■specimen_No.001_LL Kipawa alkaline complex, Quebec, Canada

Agrellite / アグレル石
□ NaCa2Si4O10F

魅力的な蛍光鉱物なのですが、あまり知名度が高くないようで、あまり市場に出回っていません。 出回るのも小型標本が多く、キャビネットサイズの標本に出会えたのは幸運でした。 良質な標本の産地は少なく、普通に入手可能なものの大半がこのキパワ産です。 ちなみに学名はアポロ計画にも関与したイギリスの鉱物学者スチュアート・オロフ・アグレル(Stuart Olof Agrell)氏に由来します。 普通に見ると特に代わり映えのしない鉱物ですが、蛍光反応は一見の価値ありですよ。

最も有名なのがカナダ、ケベック州産のもので、多くの場合ユージアル石とエジリンを伴います。 むしろ感傷的な意味での鉱物標本は圧倒的にこの2種のほうが市場に多く出回っており、 実際にユージアル石の標本に紫外線を当てると本鉱物特有の蛍光が見られることが多いです。


■specimen_No.001_LL Kipawa alkaline complex, Quebec, Canada

アグレル石そのものは灰白色の繊維状で産出し、場合によっては少し飴色を帯びます。 Na、Ca、Fの珪酸塩鉱物であり、三斜晶系ですが一直線の脈状に成長するため結晶面が確認しづらいです。 左に見えるワインレッドの部分がユージアル石、中央上に見られる黒い線がエジリンです。 明確な結晶構造が見れるわけでもなく、平たく言えば普通の石なのですが、紫外線照射で驚くべき変化を見せます。


■specimen_No.001_LL Kipawa alkaline complex, Quebec, Canada

ただ紫外線と言ってもどの波長でも良いと言うわけではありません。 蛍光鉱物は短波でも長波でも強く蛍光するものも少なくないですが、本鉱物は明確な違いがあります。 まずは使用頻度も高い長波紫外線を当ててみます。しかしご覧の通りほとんど蛍光しません。 肉眼でも辛うじて認識できる蛍光の弱さで、超長時間露光してやっとこの程度にしか写すことができません。

■specimen_No.001_LL Kipawa alkaline complex, Quebec, Canada

しかし短波紫外線を照射するとその光景は一変。やや紫色がかったピンク色に蛍光します。 蛍光鉱物は黄色や青色に光るものが多いので、この色合いはかなり新鮮。 蛍光性そのものも非常に高く、遠い場所からの紫外線にも反応して光っているのが分かるほど。 鉱物本体にはあまり色味が無いので、この予想外の蛍光性にはかなりの衝撃を受けると思います。 「蛍光鉱物は地味」に当てはまる鉱物だとは思いますが、この蛍光を見てしまえばそんなウィークポイントは無いも同然です。

共生するユージアル石とエジリンには蛍光性が無いため、その部分だけ真っ黒に抜け落ちたようになるのも面白いですね。 鉱物の境界が肉眼で観察できるのは面白いですが、3鉱物とも色が違うのであまりその必要性は無いですけど。




TOPページに戻る