■Pseudogibellula sp. (プセウドギベルラ属 No.001)

■ 2018年10月13日 撮影

ハゴロモツブタケあるいはOphiocordyceps属のアナモルフ菌類重複寄生する別のアナモルフ菌類です。 アオバハゴロモの成虫に感染する冬虫夏草の表面にギベルラに似た分生子柄を形成するのが特徴です。 当初はその冬虫夏草のアナモルフだと思っていましたが、顕微鏡観察の結果、否定されました。 ちなみに属名はざっくり言うと「ギベルラのそっくりさん」的な意味です。 ハゴロモツブタケ自体がまだ全く研究が進んでいない冬虫夏草なので書き出しに自信がありませんが・・・。

論文で「Ophiocordyceps pseudogibellulae」あるいは「Pseudogibellula formicarum」とされているものと同種、あるいは同属菌と思われます。 ちなみにPseudogibellula属はOphiocordyceps属のシノニム(別名)と言う扱いになっています。 ただOphiocordycepsとされた根拠が不明確で、当方でもOphiocordycepsと判断しうる肉眼的特徴は確認できていません。 また「P.formicarum」と同種である根拠も無いため不明種扱いにしました。 また本属菌はここでは別の冬虫夏草に重複寄生していたことが判明しました。


■ 2018年10月13日 撮影

アオバハゴロモに感染した冬虫夏草の菌糸表面に分生子柄をビッシリ形成します。 宿主の菌糸が枝にまで広がっているため、分生子柄も枝表面に見られます。


■ 2017年07月17日 撮影

もう少し拡大してみました。白い粉のようなものは虫ピンのように先端が丸い構造です。 この雰囲気は実にGibellula属菌に良く似ています。実際自分も宿主違いなだけだと最初思ってましたし。 しかし多方面からご指摘を頂き、ようやくその正体に近付けました。

そもそもこのページで紹介しているのは重複寄生菌のほうなので、食毒不明どころか調べることすら困難です。 宿主の菌体と混ざり合ってるでしょうし、顕微鏡でやっとこさ見れる分生子柄を食べるとかムリでしょうし。

■ 2017年07月17日 撮影

この子実体、同年2月28日に感染を確認していた個体です。 ハゴロモツブタケかと思ってワクワクしていたのですが、夏場になると分生子が・・・。


■ 2017年07月17日 撮影

拡大してみると虫ピンのように先端が丸いギベルラ似の分生子柄がビッシリ。 この段階ではクモ生Gibellula属菌が宿主違いで感染したのかな?くらいに思っていました。

■ 2017年07月17日 撮影

初発見個体を観察してからだったのでアナモルフだと言うことにはすぐに気付きました。 ルーペで見てもやっぱりギベルラっぽいので、単なる宿主違いだと思って落胆していたときのこと。 ぼーっと観察していると宿主の背中に不自然な突起があることに気付きました。


■ 2017年07月17日 撮影

裏返してみてようやくその正体に気付けました。これは・・・?


■ 2017年07月17日 撮影

反対側の翅が脱落したことで菌糸に埋め尽くされた胴体が露出していました。 驚くべきは分生子柄束を複数生じている点です。 国内でもストローマを伸ばすハゴロモ生の冬虫夏草が発見されています。 しかしこの本数と質感はOphiocordycepsっぽくないような気もします。 分生子柄束の表面に虫ピンのような分生子柄を形成する感じはクモ生種に似てはいますが、似て非なるもののように思われます。


■ 2017年09月08日 撮影

最終的には何と長い分生子柄束らしきものを形成してしまいました。 ただこの長い柄が重複寄生を受けたOphiocordycepsのストローマなのか、それとも本属菌のシンネマなのかは分かりません。 個人的には質感的に後者のように思うのですが、調査不足でした。

■ 2018年09月29日 撮影

gajin氏に頂いた顕微鏡であれば以前よりもより詳しく観察が可能なはず・・・。 運良くか悪くかは分かりませんが台風で子実体が砕けてしまったため、許可を頂き持ち帰りました。 分生子柄束を低倍率で観察するとGibellulaに似た分生子柄が確認できます。


