■Gibellula sp. (ギベルラ属 No.002)

■ 2022年07月23日 撮影

4月の調査でヤンマタケが、夏の調査でハスノミウジムシタケやホソエノコベニムシタケ(山形型)を発見。 冬虫夏草の楽園とも言うべきフィールドで出会った小型のクモから発生する冬虫夏草。 いまだ学術的な発表が無いため、単に「クモの黄色いGibellula」と呼ばれています。 以前からその存在は知っていたので、出会えた時はメチャクチャ嬉しかったですね。 今回は顕微鏡観察の結果、非常に詳細な情報を得ることができました。

以前はTorrubiella属と言われていましたが、Torrubiella属は複数の属の寄せ集めであることが分かって来ました。 そのため現在この属は「存在しない」扱いとなっており、アナモルフの属名であったGibellula属を用いるのが相応しいようです。 また本属菌は何かしらの観察結果が欠けている種が多く、今回のように両世代の子実体と胞子を網羅できることは稀とのこと。 なのでこのページ、かなり重要な情報が載せられたと思います。引用できる文献化・・・どうしよう・・・。


■ 2022年07月23日 撮影

本種の最大の特徴は子実体の菌糸の色です。通称にもありますが黄色いんですよね。 本属菌は黄色っぽい色のものが多いのは多いのですが、本種の黄色は強烈です。 アナモルフや老成したものなどは淡い色になりますが、新鮮な時の色は見間違わないでしょう。 この彩度の高さのおかげで小型でもとても良く目に付きます。


■ 2022年07月23日 撮影

帰宅後に黒バック撮影してみました。宿主は脚の長い小型のクモで、同定は流石にできませんね。 サイズ感が伝わりにくいですが、この黄色い部分の横幅が5mmだと思って見て下さい。超小さいです。 宿主は菌糸に覆われ、そこに埋もれるように子嚢殻が形成されます。 良く見ると脚に少し無性世代の分生子柄が見えていますが、流石に小さすぎて採取できませんでした。


■ 2022年07月23日 撮影

子嚢殻は最初は淡い黄色ですが、胞子が成熟する頃にはオレンジ色でかなり尖った形状になります。 そしてその子嚢殻の大部分を黄色い菌糸が覆います。クモ生種では良くある見た目ですよね。 この菌糸には自分の知らない秘密があったのですが、これはまた後述します。


■ 2022年07月25日 撮影

本種は完全な子嚢胞子観察が難しいと聞いていたので、気合を入れてセッティング。 胞子の自然落下に挑戦しました。切れ目の入ったスポンジで宿主と枝を固定し、下にスライドガラスを設置。 その後2日後、出社前に確認したら胞子が降り積もってるじゃないですか! でも会社を休むワケにはいかない・・・なので1日気が気じゃありませんでした。 帰宅後に大急ぎで顕微鏡観察し、無事に写真撮影することができました。良かった・・・。


■ 2022年07月25日 撮影

頑張って写真連結しました。コレを見れたのは本当に嬉しかったです。 クモ生種は自然落下の子嚢胞子観察が難しいと言われており、未分裂の子嚢胞子が見れたのは嬉しい! 子嚢胞子は糸状で長さは640μm前後と冬虫夏草の子嚢胞子としてはかなり長いです。 また128個の二次胞子に分裂し、数えてみるとどの子嚢胞子も綺麗に数が合いました。 1000px超えの写真はちょっと場所を取るのですが、何としてもこのサイズで載せたかった! 気になったのは、一方の端の細胞だけが尖ること。両端じゃないのが印象的でした。


■ 2022年07月25日 撮影

二次胞子も油浸対物レンズで観察しました。 形状は裁断円筒形と呼ばれ、両端の丸みが切り落とされたような形状です。 そりゃこの長さの二次胞子が128個も連なってりゃ子嚢胞子も長くなるわ。

極めて小さな宿主から発生するので大きくても5mm程度の塊、食不適で良いでしょう。 仮に猛毒だとしてもこのサイズで中毒を起こす量を接種するのは難しいとは思いますが。 小さくとも肉眼的にも顕微鏡的にも面白い種です。しっかり観察して愛でてあげましょう。

■ 2022年07月23日 撮影

TOP写真と同じ日に撮影した別個体です。古くて太い糸?のようなものにぶら下がっていました。 非常に格好良いので当日の調査参加者さんが撮影に挑みましたが中々苦戦していました。 小さい上に明るい色なのでハレーションを起こすんですよね。


■ 2022年07月23日 撮影

拡大してみるとこんな感じ。頑張って撮影しましたよ。 面白いのは脚には菌糸が広がらないことで。子嚢殻は胴体のみに形成されます。 やはり宿主が小さいと水分を留めにくいので、胴体部に菌糸が集中しているんでしょうか?



