■Tuber sp. (セイヨウショウロ属 No.001)

■ 2018年12月29日 撮影

12月末の京都地下生菌観察オフにて遭遇。便乗とは言え自力発見することができました。 セイヨウショウロ属の中でもプベルルムグループと呼ばれる一群に属します。 Tuberは今までイボセイヨウショウロのようなメラノスポルムグループしか標本すら見たことがありませんでした。 別グループの本属菌は初見だったので大興奮でした。 秋遅くにナラなどのブナ科樹木の樹下に発生するようです。

本種は地下生菌識別図鑑にて「Tuber sp.(18 or 19)」として掲載されているものと同種と判断しました。 子実体の色や断面の色、胞子の大きさや形状などからこれらが最も近いと考えられます。 ただ全体的な特徴から考えると「sp.19」のほうが近いように感じます。 ただ子嚢胞子の数から判断すると「sp.18」っぽいし・・・うーん分からぬ。


■ 2018年12月29日 撮影

子実体は類球形で色は白色〜淡黄褐色。 これはプベルルムグループにほぼ共通する特徴です。 虫食い痕が多いですが、これは臭気で生物を引き寄せ、食わせることで胞子を拡散しているためです。 事実、ナメクジなどに食べられても胞子は破壊されずにフンと一緒に排出されるそうですし。


■ 2018年12月29日 撮影

さて、どこに居るか分かるかな?


■ 2018年12月29日 撮影

そう、これが子実体なんです。ベテランのK.Y氏も見た瞬間は「ドングリでしょう」と言ってしまうくらいに分かりづらい! この「T. sp.19」の特徴として、成熟すると子実体が灰褐色になることが挙げられます。 子実体に透明感があるためか、内部の折り畳まれたグレバが透けて表面に濃淡が現れています。


■ 2018年12月29日 撮影

この他にも幾つか見付かりましたが、とりあえず手頃なものを集めて撮影。 私が見付けた一番大きい子実体は本種としてはかなり大型だったようです。 本来は周囲にあるような直径1cm程度の小さいものが多いそうです。


■ 2018年12月29日 撮影

切断して断面を観察してみました。グレバは淡褐色ですがグレーが強くて青みがかったようにも見えます。 そこに白い筋が入り大理石模様になるのがセイヨウショウロ属らしくて良いですね。 チャワンタケのような構造が折り畳まれて生まれた模様です。


■ 2018年12月29日 撮影

驚いたのは肉眼でも胞子が見えることです。 断面を見るとルーペを使わずともちゃんと茶褐色の胞子が見えているのです。 普段は胞子が肉眼で見えるなんて事態はありえないので凄い衝撃を受けますね。 この子実体は成熟が進んでいるので胞子の数が多いようです。


■ 2018年12月30日 撮影

帰宅後に黒バック撮影してみました。 全体的に淡褐色で傷んだ部分は褐色になっています。 虫食い痕が多いのは本種の生存戦略が上手く行っている証拠ですね。 この頃はあまり香りはしていなかったんですけど・・・。


■ 2018年12月30日 撮影

黒バックで断面写真も撮ってみました。


■ 2018年12月30日 撮影

高倍率のマクロレンズで断面を撮影してみると、やっぱり見え方が違いますね! これだけ胞子が大きいとなると確かに風による空中散布なんてできるわけないですね。


■ 2018年12月30日 撮影

ここからが本番。念願の顕微鏡観察のお時間です。 実はgajin氏に頂いた高性能の顕微鏡でTuberの胞子を観察するのはコレが初めて。 以前メラノスポルムグループの胞子は手持ちの顕微鏡で観察しているのですが、画質がもう全然ダメ。 しかし今回は顕微鏡の性能も、私自身の観察スキルも上がっています。リベンジだ!


