■Tolypocladium sp. (トリポクラジウム属 No.002)

■ 2021年02月20日 撮影

以前は遠征時にしか見ることができていませんでしたが、地元に大発生地を発見しました。 早春に照葉樹林のアミメツチダンゴから発生する菌生冬虫夏草です。 以前訪れた経験を元に発生坪に似た環境を探し、そこから発見に繋げることができました。 同じ場所にハナヤスリタケやヌメリタンポタケが足の踏み場も無いほど出る良い坪に出会えたと思います。

以前から「春型のタンポタケ」と呼ばれ混同されていましたが、ほぼ別種で間違い無いみたいですね。 針葉樹林のツチダンゴから発生する黄色系の「秋型のタンポタケ」が本当のタンポタケなのです。 両種を胞子まで比較観察したことで自分の中でも別種と言う結論に至りました。 発生時期や宿主だけではなく、子実体の色などにも大きな違いがあります。 胞子が酷似すると言われますが、両種の胞子を観察すると違いは確かに存在します。 なのでこのページでは秋型の無印タンポタケの比較を中心に文章を書いています。


■ 2021年02月20日 撮影

子実体はオオセミタケなんかで見慣れたタンポ型。 特徴的なのはその色で、全体的にオリーブグリーンをベースとしている点です。 秋に出るホンモノのタンポタケは全体的にもっと黄色みが強く、並べてみると全く雰囲気が違います。


■ 2021年02月20日 撮影

子実体の1本を拡大してみました。 基部は白色ですが徐々に黄色を帯び、それが緑色に色濃くなって結実部へと続いています。 若干いびつですが結実部は球形で表面に子嚢殻が並んでいます。 本種の子嚢殻は埋生型でほとんどが結実部に埋没しており、表面の小さな点は子嚢殻の頂孔です。 この頂孔は若干突出しており、ここから子嚢胞子を噴出します。


■ 2021年02月20日 撮影

掘り出してみました。埋もれていたアミメツチダンゴから発生しています。 実は同時期に同じ宿主からヌメリタンポタケと言う別の菌生冬虫夏草が発生します。 パッと見が似ていますが、この基部の白さで判別できることが多いです。 と言うのも本種の肉は白色なんですよね。 ヌメリタンポタケも本家タンポタケも肉が黄色を帯びるので非常に有用な判別法です。


■ 2021年02月20日 撮影

帰宅後に黒バック撮影してみました。何か・・・宇宙人みたい・・・。


■ 2021年02月20日 撮影

室内で見ても緑色っぽさは感じられますね。 こうして見ると一直線に亀裂が入り、そこから菌体が吹き出してきたような痕跡があります。 基部の白い突起は子実体になりかけて成長が止まったのかな? 不思議と真上ではなく側面から出ることが多いように感じます。

食毒不明ですが、タンポタケと同じなら恐らく食用価値無しでしょうね。 ちなみに香り自体は普通にキノコキノコしています。

■ 2017年03月04日 撮影

初発見はどろんこ氏主催で行われた春の冬虫夏草オフ。 この日は神社の照葉樹林を探索し、3個体が見付かりましたが、全てガガンボ氏が発見。 ガガさんが波に乗っていた日であり、実況動画にもなっております。


■ 2017年03月04日 撮影

ありがたいことに宿主が完全に露出しており、被写体的には静止画、動画共に助かりました。 アミメツチダンゴは基本的に浅い場所に出ていることが多いですからね。 この子実体はまだ未熟。最終的にはガガさんが持ち帰りました。

■ 2017年03月04日 撮影

3株見付かった中の1株です。幼菌時はこのように緑色が強く出ます。 注目すべきは根本。本種は内部の肉が白色なんですよね。 亜高山帯で見た真タンポタケは内部が黄色なので流石に個体差のレベルではないでしょう。

■ 2017年05月27日 撮影

3月4日のオフでは自力発見できなかったのでどろっさんに頼んでリベンジ。 菌生冬虫夏草的には完全に時期外れですが綺麗な子実体を無事発見。 でもほとんどはしなびた老菌でした。ギリギリセーフだったかも知れません。


■ 2017年05月27日 撮影

春型の白バック撮影。標本採取できないとこれが撮れません。 やはり以前亜高山帯などで見た秋型と違って全体的に彩度が低いです。 老菌と言うのは宿主のツチダンゴが萎んでいることからも分かりますね。 あとこれは感覚的な話ですが、一旦横向きに出るのが多いのかな? まぁこれは他の菌生冬虫夏草にも言えることですが。


