■Hypomyces sp. (ヒポミケス属 No.001)

■ 2018年09月23日 撮影

キノコ屋の中では嫌われ者?いつも大事な被写体をダメにしてくれる厄介者。 そんな見慣れた本種ですが、見慣れない姿を発見して念のため撮影。 当初はアオキノコヤドリタケだと思いましたが・・・。 帰宅後に調べた結果、ヒポミケス属の不明種であることが判明しました。 ほぼ専属的にイグチ類の子実体に寄生する性質があり、それが宿主の分類に役立つことも。

一度はアワタケヤドリタケとして有名な「Hypomyces chrysospermus」だと判断しました。 子嚢殻の色や厚膜分生子の形状などが異なり、別種であると判断しました。 ちなみに不完全世代はSepedonium属と呼ばれてるみたいです。シノニムですけど。


■ 2018年09月23日 撮影

いつもは真っ白〜真っ黄色のアワタケヤドリのハズが、何故か表面の質感がオカシイです。 よくよく見ると何と子嚢殻があるではないか! この段階では色合い的にアオキノコヤドリタケだと思っていましたね。


■ 2018年09月23日 撮影

帰宅後に写真をじっくり眺めていて違和感に気付きました。 そう、子嚢殻と分生子の形成部に境界がありません。 アオキノコヤドリタケが混在しているのかと思いましたが違うようですね。 どう考えても範囲が重複しています。


■ 2018年09月23日 撮影

帰宅後にマクロレンズで高倍率撮影してみました。 子実体は最初スービクルと呼ばれる白色の菌糸に覆われ、その後子嚢殻や分生子が形成されます。 子嚢殻はスービクルに埋もれるように形成されます。 図鑑では黄褐色と書かれていますが、実際に見た感じはルリビタキ(雌)のようなオリーブ褐色と言う感じです。


■ 2018年09月23日 撮影

子嚢殻はフラスコ形で高さは400μm程度かな?


■ 2018年09月23日 撮影

子嚢殻先端から吹き出した子嚢を観察してみました。 この段階ですでにヒポクレアっぽい胞子が子嚢内部に見えています。


■ 2018年09月23日 撮影

子嚢を切り出してみました。長さは140μm前後かな?子嚢内部の胞子の数は8個です。


■ 2018年09月23日 撮影

子嚢胞子は紡錘形ですが2つの細胞から成っており、一方の細胞が極端に大きいのが特徴です。 両端は尖り、表面は疣状突起に覆われています。大きさはまちまちですが、最低でも20μmはあるみたいですね。 確認できたものの中で最も長かったのは26μmでした。


■ 2018年09月23日 撮影

そして何と言っても見逃せないのが分生子です。 表面の黄色い部分をスライドグラスに押し当てた後に無水エタノールで封入して観察すると、そこには絶景が! あまりの美しさに観察しながら「おほー!」とか「すげー!」とか叫んでました。


■ 2018年09月23日 撮影

コチラがアワタケヤドリタケ、と言うかセペドニウムの厚膜分生子と呼ばれるものです。 樹状の分岐菌糸先端に形成され、球形で鮮黄色なのが特徴です。 その名の通り外皮が厚く、表面が顕著な突起で覆われます。 ただ本家アワタケヤドリタケのものと比べると突起が短いですね。 有色の胞子も高倍率で観察すると色が分かりづらくなるものですが、この自己主張は流石としか。

オリーブ褐色の子嚢殻を持つHypomycesに「H. melanocarpus」が存在します。 しかし子嚢胞子が無隔壁である、厚膜胞子が茶褐色で表面のいぼが低いなど本種とは異なる特徴があります。 そのため顕微鏡観察の結果別種と判断しました。

言うなればカビたイグチなので食おうとする人もそうそう居ないでしょうが、当然ながら食不適です。 この状態のイグチは大抵ぼそぼそに朽ちていますし、そもそも本種はその表面を覆っているのが子実体ですので。 まして宿主のイグチが無毒とも限りませんので食べないでくださいね。 ロブスターマッシュルームのようにはいきませんよ。
■図鑑TOPへ戻る