■Ophiocordyceps sp. (オフィオコルディセプス属 No.002)

■ 2023年08月06日 撮影

その存在を知った時からずっと見たい、と言うか詳細を調べたいと願い続けていた種。 しんや氏のご助力により邂逅叶いました。 夏に細い落枝に穿孔した小型の甲虫の幼虫から発生する冬虫夏草の不明種です。 一部では「コエダハリタケ」と呼ばれていますが、これは仮称と言うよりは通称レベル。 何かしらの文献に載ったら堂々と仮称を名乗って不明種欄から格上げしようと思っています。

コエダハリタケの通称が拡散される前から古い図鑑で紹介されており、存在自体は知られていました。 ただ他種と混同されていたりして混乱しており、やっと明確に区別されるようになった体感です。 針タケ型大好きな管理人としては是が非でも押さえておきたかった種ですね。


■ 2023年08月06日 撮影

子実体は典型的な針タケ型で色は黄褐色。 色んな針タケ型を見て来ましたが、感じ的にはハトジムシハリタケの子実体に近い雰囲気です。 ただあちらはかなり曲がりくねるんですが、本種はワリと素直にまっすぐ伸びる気がしますね。


■ 2023年08月06日 撮影

オンマウスで変化します。

あまり仮称が好きではない管理人が凄いこの「コエダハリタケ」と言う通称を気に入っている理由は1つ。 生態をこれ以上無いほど表現できているからです。 本種は地上生型ですが、必ず発生源は太さ3mm程度の細い細い小枝の切れっ端です。 オンマウスでストローマと小枝が強調されるので、その様子が良く分かるかと。


■ 2023年08月06日 撮影

ストローマを拡大すると裸生子嚢殻がまばらに付いているのが分かります。 子嚢殻は褐色で成長すると少し淡色になります。 ハマキムシイトハリタケのように集中はせず、かと言ってメチャクチャバラけない、 これら2種の中間のような子嚢殻の付き方をしますね。


■ 2023年08月06日 撮影

小枝は内部がスカスカで表皮だけになっているので壊さないように慎重に地面から取り外します。 こうすると小枝から出ている様子が良く分かります。


■ 2023年08月06日 撮影

気になって現地で少し表皮を剥いでみると、内部に甲虫の幼虫が! こんな細い枝の中に隠れているとは・・・まるでミノムシの甲虫版みたいな状態ですね。 確かに小枝の中にスッポリ隠れて移動すれば外敵からは見付からないでしょうが、 菌類にそのステルス効果は無意味ですからねぇ。


■ 2023年08月06日 撮影

帰宅後に黒バック撮影してみました。胞子はすでに観察済みです。 水洗いしてしまうと、給水後の乾燥が刺激となって胞子を吹いてしまうためです。 なので撮影はぐっとガマンしていました。何だこの不思議な見た目は・・・。


■ 2023年08月06日 撮影

裏返して撮影すると冬虫夏草なんだなと実感できますね。3mmほどしか無い小枝の内部は完全に空洞になっており、 小さな甲虫の幼虫が収まっています。まぁこの画像サイズでも全然見えませんけど。


■ 2023年08月06日 撮影

子実体は針タケ型の典型。ただ他の針タケ型種に比べるとワリと太くてしっかりしています。 宿主は相当小さいんですが、一体どこにここまで成長するための栄養があるんでしょうかね? 本種に限った話ではないですが、冬虫夏草を見ていると質量保存の法則の存在が若干揺らぎます。


■ 2023年08月06日 撮影

コレ!コレです!裸生子嚢殻スキーにはこの見た目は垂涎モノなのですよ!