■ 2017年05月27日 撮影

結実部周辺を拡大です。柄のだんだら模様も暗色なのが面白いです。 ただ古かったせいか残念ながら胞子は採取できませんでした。これはリベンジが必要ですね。

■ 2018年04月30日 撮影

黄金週間に行われたK.Y氏主催の冬虫夏草兼地下生菌オフにてアメジストの詐欺師氏案内で発見。 時期的にはギリギリだったと思います。 アメさんが「タンポタケは案内できます」とのことで訪れましたが、それらは実は別種のヌメリタンポタケ! しかしその中に混じって本種が生えていて研究中だったK.Y氏は無事標本を多数採取できました。


■ 2018年04月30日 撮影

アメジストの詐欺師氏が断面作成を任されましたが、宿主をガリッっと。 下にもう一つアミメツチダンゴが有り、勘違いして横を掘ってしまったとのこと。 やっぱり宿主の真横から出ていることが多いってのは当たってるかもですね。 ところで地下に玉が2つ、地上にこの形状の子実体・・・何か卑猥ですねぇ。

■ 2018年04月30日 撮影

アミメツチダンゴから出た幼菌です。時期的に不稔で終わっちゃうかな・・・? この日はK.Y氏への標本提供を優先したため、自分は採取しませんでした。

■ 2019年01月26日 撮影

今まで採取の機会に恵まれなかった本種ですが、地元発見となれば話は別です。 心置きなく標本ゲットですが、残念ながらどれもまだ未熟。追培養を行うことになりました。 以前別種で失敗しているので心配でしたが、とりあえずケースに植えて放置することに。


■ 2019年02月10日 撮影

採取から約2周間後のこと。午後から外出しようと思って準備していたらケースに違和感が。 「今回もカビが発生して失敗だったか」と一瞬思いましたが、すぐにそうではないと気付きました。 ケースの縁に乗ってる・・・これはカビが生えてるんじゃない!子嚢胞子が積もってるんだ! 昨晩寝る前は何ともなかったハズ。一晩で噴出したのですね。


■ 2019年02月10日 撮影

慎重に綿毛のような子嚢胞子を針で絡め取り、スライドグラスの上の水滴に触れさせます。 すると綿あめが溶けるように水滴に吸い込まれて行きました。 やはりかなり二次胞子に分裂しやすいようです。未分裂の子嚢胞子を探します。


■ 2019年02月10日 撮影

やっと未分裂の子嚢胞子を観察することができました。 子嚢胞子は糸状で長さはちょっと長めの450μm〜500μm。 タンポタケと同じで16個の二次胞子に分裂し、両端の二次胞子は一方の端が尖ります。


■ 2019年02月10日 撮影

二次胞子は紡錘形で3μmほどの長さのものが多いです。 とここまでの観察では無印のタンポタケと大きな違いが感じられませんでした。


■2019年02月10日 撮影 (左)
■2018年09月16日 撮影 (右)


ここでふと気になって同倍率で撮影した無印タンポタケの子嚢胞子を編集で並べてみました。 そうしてできたこの画像を見てふと違和感を覚えたのです。 胞子の長さはまちまちなのでまぁ良いのですが、感じたのは「小さい」と言う感覚。 なぜか無印タンポタケの胞子は春型タンポタケの胞子よりミニチュアに感じたのです。


■2019年02月10日 撮影 (上)
■2018年09月16日 撮影 (下)


その理由は二次胞子を見て分かりました。春型のほうが胞子が太いのです。 並べないと分からないレベルの微妙な差ではありますが、確かに太いように見えます。 「短い」ではなく「小さい」と感じた原因はコレだったんですね。 単体で並べただけでは気が付かない違いでしょう。

■ 2019年01月26日 撮影

奥の2個体はヌメリタンポタケ、手前の1個体が春型のタンポタケです。分かりづらっ。 追培養が失敗した時のために予備でこの1株も追培養していました。 胞子を吹いた子実体は腐ちてしまったため、コチラを標本として保存することにしました。


■ 2019年02月13日 撮影

カミソリを用いて子実体を宿主ごと真っ二つに切断すると内部は混じりっ気のない純白。 ヌメリタンポタケや無印タンポタケのように黄色みを帯びていません。


■ 2019年02月13日 撮影

子実体内部は中実ですが肉質はかなり脆いため切断時は宿主とかなり手応えが違いました。 色素を持っているのは表皮部分だけで、表皮直下ですでに真っ白です。 子嚢殻が埋生する様子が良く分かります。 土臭さのような不快な臭いもなく普通のキノコ臭がしました。


■ 2019年02月13日 撮影

宿主のアミメツチダンゴの断面です。 胞子は形成してはいますが部分的で、やはり発達が抑制されているようです。 どうやって菌糸が外に出るのか疑問でしたが、左側の断面を見て納得。 太い菌糸が突き抜けるのかと思ってましたが浸透するように通り抜けるのですね。

