■Hydnobolites sp. (ロウツブタケ属 No.001)


■ 2021年01月02日 撮影

2021菌初めにて青fungi氏と行った地下生菌探索オフ。 思い付きで実行したので2時間ほどの探索時間でしたが、非常に収穫が多かったです。 その中でも最大の収穫はコナラなどの広葉樹下で発見した見慣れない地下生菌。 発見当初は別属菌だと思っていましたが、帰宅して顕微鏡観察した結果、本属菌であることが判明しました。 こんな外見ですがチャワンタケ科に属し、マルセレイナ(Marcelleina)属に近縁な子嚢菌類です。

当初はロウツブタケ(H.cerebriformis)そのものだと思ったのですが、どうも別種のようです。 そもそもロウツブタケは多少赤変性は持つものの、基本的にはロウのような質感の白色の地下生菌です。 ですが本種は子実体が明確に褐色であり、この色は流石に変色によるものではなさそうです。 また2019年に中国から本属菌が複数種報告されており、その中では子実体の赤みが強い 「H. roseus」が外見的に良く似ています。 ですがこの種はマツ科のマツ属やカラマツ属の樹下で発見されています。 今回のフィールドは周囲にスギくらいしかなく、外見的にはロセウスで良い気もしますが、 環境的に同種とするには弱いと判断しました。


■ 2021年01月02日 撮影

子実体は不定形の塊状で全体的に橙褐色です。 本家ロウツブタケは形状は同じですが、和名の通りロウのようなやや透明感のある白い子実体です。 この違いは流石に老成でも変色でもないと思われます。


■ 2021年01月02日 撮影

この場所は以前プベルルムグループのTuberが出た場所。 なので色は違えどセイヨウショウロ属かな?と思ってました。 しかし切ってみると明らかに断面が違う・・・?


■ 2021年01月02日 撮影

まず最初に目に入ったのは隙間があることです。 これはセイヨウショウロ属には見られない特徴であり、明らかに別属菌です。 また切断面の香りを嗅いでみましたが、プベルルムグループにはあった刺激臭が無いんですよね。 どちらかと言えば香ばしいと言うか、キノコ臭とも違う香りがします。 なので次の候補としてクルミタケ属の何かかな?と思って帰宅しました。


■ 2021年01月02日 撮影

帰宅後に黒バック撮影してみました。発見時より少し赤みが増しているように見えます。 これは無印のロウツブタケと同様に若干赤変性があるのでしょう。 またロウツブタケのように子実体表面に凹みがありますが、これは成因が異なるようです。 無印では子嚢盤が折り畳まれた痕跡ですが、本種の場合は折り畳まれた痕跡と境界が合わず、 なおかつ糞が見られるため、これは野生動物の食跡孔でしょう。 右下の土が付いている部分が基部で、ここから子実体形成が始まっています。


■ 2021年01月02日 撮影

やはり断面は同じ子嚢菌類でもセイヨウショウロ属のソレとは全く異なりますね。 子嚢盤が折り畳まれた構造は共通ですが、折り畳みが甘いです。 それでもクルミタケに比べると隙間は少ないですが。


■ 2021年01月02日 撮影

Canon製の「MP-E65mm F2.8 1-5×マクロフォト」が実は本種の子嚢子嚢胞子を捉えていました! 流石はいまだ色褪せぬマクロ性能です。丸い子嚢の中に胞子が入っているのまで見えています。 ただこれは写真編集時に初めて気付いたので、顕微鏡観察するまで属は分かっていませんでした。


■ 2021年01月02日 撮影

顕微鏡を覗いてこの光景が見えた時にようやく本種がロウツブタケ属菌だと分かりました。


■ 2021年01月02日 撮影

この丸みのある子嚢の中に丸い子嚢胞子が8個入っている特徴こそまさにロウツブタケ属菌! 図鑑で見た姿だったのですぐに識別図鑑を確認して確信を得ました。


■ 2021年01月02日 撮影

子嚢を切り出してみました。子嚢は球形〜卵型で下の少し尖っている部分が子嚢の基部です。 頂孔や蓋は存在しません。中には網目模様のある球形の子嚢胞子が8個入っています。 子嚢の基部が確認できることと子嚢胞子の個数から比較的チャワンタケの名残を残しているのが分かりますね。


■ 2021年01月02日 撮影

※オンマウスで変化します

子嚢胞子を通常ピントと深度合成で撮影してみました。 胞子はやや黄色みを帯びており、これはマクロ撮影時にも確認できます。 胞子は球形ですが表面には大きな網目模様が存在します。 無染色では分かりにくいので、これは詳細を後述します。


■ 2021年01月02日 撮影

メルツァー試薬で染色しても特に変化は見られませんでした。これ個人的には意外でしたね。 実は子嚢菌類系地下生菌の子嚢を染色すると、どれも子嚢の内容物が偽アミロイド的に赤く染まったんです。 しかし今回は未熟な子嚢も含めて染まらなかったんですよね。


■ 2021年01月02日 撮影

やっぱ子嚢菌類の胞子を見るならばコットンブルーによる染色は欠かせません。 この試薬は子嚢由来の部位を濃く染め上げるので、胞子の表面構造を見るのに役立ちます。


■ 2021年01月02日 撮影

未成熟の子嚢や破れていない子嚢の中の胞子はあまり染まりませんね。 でも成熟が進んだものや、特に子嚢から飛び出した胞子は非常に濃く染まります。 それにしても胞子表面の網目が強調されて美しいったらありゃしない!


■ 2021年01月02日 撮影

※オンマウスで変化します

子嚢から飛び出した胞子をコットンブルーで染色し、深度合成してみました。 子嚢胞子は網目を除いた直径が25μm前後、網目を含めると34μm前後と言った感じ。 染色で良く見えるようになった網目ですが、意外と網目が不揃いなんですね。 この均一ではない乱れた感じの網目も面白いです。 と言うか地下生の子嚢菌類の胞子は顕微鏡観察してハズレは無いイメージ。

不明種ですので当然ですが食毒不明です。 見た目はトリュフっぽいかも知れませんが、全然違う属なのでご注意を。 てか国内のTuberについてはどれもあまり食べないほうが良いと個人的には思います。


■ 2021年01月02日 撮影

胞子画像が最後だと締まらないので現地で撮影していたコケの上の断面写真です。 観察結果的には「H. roseus」として良い気もしますが、今は不明種扱いとしておきます。 とても魅力的な種なので、また発見したいトコロです。
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