■Pulvinula sp. (プルヴィヌラ属 No.001)

■ 2022年09月04日 撮影

セミ生冬虫夏草を求めて訪れたヒノキ林にて見慣れないチャワンタケを発見。 今まで見て来たどのチャワンタケとも頭の中で合致せず、気になって持ち帰ることに。 顕微鏡観察しても心当たりが無く困りましたが、ミクロ的に一致する種に辿り着きました。 属レベルで国内での発見がほとんど無い比較的珍しい子嚢菌類です。 腐植質の多い地上に散生するようで、いかにも富栄養そうな黒く朽ちたヒノキの腐植から出ています。

同属菌だと国内では「P. constellatio (マルミノコベニチャワンタケ)」が存在します。 ただ文献を読んだ感じだと肉眼的には子実体の色が、顕微鏡的には胞子の内包物の様子が異なります。 同種と思しき種を発見している某チャワンタケサイトでも不明種とされています。 色に関しては個体差はありますが、本種は明らかに黄色が強いようです。


■ 2022年09月04日 撮影

初見での感想は2つ。それは「変な色だな」と「変な形だな」でした。 まず色ですが、単なるオレンジ色ではなく、少し赤みが加わっているような独特な色合い。 また形状ですが、茶椀形ではあるのですが縁部が不規則に波打つ性質があります。


■ 2022年09月04日 撮影

持ち帰ろうとして掘り起こすとヒノキの球果から出ていました。 と言うよりは朽ちて土となったものが覆った状態の球果にくっ付いている状態。 なのであくまでも腐植から出ていると考えられます。 海外でも本属菌は富栄養な土壌から出るものが多いようです。


■ 2022年09月04日 撮影

帰宅して黒バック撮影してみました。ヒノキの球果はかなり分解されて土になりつつあります。 やはり色合いも形状も独特です。この時はまだ属名すら見当が付かず困っていました。 これはもう顕微鏡観察するしか無い・・・と言うことで切片を作成。 肉質は小さいワリにしっかりしており、綺麗に切断することができました。


■ 2022年09月04日 撮影

子嚢盤の切片を低倍率で観察してみました。子実層の厚みは子嚢盤の約半分ほど。 オレンジ色の色素は子実層に多く存在するようです。 ただこの倍率ではあまり特徴が分かりませんね。


■ 2022年09月04日 撮影

少し倍率を上げて子実層を観察。子嚢と側糸が見えて来ました。 この時は胞子が丸いんだな〜程度に考えていましたが、これこそ本属菌に辿り着くためのキーでした。


■ 2022年09月04日 撮影

属レベルで見当がつかない場合は子嚢と側糸、子嚢胞子の細部をしっかり調べる必要があります。 そのためまずは子嚢を切り出してみました。重要なのは基部が二股になること。 本属菌と判断する理由その1です。なおこの頃から胞子の不思議な見た目に気付き始めました。


■ 2022年09月04日 撮影

次に側糸を調べます。側糸は糸状で隔壁あり。色素は根元付近にはあまり含まれていません。 注目すべきは先端のカールと分岐が見られること。特に前者です。 本属菌と判断する理由その2がコレ。


■ 2022年09月04日 撮影

側糸先端を拡大してみました。低倍率では分かりませんでしたが、色素が2色あるような? 鮮やかな橙黄色のものと赤黒いものの2種類が内包されているように見えます。 単なるオレンジ色ではなく、少し赤っぽいと感じたのはこのためでしょうか?


■ 2022年09月04日 撮影

本属菌と判断する理由その3がこの球形の子嚢胞子でした。 ただ最も大切なのは形状ではなく、大型の油球を複数内包していることです。 この胞子の外見だけでもある程度Pulvinula属を疑えるくらいには特徴的なのです。 また本種を不明種として扱おうと決めたのもこの油球の納まり具合が理由。 本種の油球は大きさがほぼ均等でみっちり詰まっていますが、 他の同属菌はもっと細かい泡状だったりしてかなり見た目が異なります。


■ 2022年09月04日 撮影

ダメ押しでメルツァー試薬によるアミロイド反応も確認してみました。 当然ですが文献通りの非アミロイドであり、全く青くなりませんでした。 ここまでの観察結果から本属菌と判断。属までは合っていると思います。

不明種なので当然ですが食毒不明です。 ただ非常に小型なので仮に無毒でも食用価値は無いでしょう。 腐植が多い環境に出る時点で土臭くてくえたものじゃないでしょうし。


■ 2022年09月04日 撮影

最後に発生環境ですが、場所的に動物の糞尿跡に出るアンモニア菌も疑いました。 確かに本属菌には焼け跡に出る種があるので、可能性は無くも無さそうです。 ただ今回の状態だと流石に判断のしようがありません。とりあえずは普通の腐生菌として扱っておきます。 見付けている方はほかにも居られるので、新情報が出て来ることに期待したいですね。
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