■ 2019年02月16日 撮影

旧TOP写真です。非常に状態が良かったのですが、ちょっと汚れが残念でした。 どうしても地表に近くなるので雨で汚れちゃうんですよね・・・。


■ 2019年02月16日 撮影

汚れが気にはなりますが、傷付いているので肉が白色なのが分かりますし、 ツチダンゴが露出していて宿主の配置も撮影しやすい理想的な子実体でしたね。 通常、子実体の傷みはマイナス要素なのですが、本種の場合は特徴の1つなので悪くはないですね。

■ 2019年03月16日 撮影

この場所ではハナヤスリタケ、ヌメリタンポタケ、本種の順で発生量が多いです。 本種は比較的控え目なのか、ポツリポツリと発生している感じ。

■ 2019年04月27日 撮影

流石に春の菌生冬虫夏草もシーズンオフ間際ですね。 流石にもう無いかなと思っていたら春タンポもまだ残っていました。 撮影時は気付きませんでしたが柄に何か居ますね。 ダニかと思ったけど、この尾部の形状は赤系のマルトビムシかな?

■ 2020年02月17日 撮影

コロナ騒動が本格化し始めた頃ですが、地元なので普通に見に行きました。 ただ暖冬だったからか発生が早かったようで、多くが成熟し切って胞子を吹いたものばかりでした。 また地元は雨が多かったため泥ハネが酷く良い被写体が少なかったです。 でも今年もハナヤスリタケと並んで発生する様子が見られました。

■ 2020年02月17日 撮影

かなり状態の良い子実体だったのですが・・・うーん惜しい。 自分は極力自然の状態で撮りたいので掃除しない派なんですよね。 汚かったら汚かったでそれは自然の姿ってことで。

■ 2020年02月17日 撮影

そんな中でも綺麗な子実体もありましたよ。うーん愛らしい! やはりこうして見るとかなり浅い位置の宿主から出ていますね。 また不思議と側面から子実体が発生します。

■ 2020年02月17日 撮影

状態は良くないですが発生量は中々のモノでした。 場所によってはこんな感じで群生しており、見応えは抜群です。 やはりヌメリタンポタケとは子実体の色と子嚢殻の突出の仕方が全く違いますね。


■ 2020年02月17日 撮影

手前の子実体が何か変だなと思ってみてみたら何と結実部が炸裂していました。 子嚢殻を形成している層がパーンしていて、子嚢殻の裏側が見えてしまっています。 オオセミタケでも似たような状態を見ましたが、恐らく過熟によるものと思われます。 でも白い肉と子嚢殻の基部が自然と見れるなんて滅多にありませんぜ。

■ 2020年03月21日 撮影

コレ以降は新型コロナウイルス感染拡大防止が本格化し、遠征は不可能となりました。 なので貴重な機会となりましたが、発見的にもクロイボツチダンゴが見付かったり ジムゲルデマンニア属の初見種が見付かったりと地下生菌的に大収穫の一日となりました。 そんな中で数多く見付かったんが本種。良い被写体が多かったです。

■ 2020年03月21日 撮影

地下生菌がメインの遠征でしたが、本種も何か良い雰囲気だったのでパシャリ。 こう言う目立たないキノコを探すのは宝探しのようで楽しいものです。

■ 2021年02月06日 撮影

今年は地元での発生が遅れている春型タンポ。 そろそろ出ているだろうと思って訪れたのですが全然見当たらずガッカリ。 諦めてコロモツチダンゴを掘ってたら手前に幼菌が出ていました。 幼菌でも基部の白さでイッパツです。

■ 2021年02月20日 撮影

2021年は菌生冬虫夏草フィーバー!地元で私が「聖地」と呼んでいる場所が大爆発! 例年だとハナヤスリタケが多くてタンポ型の種は少ないんですが、今年は春型タンポとヌメタンが大発生。 とは言え通常がハナヤスリタケ、ヌメリタンポタケ、春型タンポタケの順で多いんですが、 今年はハナヤスとヌメタンの順位が逆転、春タンがハナヤスに追い付いてる感じです。 それでも発生量は春型タンポタケが一番少ないとは思いますが。

■ 2021年02月20日 撮影

幼菌はこんな感じで結実部がかなり黒くなっており、未熟のため子嚢殻が見えません。 ただ未形成ではなく、この直下に形成が始まっていると思われます。 ただ何だろう・・・このポテッとした見た目・・・可愛いな。

■ 2021年02月20日 撮影

今年は本種が大当たり!こんな感じで塊になって発生している場所もあります。 良い感じに発生時期がズレていたようで、成長段階が異なっているのも面白いですね。 発生直後は白いのですが、右下の子実体のように黄色になります。 やがて結実部が先端から暗オリーブ緑色になり、子嚢殻が完成する頃には全体が暗色になります。


