■Sclerogaster sp. (スクレロガステル属 No.001)

■ 2023年05月03日 撮影

しんや氏を午前中に私の地元フィールドへご案内し、逆に午後からはしんや氏のフィールドへお邪魔。 冬虫夏草探索が主目的でしたが、その道中に発生ポイントを見せていただきました。 私自信この属の菌自体は初見だったので嬉しかったです。 夏から冬にかけて腐植の多い場所に発生する地下生菌で、まだ和名はありません。 今回は広葉樹の腐朽材に集中して発生していました。 顕微鏡観察の結果「地下生菌識別図鑑」の「sp.1」と同種と考えて良さそうです。

本種は地下生菌としては珍しく菌根菌ではなく腐生菌です。 こんな外見ですがエリマキツチグリやヒナツチガキなどのヒメツチグリ属に近縁で、 幼菌などは良く似ています。腐生菌故に発生環境が特定しにくいのが厄介ですね。


■ 2023年05月03日 撮影

子実体は類球形で白色、部分的にやや褐変しているように見えます。 特徴的なのは菌糸マットから発生するため菌糸が入り乱れていることです。 菌根性の地下生菌は根状菌糸束を持っていることが多いので、 腐生性らしく広範囲に広がった菌糸が異質ですね。


■ 2023年05月03日 撮影

子実体を切断してみると、内部は白色・・・ちょっと未熟だったようです。 頑丈な外皮があったのでカッターの刃が引っかかって剥がれてしまいました。 あと気のせいかと思いましたが、少し肉に黒変性があるような気がします。 未熟な感じがちょっと不安でしたが、顕微鏡目的で採取させていただきました。


■ 2023年05月04日 撮影

深夜までかかって顕微鏡観察と黒バック撮影を済ませました。日付の前後はソレが理由です。 まずは外皮と断面を黒バック撮影です。外皮は白色で結構滑らかな質感です。 断面はまだ未熟なのでほぼ真っ白で、厚くてしっかりした外皮が存在します。 未熟なヒメツチグリ属菌と言われても納得する見た目ですね。


■ 2023年05月04日 撮影

拡大するとこんな感じで未熟ながらもグレバに小腔室が確認できます。 ただスポンジ状と言うよりは泡状と言う感じで、空間より肉が多く詰まってる感が凄いです。 そのためか触った感じも切る時の感触も「硬い」ですね。


■ 2023年05月04日 撮影

まだ未熟なので胞子は見れないかと思いつつ一応顕微鏡観察してみました。 まずはグレバを薄く切って低倍率撮影してみました。 丸い空間が小腔室で、この内壁に子実層面が存在します。 この写真を見ても分かりますが、明らかに空間の比率が低いですね。


■ 2023年05月03日 撮影

子実層面をザックリと切り出して確認してみました。表面には担子器がビッシリ! 4胞子性かと思いましたが、明らかに4個以上の胞子が付いているものが見えてますね。 ショウロとかで見たような光景です。


■ 2023年05月04日 撮影

担子器を切り出してみましたが、小柄がほぼ無いんですね。形状も不安定だし、 地下生菌に進化する過程で担子器自体がかなり退化しているように見えます。 ヒメツチグリ属は内部が粉状になるので、担子器については元々かも知れませんが。


■ 2023年05月03日 撮影

やや未熟ではありましたが、一応担子胞子も観察できました。 形状としては卵形で表面に小さないぼが存在します。 ただ複数の胞子が房状に付くと言う特徴はあまり確認できませんでした。 恐らく未熟で胞子がしっかり担子器に付いた状態だったので、 観察時に胞子だけが脱落してしまったものと思われます。


■ 2023年05月10日 撮影

実はここで終わらないんです。地下生菌は基本的に菌根菌が多いので、 採取後に追培養しようとしても成長できずにそのまま朽ちてしまうのが普通です。 しかし本種は腐生菌なので、ひょっとして追培養できるのでは?と思い実行。 すると1週間後にタッパー内のサンプルを見てみると、白かったハズのグレバに色が!


■ 2023年05月10日 撮影

グレバの色の変化に驚いて再度セッティングして黒バック撮影してみました。 前回は真っ白だったグレバは淡茶褐色になっており、 図鑑に掲載されている写真とソックリな見た目になっていました。これは感動しますね!


■ 2023年05月10日 撮影

子実体の中心付近には白いままの部分が。どうもがあるみたいですね。 ただ進化元が傘と柄を持つタイプの担子菌類ではないので、起源が違いそうですけど。


■ 2023年05月10日 撮影

色付くと小腔室の特徴が良く分かります。本種の小腔室は小さな泡状のため、 グレバ内における空間の割合が他の地下生菌に比べて相対的に小さいです。 切断面に小腔室断面があまり見られないことからも肉部分が多いことが良く分かります。


■ 2023年05月10日 撮影

成熟したと判断して子実層面を再度顕微鏡観察! すると前回とは明らかに様子が異なります。 大きな胞子が目立ちますし、あの特徴も良く出ていますね。


■ 2023年05月10日 撮影

胞子の形状は1週間前に観察した時と変わりませんが、明らかに全体的な雰囲気が異なります。 と言うのも複数の胞子が房状になっているんですよね。 これは成熟したことで担子器が消失した際、 担子器の先端付近が残ることで複数の胞子が繋がったまま切り離されるためです。 そしてこの特徴は「地下生菌識別図鑑」の「sp.1」の特徴そのもの! 肉眼的、顕微鏡的な特徴から同種として良いと思われます。

元がヒメツチグリ属菌と言うことで猛毒菌の可能性は低いですが、そもそも不明種なので食毒不明は当然。 見付けても食べないほうが良いでしょう。 ちなみに成熟しても香りはワリと不快ではなく、普通のキノコ臭がしました。
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