■Stephanospora sp. (ステファノスポラ属 No.002)

■ 2020年01月15日 撮影

前年は様々な地下生菌が出たフィールドですが、事前のベテラン勢調査では不作。 後日複数人で探しましたが同じく不作でした。 そんな中で広葉樹林地上で見付かったのは2019年に北海道で初めて出会った本属菌でした。 自力発見は初めてだったので嬉しかったですね。 同種かと思いましたが外見や断面、胞子などに違いがあり別種であると判断しました。 香りに特徴があり、管孔を持つ背着生型のキノコから進化した地下生菌です。

管孔を持つ背着生の担子菌、Lindtneria属から進化した地下生菌です。読みは「リンドネリア」かな? 生態が似ているためか両属菌が近距離で見付かることもあります。


■ 2020年01月15日 撮影

基本的に本属菌は黄色系の種が多いみたいです。 小型ですがそこそこ色は派手なので、あれば目に付く感じですね。 この日見付かったのは大小2個体。あまり群生はしない印象です。


■ 2020年01月15日 撮影

北海道で初めて見た種は綺麗な球形でしたが、本種は不規則な塊状です。 表面も粗面ですね。本属菌の特徴でもありますが、嗅いでみるとフルーツ様の甘い香りがします。 恐らく臭気で野生動物を寄せ、胞子の散布をさせているのでしょう。


■ 2020年01月15日 撮影

切断してみると不定形な孔のあいた小腔室が確認できます。 迷路状ではなく丸い穴がポコポコ空いたような感じで、見慣れた地下生菌のグレバとは印象が異なります。 切断すると臭気は更に強くなり、ケースに入れておいて一気に開けるとかなり強いニオイを感じます。 ただ甘い香りに混じって菌類特有の臭気が感じられますけどね。


■ 2020年01月15日 撮影

表面と断面の双方を黒バック撮影してみました。 表面はそこそこ目立つ黄色ですが、グレバは彩度が低いようで何となくグレーっぽく見えます。


■ 2020年01月15日 撮影

子実体表面は黄色ですが、初めて見た同属菌とは明らかに雰囲気が違いますね。 表皮はやや厚みのある緻密な菌糸で覆われています。 ですが表皮が薄い部分は外側が小腔室と繋がり穴が開いたようになっています。 グレバが表皮のギリギリ下まであるのでこうなるようです。


■ 2020年01月15日 撮影

グレバの断面を拡大してみました。胞子の色が濃いためか小腔室内壁が褐色になっています。 グレバを構成する肉は辛子色でやや透明感があり多汁。 このグレバ内部にクモの巣状の菌糸が張るのは本属菌共通の特徴でしょうか? 他の地下生菌では見ませんよねコレ。


■ 2020年01月15日 撮影

グレバを薄くスライスして顕微鏡観察してみました。 普段全体像を撮影するための倍率なのですが、グレバの壁が厚いので窮屈に見えます。


■ 2020年01月15日 撮影

倍率を上げると凄い数の胞子が・・・成熟度は問題無さそうです。 ですがこの倍率では属名の由来にもなっているとある特徴は流石に見えませんね。


■ 2020年01月15日 撮影

担子胞子は類球形・・・と言うかわずかに楕円形で表面にはトゲが生えています。 直径は7μm×9μmで北海道で見た種と比べると明らかに一回り小さいです。 それぞれの写真を見るだけでは分かりませんが、画像編集で重ねると結構大きさが違います。 また胞子自体の色も本種のほうが明らかに濃色ですね。やはり「sp.001」とは別種のようです。


■ 2020年01月15日 撮影

本種の属名は分解すると「stephano-(王冠状の)」と「spora(胞子)」の意味になります。 この王冠と言うのは担子器と繋がっていた嘴状突起をとげが囲む本種の胞子の特徴に由来します。 楕円形の胞子を細い方向から見ないと分かりませんが、良い感じに右端にその姿を捉えることができました。 観察に油浸対物レンズが必須の特徴なのでちょっとハードル高いんですけどね。


■ 2020年01月15日 撮影

気になって小腔室内部の菌糸も観察。 やたら透明感があって周囲の組織を構成する菌糸とは雰囲気が異なります。 これって小腔室が広がる際に残ったものなんでしょうか。

食毒は不明ですけど、そもそも小型なので最低でも食用価値無しでしょう。 臭気で生物を寄せる地下生菌は毒性が無い可能性が高いですが、あくまで推測に過ぎませんので。 甘い香りはしますが、別に菌に求める性質じゃないですからね。
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