者のめたこるじぃ氏が切断してみると見覚えのある断面!見た瞬間に本属菌であると分かりました。 このフィールドは様々な地下生菌が見付かっているのですが、本属菌は初発見でしたね。


■ 2023年12月31日 撮影

過去に2種類の本属菌に出会っている私ですが、出会ったのが早すぎて顕微鏡未実装でした。 そのため高画質で顕微鏡撮影できるのは今回が初なので気合を入れてデータを取りましたよ。 子実体をはんぶんこしたものを持ち帰らせていただきました。まずは黒バック撮影。


■ 2023年12月31日 撮影

まず子実体は塊状で表面はかなりデコボコしています。 色は白色なんですが、帰宅後にクリーニングしてみたら結構見た目が変わっちゃいました。


■ 2023年12月31日 撮影

ガウチエリア属菌には成熟すると外皮が完全に消滅し、ホウキタケそっくりな見た目になる種も存在し、 以前見た2種も丸さは残るものの発見段階で表皮が消失していました。 今回のものはシャーレ上で流水と綿棒で掃除したら部分的に表皮が剥離して内部のグレバと繋がりましたが、 そうでもしないと表皮が消失しないので、表皮が消失しない系の種で間違い無さそうです。


■ 2023年12月31日 撮影

断面はこんな感じで内部は肉色小腔室と言う不規則な穴が無数に存在します。 表面積を広げるための工夫なので小腔室自体は他の属でも一般的な構造です。 ただ小腔室の形状やサイズは一定である属が多いのですが、 本属菌が他の地下生菌と異なるのは小腔室に方向性があると言うことです。 これは元のホウキタケの形状の名残りであると考えると納得できると思います。


■ 2023年12月31日 撮影

グレバを拡大してみると、小腔室を形成する肉もぶ厚いみたいですね。 小腔室内壁にはオレンジ色の胞子がビッシリ!透明感があるのでキラキラしています。 実際にはこの内壁がホウキタケのあと分岐した子実体の表面だったんですよね。不思議なものです。


■ 2023年12月31日 撮影

ガウチエリア属菌の詳細な顕微鏡観察は初なので凄いワクワクしました。 まずはグレバを薄く切断して切片を作り、低倍率で観察。 小腔室内壁にビッシリ胞子が付いているのが見えますね。


■ 2023年12月31日 撮影

子実層面を倍率を上げて観察していた時に「おおっ!」と声が出てしまいました。 中央やや左に突出した細胞が見えますが、これ本種のシスチジアです。なぜ声が出たかと言うと、 このような無数の油球様内包物を持つシスチジアはホウキタケ属に多いんですよね。 進化元の特徴がちゃんと確認できて感動しちゃいました。


■ 2023年12月31日 撮影

担子器も確認してみましたが、基本は4胞子性で間違い無さそうです。 マクロ撮影した写真でも4方向に胞子が並んでいるのが見えていましたしね。


■ 2023年12月31日 撮影

担子器とシスチジアが良く見える部位があったのでコレも撮影。 2022年くらいにふと思い付いてホウキタケ属菌の顕微鏡観察を頑張ったので、 担子器にもシスチジアにも内包物が多いのは知っていました。 ここまで形状が地下生に傾いてもミクロの部分はちゃんとホウキタケなんですね。


■ 2023年12月31日 撮影

以前顕微鏡観察した本属菌2種はまだ高性能の顕微鏡を持っていない頃に見付かったので、 高画質での撮影が不可能でしたが、今回はgajin氏から頂いた顕微鏡がある! と言うことで念願の担子胞子の高画質写真を撮影することが出来ました!嬉しい!

■ 2023年12月31日 撮影

※オンマウスで変化します

てことで油浸対物レンズで担子胞子を高倍率撮影し、深度合成写真も作成してみました。 担子胞子は広楕円形〜楕円形で、担子器と繋がっていた小柄の部分が長く伸びてウリみたいです。 また表面に縦方向の肋が存在しており、深度合成すると表面が波打っているのが確認できます。 サイズは25μmと本属菌としてはかなり大型で、 表皮が消失しにくいことからも地下生菌としての進化が進んでいるのかも知れません。

不明種なので当然ですが食毒不明です。 ホウキタケ属にも有毒種は存在するので、面白半分で食べないように。


■ 2023年12月30日 撮影

最後は現地で撮影した論文調の写真でシメ。 この日は数多くの地下生菌が見付かりましたが、多分一番珍しかったのが本種でしょう。 こうなると過去の地下生菌ももう一度見付けて顕微鏡観察したいなぁ・・・。
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