■ 2018年12月30日 撮影

胞子は楕円形でやや落ち着いた色合いの茶褐色


■ 2018年12月30日 撮影

1つの子嚢に入っている子嚢胞子の数は1〜4個で、入っている数が多い場合は胞子1つ1つが小さいようです。


■ 2018年12月30日 撮影

そして一番見たかったものはこの表面を覆う網目模様・・・と言うかハニカム構造です。 全てが六角形と言うワケではありませんが、恐らく外部からの衝撃に耐えるためのものなのでしょう。 似たような構造がヤマビルの卵嚢にも見られますからね。 本来は全体にピントは合いませんが、分かりやすいように深度合成してみました。


■ 2018年12月30日 撮影

そしてここからも大切。 コチラは本種の子実体表面を切り出したもの。 表面に何だが変な細胞が見られます。


■ 2018年12月30日 撮影

これぞ本種をこのグループとした決め手となる細胞です。 他のグループとは異なり、プベルルムグループは長軟毛のシスチジアを持つセイヨウショウロ属菌の総称なのです。 このプベルルムグループにはこれとは別に針状の長軟毛を持つ一群も存在しますが、本種は長軟毛のグループであることが確認できました。 シスチジアは外部からの接触で潰れていることが多く、観察しやすい場所を探すのは一苦労でしたよ。


■ 2019年01月02日 撮影

少し追熟させたのですが、強烈なエチレン臭がしてきたので処分を決定。その前に写真撮影を行いました。 保存ケースに入れていたのですが、そこから漏れてくるレベルの凄まじい刺激臭。蓋を開けたら「うわっ」って声が出ちゃいました。 もはや中はガス室状態。こんな臭気に釣られる野生動物って・・・蓼食う虫も好き好き。 本種の子嚢は丸いので細長い子嚢に慣れていると違和感がパネェです。

正直あまりにも臭くて食えたモンじゃないです。香り付けなんてとんでもない! 甘いようなスカッとするような不快なニオイです。 トリュフの仲間だからってどれもこれもがヒトに有用とは限らないと言うことですね。

■ 2019年01月14日 撮影

正月オフにイベントで出られなかったガガンボ氏と一緒に同じ場所へ。 前回に比べると劇的に数を減らしましたが、何とか2つだけ残ってくれていました。


■ 2019年01月14日 撮影

初発見時も思いましたが、本種ってあまり整った形にならないみたいですね。 大きくなるほど丸みは帯びますが、それでも結構な凸凹が残ったままになってる気がします。


■ 2019年01月14日 撮影

プベルルムグループのTuberは全国的には発見例が多いらしいのですが、自分やガガさんはその機会がありませんでした。 ホントに多いの?ガガさんは今回が本グループ初見と言うことで再訪した甲斐がありました。 これを何とか地元で出したいのですが、中々そう上手くは行ってくれませんね。

■ 2021年12月18日 撮影

コロナ禍で開催が危ぶまれた年末の地下生菌オフ。感染対策を徹底し無事開催に至りました。 その際の目玉の1つだったのが本種でした。発生量は決して多くはありませんが、毎年見付かってますね。 と言うか見付からないと発起人的に非常に気まずいのでありがたいことです。


■ 2021年12月18日 撮影

今年は降雪の中での探索だったので、いつもより土壌の水分量が多かったです。 そのためか、いつもは乾いて白っぽくなっていた本種も本来の色である黄土色でした。 そして相変わらずの臭気と虫食い。やっぱ何かありそうですね。


■ 2021年12月18日 撮影

切断してみると見慣れたグレー調の大理石模様。胞子の粒が見えるのもいつも通りです。 そろそろ本種の種小名が載せたいところですが・・・。


■ 2021年12月19日 撮影

すでに何度も顕微鏡観察はしているのですが、最近ずっと使用していなかったので実験も兼ねて観察。 薄くスライスして見てみるとこんな感じでセイヨウショウロ属特有の断面が確認できます。 空の子嚢はいつ観察しても多いので、こう言う成熟をする種なのだと思います。


■ 2021年12月19日 撮影

ちょうど良い感じに奥行きがある子嚢があったので深度合成せずに撮影。 こうして見ると網目のサイズに結構差があるんですね。


■ 2021年12月19日 撮影

深度合成してみた大型の胞子です。本種の胞子は球形に近いものもありますが、基本は楕円形。 色は褐色で表面に網目状の隆起があります。ハニカム構造のように結構網目に高さがありますね。 実際に見ているとピントを合わせるたびに立体感が認識しやすいです。


■ 2021年12月19日 撮影

そしてこれももう一度見ておきたかった、本種がプベルルムグループに属する証拠。 先端が丸いシスチジアです。もう1つ同グループに先端が尖るシスチジアを持つものがあります。 やっぱりこの場所に出る種は毎年同じ。居着いているようです。
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