■Scutellinia sp. (アラゲコベニチャワンタケ属 No.001)

■ 2018年05月20日 撮影

新しい顕微鏡を頂き、色んなキノコで観察の練習をしていた頃に出会った本種。 アラゲコベニチャワンタケがかなりの数に分かれたと言う話は聞いていたので確かめてみました。 もしかしてこれが本家かと期待しましたが、残念ながら別種だと判明しました。 本種が新顕微鏡を最初にフル活用したキノコとなりました。

本属菌の同定には発生環境や子実体の肉眼的特徴だけでなく、胞子や外側の毛の基部の構造などを顕微鏡で確かめる必要が有ります。


■ 2018年05月20日 撮影

子実体は直径1cmまでで柄の無い皿形。子実層面は赤橙色でかなり赤みが強いです。 また内部の組織に粘性が有り、切片作成時に刃に貼り付いて苦労しました。 椀の外側にはまつ毛のような褐色の剛毛が生えているのが本属菌の特徴です。 剛毛は椀の縁部だけが特に長く、それ意外の部分は薄っすらと生えています。 地上生と言うのもポイントでしょう。


■ 2018年05月20日 撮影

子実層を切り出して顕微鏡で観察してみました。側糸内部に橙色の内包物が有ります。 ここで重要なのが子嚢内部に見える子嚢胞子の形状です。


■ 2018年05月20日 撮影

子嚢胞子は楕円形で表面に大型の疣状突起が見られます。 本当のアラゲコベニチャワンタケは微細な疣なので、この時点で無印でないのが確定しました。 コットンブルーによる染色にも挑戦しましたが、加熱が要ることを知らずに失敗。後日再挑戦しました。


■ 2018年05月20日 撮影

メルツァー試薬で染色してみましたが非アミロイドのため子嚢には変化はナシ。 しかしなぜか側糸が暗紫色に染まると言う不思議な結果に。 この暗い紫色ってもしかしてヨウ素デンプン反応ってヤツですかね?


■ 2018年05月20日 撮影

あと気になったのは子嚢内部の様子。本来は8つ有るはずの子嚢胞子が明らかに足りません。 見れば成熟しなかった赤血球みたいな形状の胞子の成れの果て見えています。 不思議とほとんどの子嚢がこんな状態なんです。これが本種の特徴なのかも。

土臭くて食不適です。基本的に小型の盤菌なんて食べようって気になれませんからね。 ただ当然ながら前提として食毒不明ですので、興味本位で食べたりしないように。

■ 2018年05月22日 撮影

リベンジのために一度は捨ててしまったサンプルをゴミ袋から探し出して来ましたよ! 今回はちゃんと前処理の後にコットンブルーにて染色してみました。 酢酸臭がする程度までライターで炙ってから観察すると・・・染まってる!


■ 2018年05月22日 撮影

子嚢胞子の表面には大型の疣状突起が有りますが、染色無しの状態とは比べ物にならない見やすさです。 立体感までハッキリ。しかも青色の染色が実に美しい!


■ 2018年05月22日 撮影

ここでピントを調整していて気が付きました。 胞子の表面ではなく内部に焦点を合わせると無数の油球が確認できます。 しかも油球が適度に間を空けてバランス良く配置されています。 このような内包はあまり見ないタイプかもですね。


■ 2018年05月22日 撮影

あまりにも美しかったので思わず撮影。不稔の胞子は染まらないんですね。

■ 2018年05月26日 撮影

前回撮影し忘れた外側の剛毛を観察してみました。確認すべきは毛の根元。 剛毛の基部が分岐するか否かが同定に重要なのです。本種を見ると基部に分岐は見当たりません。 そのような種が無いか調べてみましたが、残念ながら力不足で同定には至らずでした。

■ 2018年05月31日 撮影

ずっと標本を捨てずに置いていたのでもう一度観察してみました。 せっかくなのでピントをずらして撮影し、なんちゃって手動深度合成してみました。 立体感は分かりやすかったですが、時間が経っていたためかあまり濃く染まりませんでした。
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