■ 2023年08月06日 撮影

あぁ〜!裸生子嚢殻の音〜!ってことで本種の子嚢殻を拡大してみました。 褐色なのですがやや過熟気味なのか少し淡色になってしまっています。 また他の裸生型の子嚢殻を持つ種でも見られますが、先端ほど濃色になります。 なので胞子観察が上手く行くか心配でしたが、杞憂でしたね。 良く見ると子嚢殻の先端から糸状の子嚢胞子が少し飛び出していますし。


■ 2023年08月06日 撮影

宿主の甲虫の幼虫です。実はこの雰囲気は他の甲虫生冬虫夏草とちょっと違います。 甲虫の幼虫は幼虫の段階から硬質の外骨格を持っている種が多く、 冬虫夏草に感染して養分を吸われても鱗翅目の幼虫ほどはしぼみません。 しかし本種の宿主はほぼ例外無くかなりしぼんでいるのです。 理由は硬質の外骨格が頭部と尾部にしか無く、胴体部分が軟質なのです。 そのため栄養を吸い尽くされて干し大根のようにしぼんでいるんですよね。 外見的にはゴミムシダマシ科に見えますが流石に自信はありませんね。


■ 2023年08月06日 撮影

子嚢殻を顕微鏡で低倍率撮影してみました。高さは300〜400μmの間くらいでしょうか? 大きさ的にはハトジムシハリタケやコツブイモムシハリタケと同じくらいですね。


■ 2023年08月06日 撮影

子嚢です。長いもので200μm強って感じでしょうか?


■ 2023年08月06日 撮影

先端部の肥厚部を高倍率撮影してみました。冬虫夏草だなぁと言う先端の構造ですね。 この先端部には小さな穴が開いており、そこから子嚢胞子が噴出します。 子嚢殻の色が心配で過熟ではないかと心配でしたが、むしろ最高のコンディションだった模様。


■ 2023年08月06日 撮影

やったー!これが見たかったんです!コエダハリタケ(仮)の子嚢胞子、無事見れました! 針タケ型は胞子を自然に吹かせるのが難しいと言われています。 ただウチは意外と成功率が高く、今回も意外と苦労せずに成功させることができましたね。 子嚢胞子は短い糸状で長さは長いもので150μmと冬虫夏草としては短めかな?


■ 2023年08月06日 撮影

さてここからが重要。まずは水酸化カリウム水溶液で下処理を行い、次にメルツァー試薬で染色。 これで普通に水封しただけでは観察が難しい隔壁が可視化されます。 糸状の胞子に一定間隔で見える明るい線が隔壁で、数えてみると最大15個確認できます。 つまり細胞数は16個で、細胞分裂の2のn条になっていることも分かりました。完璧!


■ 2023年08月06日 撮影

せっかくなのでKOH処理無しでメルツァー試薬のみを使用して子嚢を染色してみました。 子嚢は染色されないため、子嚢内に収まる胞子が見やすくなりますよ。

当然ですが細くて小さい冬虫夏草ですし、薬効も不明ですので現状は食用価値無しです。 食毒不明としても良いでしょうが、そもそも有毒でも中毒するほど集められるとは思えませんし。 本種は材に穿孔する宿主の様子が小さい範囲で全て見られる冬虫夏草のお手本のような種。 観察対象としては非常に魅力的なので、是非見付けたらじっくり観察してみてください。

■ 2023年07月02日 撮影

実は初見ではありません。ひと月以上前別のフィールドで開催されたオフ会でめたこるじぃ氏が発見。 この日の発見はこの1個体のみだったため、発見者のめた氏が持ち帰ることになりました。 私が8月と言う時期を心配していたのは、7月段階で成熟個体が見付かっていたからだったりします。 でも実際には8月に胞子を噴出する個体が残っていたので、意外と旬は長い種なのかもですね。


■ 2023年07月02日 撮影

この子嚢殻の付き方と色、やっぱりハトジムシハリタケのそれに似てるんですよね。 ストローマと子嚢殻の配色とか、ちょっとまばらに作られる子嚢殻の配置とか。


■ 2023年07月02日 撮影

発見者のめたこるじぃ氏、断面作成をお願いするとメチャクチャ嫌がっておられました。 と言うのも本種は宿主が軟化しているため甲虫生種の中ではギロチン率が高いんですよね。 果たしてその結果は・・・うん。この写真はそれっぽくヤラセをさせていただきました。
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