■Hypomyces sp. (ヒポミケス属 No.003)

■ 2020年10月26日 撮影

定期的に訪れる照葉樹林内を流れる沢筋。冬虫夏草が多く見付かるお気に入りスポットです。 シイやカシが多いので菌根菌も見込めるこの場所も、もう晩秋となり寂しい雰囲気です。 しかし何気無しに立ち寄ってみると遊歩道に異様な物体が。 実は正体知ってます、夏に見てますから、これホオベニシロアシイグチに感染したヒポミケスですわ。 完全に色が上書きされていますが、柄の網目が辛うじて見えてますし。

今まで見たどのHypomyces属菌とも異なると判断し、不明種として掲載することにしました。 暗緑色に見える種は以前も見ていますが、子嚢胞子の形状やサイズが全く異なりました。 また無性世代を形成しておらず、あくまでもテレオモルフがメインとなる種のようです。


■ 2020年10月26日 撮影

白っぽかったホオベニシロアシイグチの子実体は暗色のスービクルに覆われて全く異なる外見に。 宿主表面はほとんど黒に近い暗緑色で、子嚢殻がビッシリ形成されています。 子嚢殻そのものは暗褐色ですが、全体的に緑色っぽく見えます。藻類か?


■ 2020年10月26日 撮影

緑色っぽく見える理由は子嚢殻の先端が緑色だからですね。 藻類やカビではなく、子嚢殻の内容物が飛び出しているようです。 ただその下地となっている表面を覆った禁止も緑色っぽいのは確かです。


■ 2020年10月26日 撮影

帰宅後にマクロ撮影してみました。子嚢殻は暗緑褐色と言えば良いでしょうか。 ベースは褐色系のようです。子嚢殻先端が突出しており、この先端から胞子を飛ばします。


■ 2020年10月26日 撮影

子嚢殻が綺麗に採取できました。割れちゃましたけど。 緑色っぽく見えていたのは子嚢殻の外側にある菌糸だったみたいですね。


■ 2020年10月26日 撮影

子嚢殻はフラスコ形で、先端部が突出しています。 子嚢殻の側面が破れて中から子嚢や子嚢胞子が漏れ出しています。 こうして光に透けると子嚢殻そのものは褐色系だと良く分かりますね。


■ 2020年10月26日 撮影

子嚢の先端です。肥厚しており、肥厚部に頂孔がハッキリ見えます。 子嚢胞子が大きいためか子嚢が子嚢胞子にピッチリ貼り付いていました。 どう考えてもこの頂孔を胞子が通るとは思えないのですが・・・。


■ 2020年10月26日 撮影

本属菌の同定に重要な子嚢胞子の観察です。 両端の伸びた紡錘形2個の胞子からなり、表面がややデコボコしています。 これは内部に同じ大きさの小型の油球を多く含むため、それが浮き出ているかのようにも見えます。 また2個の細胞の境界が胞子の端に偏るのも特徴でしょう。これはタケリタケキンに似ています。

実はホオベニシロアシイグチ上に発生する本属菌として外見の似た「H. melanocarpus」が存在します。 スービクルの色や子嚢殻の形状など良く似ているのですが、この種の子嚢胞子には隔壁が無いんです。 本種はバッチリ偏った位置に隔壁がありますので、残念ながら別種ですね。

間違い無く食用価値無しでしょう。要は「腐ったイグチ」です。 顕微鏡観察用に一部を切り取ったのですが、内部はグジュグジュで、それでいて繊維はしっかりしている感じでした。 恐らく本種の菌糸が組織内に侵入し、ネットワークを築いているのでしょう。うえぇ・・・。 国内で本種と思しきものを発見している方も居られますが、食毒不明とするまでもないかな、と。


■ 2020年12月13日 撮影

ちなみにこの宿主、12月半ばでも残ってました。 ヒポミケスに感染し有性世代を形成した宿主は長期間保つと聞いたことがありますが、マジなんですね。 流石に形状は残ってませんでしたが子嚢殻は部分的に確認できます。 イグチだけなら乾燥していようがこれだけの期間は絶対に残りませんからね。
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