■ 2021年02月20日 撮影

それにしても中々の発生量・・・これは成長が期待ですね。 我が家からかなり近い場所なので定点観察決定ですわ。 多分分かる人には分かるでしょうけどこのカラーリング、アイシメジを彷彿とさせます。

■ 2021年03月27日 撮影

春の菌生冬虫夏草の発生も一段落、もう終盤に差し掛かってる感があります。 ヌメタンはほぼ老菌ばかりとなりましたが、ハナヤスリと本種はまだ若干若いのが残ってますね。 やっぱりこの子嚢殻の突出しない感じが春タンポの好きなポイントですね。

■ 2022年04月03日 撮影

今年も来ました春型タンポさん。今年も安定してそこそこの数が出ていました。 実は同月末に菌生冬虫夏草遠征を実施したのですが、その時は1個体も見付からず惨敗。 なのでこの場所でのこの下見が後に活きることになります。

■ 2022年04月29日 撮影

この日はK.Y氏とどろんこ氏をお招きしての新種と思しきTolypocladium属菌をご案内しました。 その前にこの場所をご案内したのですが、K.Y氏は大変喜んでおられました。 と言うのもK.Y氏は上述の菌生冬虫夏草遠征で春型タンポの研究用サンプルを採取予定だったからです。 しかし結果は時期を外したためか1個体も得られず。それを今回のオフでフォローすることができたのです。 下見しておいて良かったー。ただ期待していたコロモツチダンゴは見付かりませんでしたが。


■ 2022年04月29日 撮影

K.Y氏が作成した断面を撮影させていただきました。実に発生状況が分かりやすい断面写真ですね。 この断面は後に文献等に使用できるよう意識して作成されていますね。 右の子実体はすでに結実部が傷み始めており、春の冬虫夏草の時期の終わりを感じさせます。

■ 2022年04月29日 撮影

面白い模様が柄に現れた春タンさんを発見しました。柄にだんだら模様が現れています。 アカネアミアシイグチとかヘビキノコモドキの柄とかに見られる模様と似ています。 これは柄の成長が順調なのに少雨などで柄の表皮が乾き気味だと起きるようですね。 柄の伸びに表皮がついて行けず、割けて取り残されるために起こります。虎柄みたいで格好良い!

■ 2023年03月25日 撮影

1つ上の1年前の子実体とほぼ同じ場所に発生していました。 このフィールドでの発生は本当に安定していますね。諸事情により下見です。

■ 2023年03月25日 撮影

黒い球体全部子実体です。その発生量の凄さが見て取れます。 ここまで集中して発生する菌生冬虫夏草と言うのもそうそう無いんじゃないでしょうか? ただここまで集中しているのはこの付近だけで、その周囲はまばらに発生しています。 宿主となるツチダンゴが集中して存在していると言うことでしょうが理由が分かりませんね。

■ 2023年04月09日 撮影

本日も下見です。このフィールドの主役なので頻繁に様子見に行きました。 すでに胞子の飛散が確認できました。雨の具合も良い感じなので、これは良い感じにタイミングが合いそうだ。

■ 2023年04月09日 撮影

これでもかと言うほどみっちり発生していた個体群です。 何本かは同一宿主から出ているかも知れませんね。後ろにボケている黄色いのも本種です。 ただここはかなり太い木の根2本に挟まれた隙間なので掘り取りはできませんね。 この独特なオリーブイエローが本種らしくて好きなんですよね。 新種記載論文が発表されたら擬人化したいです。

■ 2023年04月16日 撮影

この日もちょっと時間があったので下見。この子実体は良い感じだ! と言うことでストックしておくことに・・・。


■ 2023年04月18日 撮影

散々ここまで「下見」と前フリしてきましたが、それはこの日のため。 この日は白水氏とその同行者さん達をご案内する計画だったのです。 白水氏より冬虫夏草を案内して頂きたい!との依頼を頂き、その準備をしていたと言うワケ。 結果は想定していた以上の収穫となりました。 16日に取り置きしていたものも断面作成の様子をお見せする教材となって頂きました。

■ 2023年04月16日 撮影

これだけ見ると「黒いツチダンゴかな?」と思いますが、安心してください、春タンですよ。 柄が短いものはこんな感じで結実部だけが地表に出ており、一見するとタンポ型の子実体に見えません。 でもよ〜く見ると表面に子嚢殻の突出が確認できます。紛らわしいよ!

■ 2024年01月20日 撮影

以前も1月後半に見たことはありましたが、これは今までで一番早い発見ですね。 本種はハナヤスリやヌメタンよりも少し遅れて出るため、 この時期に見られる幼菌はややフライング気味です。春はすぐそこですね。

■ 2024年03月02日 撮影

ややフライング気味の子実体が1月に出ていましたが、本種の本番はこれから。 ここから4月くらいにかけてがピークなので、また足繁く通いますかね?
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