■Phillipsia sp. (ニクアツベニサラタケ属 No.001)

■ 2020年10月18日 撮影

初めて見た時はその形状からニクアツベニサラタケだと思いました・・・が。 子嚢盤の色に違和感を感じ調べてみると2001年に新種記載されたウスミベニサラタケの存在を知りました。 その後ずっとこの種だと思っていましたが、どうもそうではないことが判明し、不明種に移動となりました。 フジなどのマメ科植物上に発生しますが、図鑑にはあまり載っていません。

本種は「ウスミベニサラタケ」の和名で浸透しており、学名は「P. subpurpurea」と記載されています。 しかしこの学名の種を検索してみると、海外の写真ではサラミのような濃淡が子実層面にありません。 事実、国内で論文記載された段階でも、この色の違いには触れられているそうです。

そして本種が海外で記載されている「P. chinensis」に極めて似ていることが分かってきました。 子実層面の濃淡や子嚢胞子の表面構造などに共通点が多いのです。 私もO前氏から情報を頂き、家庭環境でもその胞子の特徴を確認することができました。 近くこの2つの種の関係性が明らかになるかも知れません。


■ 2020年10月18日 撮影

子嚢盤の上面は赤色で不規則な濃淡があるのがニクアツとの決定的な差。 なので私はこう呼んでいます。「森のサラミ」と。 確かどなたかが「ウスベニサラミタケ」と仰ってて鼻水吹いた覚えがあります。 ニクアツベニサラタケは子実層面が暗赤色単色なので明らかに異なりますね。 むしろ海外の「P. subpurpurea」は単色のニクアツベニサラタケに似ていると思います。 またこのまだら模様はかなり個体差があります。脂肪部分の多さ的な・・・?

食毒不明です。有毒種とは縁遠い種だとは思うんですけど、何たって謎だらけですし。 この手の子嚢菌類は基本的に食う対象ではないですからね。色合い的にも見る専菌です。

■ 2016年10月09日 撮影

旧TOP写真です。2020年が大豊作だったので上記写真に差し替えましたが、詳細な観察はこの時でした。 どうも材を偽菌核化するようで、フジの材が真っ黒になっています。 これは偽菌核プレートと呼ばれる菌の防護壁のようなもの。 自身の本体を守るためのもので、オオオゴムタケやキリノミタケが代表例。


■ 2016年10月09日 撮影

oso、知ってるよ。これサラミだ。


■ 2016年10月09日 撮影

やっぱどこからどう見てもサラミですね。この濃淡はどう見てもサラミです。 ふと思ったんですが、子実層面が複数の色を持つって地味に珍しくないですか? 子実層面は胞子を作る非常に大切な部分であり、形質もド安定のハズ。 色んな図鑑を見ても子実層面が変色や脱色によってここまで綺麗に濃淡を作る種は見当たりません。


■ 2016年10月09日 撮影

もう一つの特徴は子嚢盤は肉厚で、肉には赤みが無く純白であること。 そして子実層面の裏側は白色の毛に覆われていること。モッサモサです。 意外と珍しい種のようで、あまり他の場所で見かけません。

■ 2019年10月19日 撮影

実はこのフィールド、メインは珍菌ウツロイモタケ。 このフィールドに落ちているフジの幹に毎年群生していたのです。 ですが流石に材の腐朽が進み、毎年発生量は減って来ていました。 なので顕微鏡観察くらいはしようと1株採取したのがことの発端でした。 子実層を顕微鏡観察すると長い子嚢と赤色色素を含んだ組織が確認できました。


■ 2019年10月19日 撮影

側糸と子嚢が綺麗に切り出せました。側糸は分岐隔壁アリ、部分的に赤色色素を含みます。 子実層が厚く見えるだけあって子嚢はかなり長く、500μmくらいあります。 子嚢の基部はうねり、先端に8つの胞子を1列に並べます。


■ 2019年10月19日 撮影

本種の赤い色の正体は側糸内部の赤色色素です。 根本から半分までの範囲に多く含まれ、先端付近にはあまり存在しません。 どうやらこの色素が抜けることで特徴的な赤色の濃淡が生まれるようです。 色は抜けても子嚢と側糸の構造には変化はありあません。


■ 2019年10月19日 撮影

子嚢胞子は沿った楕円形でお豆さんに良く似た感じ。 内部には大小複数の油球が見られますが、3つの大きな油球を内包することが多いようです。 これを見た時は本種の非常に特殊な胞子の特徴には全く気付きませんでした。


■ 2019年10月19日 撮影

分かってはいましたが非アミロイドなので子嚢先端は変色しません。 この後、標本を収集中だったイグチ氏にお送りし、観察終了!

