■Stephanospora sp. (ステファノスポラ属 No.001)

■ 2019年09月21日 撮影

北海道遠征で初めて出会った地下生菌であり、属的にも初見の地下生菌でした。 2日目の観察会で針葉樹林内にて発見。 ガガンボ氏が最初に発見し、それに続き近辺でポコポコ見付かりました。 断面の質感と香り、色、どれもこれも非常に特徴的な属です。 こんな外見ですが背着生型菌を起源に持つと言う珍しい地下生菌です。

背着生の担子菌である「Lindtneria」と呼ばれる属から進化した地下生菌です。 両属菌が至近距離で発見されることもあります。てかこの日も発見されました。 撮影しておけば良かったなぁと後悔。ちなみに属名は胞子の形状を示しています。


■ 2019年09月21日 撮影

子実体はやや扁平な球形で色は黄色。 非常に派手な色合いなので、ありさえすればまず見落としません。 表面は菌糸を纏った粗面ですが、あまり凹凸は無く整った形状ですね。


■ 2019年09月21日 撮影

切断してみました。内部は表面とほぼ同じ色合いで、地下生菌らしい小腔室が確認できます。 しかし見慣れた感じではないような・・・実はこのグレバの感じは凄く独特なんですよね。 注目すべきは香りで、フルーツ様の甘い香りを放つのが特徴です。 この臭気はかなり強烈で、ケースに入れておいて開けた瞬間に嗅ぐと「ウッ」となるレベルです。 ただ果実臭に混じってスカッとした薬品臭が混じっています。


■ 2019年09月24日 撮影

帰宅後に黒バック撮影してみました。通常の状態と断面を並べての撮影です。 注目すべきはグレバの断面。不定形な孔のあいた小腔室であり、かつその壁が厚いのです。 見慣れた地下生菌は迷路状の孔を持つのですが、本種の小腔室は大きくて荒い作りに見えます。


■ 2019年09月24日 撮影

子実体の表面は薄い菌糸に覆われており、これが成長に伴って亀甲状にひび割れています。 ひび割れ部から中の繊維状の菌糸が見えているのは、明確な表皮の層が存在しないためですね。 これは断面を拡大すると良く分かります。


■ 2019年09月24日 撮影

表面付近を拡大すると、子実体のギリギリまで小腔室が形成されているのが分かります。 要は薄い菌糸の膜に覆われているだけで、子実層面が露出寸前なのですね。 まるで管孔がそのまま丸くなったかのようで、背着生から進化したってのも頷ける構造です。


■ 2019年09月24日 撮影

更にグレバを拡大してみました。やはり小腔室の壁の厚さが気になりますね。 小腔室表面に胞子が形成されているのもこの倍率で確認できます。 また小腔室内部にクモの巣状の菌糸が張るのも本属菌の特徴のようです。


■ 2019年09月24日 撮影

顕微鏡観察開始、まずは低倍率から。やっぱ壁が分厚い。


■ 2019年09月24日 撮影

もう少し拡大してみました。胞子とクモの巣状の菌糸が確認できます。 胞子は地下生菌らしい丸くてトゲのある普通にモノに見えますが・・・然に非ず。


■ 2019年09月24日 撮影

担子器も確認でき、3胞子性のモノもチラホラ見えますが、基本的には4胞子性のようです。 元々が管孔を持つ背着生のキノコですが、ベニタケ目なので当然担子菌類ですよ。


■ 2019年09月24日 撮影

そしてこれが本種の最大の特徴である担子胞子、油浸対物レンズでないと流石に見えませんね。 胞子は直径9μm×10μm前後。球形に見えますが実際は若干楕円形です。 識別図鑑に掲載されている種や京都で発見したものでは明確に楕円形なので、それらとは別種でしょう。 最大の特徴は表面の大きなとげの配置です。右の4つ集まったものが分かりやすいかな? 本種は表面の嘴状突起をとげが囲むと言う性質があります。 これを王冠に見立てて「stephano-(王冠状の)」と「spora(胞子)」で属名になっているんです。 分かりやすい特徴ですが、担子菌類の定めか胞子が小さいため、油浸対物じゃないと観察は難しいですね。

食毒は不明ですが、小型なので食用価値は無いでしょう。 香りは確かに甘い感じで悪くはないですが、それが逆に不気味と言うか・・・。 個人的には芳香で野生動物を誘引しようと言う地下生菌は無毒じゃないかと疑っていますが、人間に無毒とは限りませんし。

■ 2019年09月24日 撮影

同じ日に別のフィールドで採取した子実体たちです。 扁平ながらも整った形状、子実体の派手な黄色、胞子観察の結果などから同種と見て間違い無いでしょう。 すぐ近くでLindtneria属菌も見付かったので、撮影しとけば良かったと後悔しています。 注目すべきは左の老菌。薄い表皮が消失してグレバがむき出しになっています。 こりゃ確かに背着生菌が起源だと言われても納得ですわ。
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