■ 2018年09月29日 撮影

拡大してみるとやはりGibellula型のように見えます。


■ 2018年09月29日 撮影

高倍率で拡大してみました。分生子形成細胞が輪生する様子もGibellulaそのもの。 そのためやはりクモ生Gibellulaの宿主違いだと思いTwitterに投稿しました。 すると冬虫夏草のスペシャリスト数名の方から同様の指摘を頂き、改めて撮影した写真を観察。 そこで初めて本種がGibellula属菌でないことに気付きました。 写真の左上、小さい分生子柄の分生子形成細胞に注目です。


■ 2018年09月29日 撮影

Gibellula属菌の分生子形成細胞は先端部が平滑であり、そこから連鎖するように分生子を生じます。 それをフィアライドと呼ぶのですが、本種は分生子形成細胞先端の表面が粗面に見えます。 これ実は「Pseudogibellula formicarum」の論文に記載されている図とそっくりなのです。 となるとこれはGibellulaではありません。


■ 2018年09月29日 撮影

もう1つ本種がGibellulaではない特徴が有ります。それは分生子が連鎖しないことです。 Gibellula属菌の分生子を観察するとかなりの数の連鎖したままの分生子が観察できます。 しかし本種はどこを見ても何度試しても全くそれが見られません。1つもです。 また分生子細胞そのものも一回り小さいように見えます。

■ 2019年10月27日 撮影

今年は宿主となるアオバハゴロモ生の冬虫夏草が大発生! 安心して昨年から観察していた子実体を確認してみると・・・おー!出てる! これ実はOphiocordyceps属(No.001)のページの2018年10月13日に撮影した子実体なんです。 枝分かれとか同じでしょ?1年かけて宿主の状態から重複寄生されるまでを観察できました。


■ 2019年10月27日 撮影

黒バック撮影してみました。流石に宿主は1年も経ってるので完全に脱色しちゃってますね。 広がっていた紫色の菌糸は色褪せ、その表面に特徴的な分生子柄を形成しています。 ちなみに糸クズみたいなのはクモの巣です。


■ 2019年10月27日 撮影

上から見てみました。そう言えば背中から何か出てません?


■ 2019年10月27日 撮影

本種は基本的に宿主の菌体表面に直接分生子柄を形成します。 しかし稀に分生子柄束と思える細長い子実体を伸ばしているものがあります。 背中から左右にニョキニョキ伸びているのがソレですね。 これが宿主のものなのか、それとも本種のものなのか、そこが良く分かりません。 遺伝子調べないと分からないですね。


■ 2019年10月29日 撮影

27日は時間が無かったので2日後に時間を取って顕微鏡観察しました。 前回は宿主が脱落していたので材の表面に微かに残った検体を元に観察を行いました。 しかし今回は幸い土地の所有者様に許可を頂き枝ごと採取させて頂きました。 よって贅沢に観察することができます。まずは花火のような分生子柄をば。


■ 2019年10月29日 撮影

分生子柄の先端には分生子形成細胞が放射状に形成されて球形になっています。 顕微鏡だと一定距離にピントが合うため、このように平面に見えますが。 分生子形成細胞の先端には分生子が形成されていますが、やはり連鎖しないですね。


■ 2019年10月29日 撮影

本属菌の特徴として分生子形成細胞先端が粗面と言うものが挙げられます。 本来であれば電子顕微鏡とかで見るレベルなのですが、家庭環境でも辛うじて観察できます。 油浸対物レンズと光源を工夫することで何となくですが先端の構造が把握できます。 ここ1年で少しは顕微鏡の腕は上げられたでしょうか?


■ 2019年10月29日 撮影

分生子も昨年より鮮明に撮影することができました。 昨年は少し潰れてしまっていましたが、今回は状態も良く楕円形〜紡錘形だと言うことが分かります。 そしてどこを見てもやっぱり連鎖しているものは見当たりません。
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