となるハズでしたが、標本の送付後にO前氏より「胞子を詳しく見てみては?」との連絡が。 この時まで本種はウスミベニサラタケだと思っていたので、そのメールを見てビックリ! 慌ててイグチ氏に確認を取ると、観察は済んだので送り返せるとのお返事が。 こうして無事手元に戻ってきた標本を用いて、再度観察に挑みました。


■ 2019年10月24日 撮影

何度観察を行っても事前情報にあった特徴が見られません。 本来は走査電子顕微鏡とかで見たほうが良いってレベルの特徴でしょうし。 しかし光量を絞って撮影すると見えました! 実は「P. chinensis」の胞子には片面に7〜11本の縦筋があると言う特徴があります。 光学顕微鏡での観察は難しいですが、確かに胞子表面に縦縞が見えます!


■ 2019年10月24日 撮影

更に光源に工夫をした上で写真に編集をかけ、より縦筋が見やすいようにしてみました。 当然ながらこの特徴は「P. subpurpurea」には存在しない特徴です。 これを家庭環境で観察できたのは自分にとっては凄く大きかったです。

■ 2013年11月17日 撮影

初見は地味に結構前。この時からそこそこ長い間ニクアツベニサラタケと勘違いしていました。 この時もメインターゲットはウツロイモタケだったので本種はオマケみたいな感じでしたけど。 この子実体達は比較的色ムラが少ないですね。


■ 2013年11月17日 撮影

奥の子実体です。ニクアツもそうですが、不思議とフジの朽ちた幹が好きなようです。 真っ黒に朽ちていますが、これやっぱり偽菌核プレートを形成しているのかな? ベニチャワンタケの仲間とかも材が似たような感じになりますよね。

■ 2020年10月18日 撮影

2020年は間違い無く本種の大当たり年でした。 ウツロイモタケを探しに来てるんですが、被写体に困るレベルで本種が大発生していました。 顕微鏡観察は前回済ませているので、今回は生態写真の撮影に注力することに。


■ 2020年10月18日 撮影

と言うか非常に状態が良い!TOP写真もですが本当に綺麗な子実体が多いです。 なので舐め回すように色んなアングルで撮影しましょう。


■ 2020年10月18日 撮影

この赤色色素の消失は古いほど進行します。まぁ普通はそうですよね。 ただ子実体の微妙な古さの違いなんて肉眼じゃ分かりません。 一応そう判断した理由は別にあるのですが、それは後述。 でもそのおかげで良い感じに子実層面の色に違いがあって群生が華やかになりますね。


■ 2020年10月18日 撮影

いくら少し凹んでいるからと言ってこの厚みはヤバいですね。 流石はニクアツベニサラタケと同属なだけあります。 あとこの写真だと見やすいので解説。 偽菌核プレートは材の表面付近だけで、菌糸の回った内部は普通に木の色をしています。

■ 2020年10月18日 撮影

成長に伴って色が淡くなると思われる理由、それは幼菌のこの姿です。 本種は幼菌時ほぼ色ムラが無いんですよね。 発生したすぐはほぼ真っ赤で、写真右のような色のものは初めて見たかも知れません。

■ 2020年10月18日 撮影

以前から観察していたフジ材がかなり腐朽が進んでしまい、発生量が減っていました。 しかしこの場所は周囲にちょこちょこフジがあるので材が代替わりして発生が継続しています。


■ 2020年10月18日 撮影

これはちょっと脂身の多いサラミですね。もう少し赤身の多いサラミが好きかな? ちなみに本物のサラミの画像にコラしたら違和感が退職した後でした。

■ 2020年10月18日 撮影

かなり色素が抜けた子実体ですが、前から気になっていたことがあります。 それは色ムラにムラが無いと言うことです。日本語が可笑しいですが合ってますよ。 要するに「満遍無く」退色するんですよねコイツ。 風雨や日光のような外的要因で退色するなら部位によって度合いが変わるはずで、 こんな均等にムラにならないハズなんです。 つまりこの退色は本種自体の性質なのでしょう。


■ 2020年10月18日 撮影

メッチャ色抜けてて面白かったです。脂身ばっかじゃねぇか。 でも完全に色が抜けて真っ白になってるのは見ないかな?
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