■ 2022年07月31日 撮影

1週間後にまた行くことになりました。2週連続で同じ場所は珍しいです。 これは23日に見付かった冬虫夏草が貴重とのことでサンプル採取の必要があったためです。 すると白っぽいクモ生種を発見!最初はクモノエツキツブタケだと思いました。


■ 2022年07月31日 撮影

別種だと思った理由は全体的に白っぽいためです。 本種はテレオモルフこそ鮮やかな黄色ですが、アナモルフは他のpulchra系の種と同様に白色です。 しかも子嚢殻も老成して暗色となり、子嚢殻を覆う菌糸も白っぽくなっていますが、 基部にはしっかりと鮮やかな黄色菌糸が見えています。



■ 2022年07月31日 撮影

帰宅後に黒バック撮影してみました。今回採取した目的なアナモルフの観察です。 なお狙っていたワケではないのですが自然と子嚢胞子が落ちたので一応観察しました。 その結果、7月25日に撮影したものと相違無いとの結論に至りました。


■ 2022年07月31日 撮影

まずは沢山生えている分生子柄束を1本切り取って低倍率で観察してみました。 表面には虫ピンのような分生子柄が無数に生えており。これはマクロ撮影時にも見えていましたね。 注目すべきは先端部に分生子柄が無い点です。 類似種では先端までビッシリ虫ピンに覆われるので、これは重要な特徴です。


■ 2022年07月31日 撮影

分生子柄を拡大してみました。典型的なpulchra型です。 このタイプの分生子柄を形成する種は非常に多いので、あまりアテにはなりませんね。


■ 2022年07月31日 撮影

実は分生子だけなら7月25日の段階で観察はしていました。 ただ分生子柄が生えた脚をスライドガラスに擦り付けての撮影だったため形状をチラ見しただけでした。 今回は分生子の撮影を目的とした顕微鏡観察でしたので、ちゃんとレモン型を確認できましたよ! 分生子の形状は類似種との判別にはかなり重要な要素です。


■ 2022年07月31日 撮影

せっかくシンネマ1本潰したんですから徹底的に観察してやろうと思い、分生子柄先端を油浸対物レンズで観察しました。 すると驚くほど美しい光景が目の前に広がり感動しました。分生子柄先端に放射状に並ぶ分生子形成細胞の美しさ! まるで花が咲いたかのような形状です。図鑑で見た姿そのものがそこにありました。


■ 2022年07月31日 撮影

う、美しい・・・!分生子柄の先端には数個の細胞が存在し、それらを中心に放射状に分生子形成細胞が並びます。 分生子形成細胞は先端にツンと尖った部分があり、そこから分生子が次々に形成されます。 先端に分生子が付いているものもチラホラ見られますね。

■ 2022年07月31日 撮影

この日見付かった別個体はまだ未熟で子嚢殻もまだ形成途中と言う感じ。 未熟な状態で採取しても追培養する気は無いのでそのまま放置して来ました。


■ 2022年08月06日 撮影

7月31日に珍しい冬虫夏草がまたしても見付かり、3週連続で同じフィールドへ。 先週発見した場所を覚えていたので見てみると、子嚢殻の成熟が進み、先端部が突出していました。 ここでそう言えば子実体をバラしての子嚢殻や子嚢の顕微鏡観察をしていないことを思い出し採取することに。


■ 2022年08月06日 撮影

横から撮影してみました。これは美しい・・・小さい中に完成された構造がありますね。 ただまだ若干未成熟だと感じたので、帰宅後数日追培養することに。


■ 2022年08月09日 撮影

3日後、先端から子嚢が噴出する現象が確認できたので、成熟したと判断して子実体をバラしました。 まずは低倍率で子嚢を大まかに撮影。思ったより綺麗に撮影できてビックリしました。 子嚢殻の大半が菌叢と呼ばれる菌糸に覆われている様子がとても見やすい写真が撮れました。


■ 2022年08月09日 撮影

子実体をバラした理由は子嚢殻の観察でしたが、目的は達成できましたね。 子嚢殻は倒洋梨型と呼ばれ、冬虫夏草の子嚢殻としてはかなり長細いと感じます。 と言うか実際に長くて900μmを超えて来ます。実際に肉眼でも分かるサイズですからね。


■ 2022年08月09日 撮影

子嚢殻を潰して子嚢も観察してみました。 曲がりくねっているので分かりづらいですが、若干未熟な状態でも600μmもあります。 確かに子嚢殻が900もありますし、成熟すれば子嚢も子嚢胞子の640を超えるんでしょう。 これだけ長い子嚢から胞子を噴出するのですから、未分裂の子嚢胞子の観察が難しいのも納得。


■ 2022年08月09日 撮影

子嚢先端です。肥厚する様子が良く分かります。やっぱり未熟なご様子。


■ 2022年08月09日 撮影

子嚢先端の肥厚部を油浸対物レンズで撮影してみました。 肥厚部に一本の線が見えますが、これが胞子が噴出する頂孔です。 この細い穴を通って子嚢胞子がブシューッと吹き出すワケですね。


■ 2022年08月09日 撮影

この日の観察の数日前にignatius氏からこのテのクモ生種の子嚢殻を覆う菌糸には 特徴的な構造がありますよと教えて頂きました。 ソレを探してほとんどの子嚢殻を潰しましたが、全然見付からずに焦りました。 しかしそろそろ限界・・・と言う数を潰したところで怪しい構造を発見! これが聞き慣れませんが「sinanamorph」だと思われます。


■ 2022年08月09日 撮影

油浸対物レンズで高倍率撮影すると先端がツンと尖った分生子形成細胞が見られます。 この先端から形成されるのがGranulomanus型の分生子です。 つまり本種は子嚢胞子に通常の分生子、そしてこの特殊な分生子と3種類の胞子を作っていることになります。 しかしこれを見れたことで家庭環境で観察できる本種の全てが見れた気がします。
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