■specimen_No.001_L Rogerley Mine, Frosterley, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England

Fluorite / 蛍石・フローライト
□ CaF2

物質的には単なるフッ化カルシウム。しかしその魅力は世界中のコレクターを惹き付けます。 ハロゲン化鉱物の代表的な存在であると同時にモース硬度4の基準鉱物。 硫酸と反応してフッ化水素を発生させるため、様々なフッ素化合物を生み出す元となる他、 カメラなどのレンズ素材として必要不可欠であり、 結晶の美しさによる観賞価値もさることながら、産業的価値も極めて高い器用万能みたいな存在です。 産地によって産状や結晶の形状、色、蛍光性などが異なり、非常にコレクション性が高い鉱物です。

本鉱物と言えば蛍光鉱物の代表と言う印象を受けますが、実はその全てが全て蛍光するわけではありません。 強蛍光性を持つ産地はごくわずかで、弱い蛍光性を持つか、光らないものが意外と多いです。 そもそも和名の「蛍石」は紫外線による蛍光を指しているわけではなく、 加熱で発光し弾ける様がホタルを思い起こさせるためであり、 実際に紫外線で蛍光しているのは含有している希土類元素です。



■specimen_No.001_L Rogerley Mine, Frosterley, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England

そんな本鉱物を蛍光鉱物の代表に一気に押し上げたのはイギリスのロジャリー鉱山(Rogerley Mine)産の緑色の結晶です。 鉱山名自体がその凄まじい強蛍光性を示すブランドと化していた印象があります。 国内では母岩から取り外されたこの産地特有の貫入双晶標本が多く流通しましたが、 何としても本産地の特徴が出た母岩付き標本が欲しくて当時様々なショップをチェックしました。 その結果、風化した方鉛鉱と共生するロジャリーらしい良質な大型標本に出会うことができました。


■specimen_No.001_L Rogerley Mine, Frosterley, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England

ロジャリー産と言えば何と言っても少し青みがかって見える緑色の結晶、 そして正六面体の結晶同士が角度を付けて打ち込まれたように接合する「貫入双晶」が特徴です。 結晶面が平滑なことが多い本産地としては珍しく結晶面に乱れがあります。

■specimen_No.001_L Rogerley Mine, Frosterley, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England

ロジャリー産の代名詞とも言えるのは「強蛍光」とわざわざ表記されるほどの凄まじい蛍光性です。 紫外線の短波長波共に青色の蛍光を放ち、特に長波紫外線での蛍光は強烈です。 あまりにも蛍光性が高いために、部屋の離れた場所で点灯したUVライトに反応して可視光クラスの蛍光を放つほど。 長時間露光すると明るすぎて色飛びする蛍光鉱物なんてそう無いでしょう。


■specimen_No.001_L Rogerley Mine, Frosterley, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England

そしてロジャリー産の本鉱物の紹介文に必ずと言って良いほど書かれていたのが「太陽光で蛍光」と言う一文。 蛍光は暗い場所でしか見えないでしょ?と思われるかも知れませんが、 この宣伝文句は嘘偽り無く、何と自然光に含まれる紫外線で蛍光してしまい青っぽく見えるのです。 実際に晴れた日にベランダで撮影したのがこの写真。この青さは肉眼でもはっきり認識できます。 蛍光する本鉱物の産地は世界中に存在しますが、太陽光で蛍光するものはごく一部に限られます。

一世を風靡したロジャリー鉱山産の本鉱物ですが、2016年の採掘を最後に閉山しました。 その後、目と鼻の先の別の坑道にて同様の標本が採掘されるようになり、 現在は採掘権者の妻の名は付いたダイアナマリア鉱山(Diana Maria Mine)の名で流通しています。 同様の性質を持つ結晶がレディアナベラ鉱山(Lady Annabella Mine)でも産出しますが、 閉山してしまった本家ロジャリー産は現在では入手困難となっています。 強蛍光蛍石の代名詞ともなった「ロジャリー」の名前は今や伝説となっています。





■specimen_No.002_L Melchor Múzquiz, Múzquiz Municipality, Coahuila, Mexico

記憶が正しければ鉱物標本収集を始めて最初に購入した本鉱物の標本だったと思います。 雑貨屋の小規模な鉱物販売コーナーにポツンと置かれていて、価格も1000円弱と非常にお手頃だったので購入。 ラベルに「Mexico」としか書かれていませんでしたが、その特徴的な色と結晶構造からすぐに産地を特定できました。 その美しさから確実に「掘り出し物」だと思います。

残念ながら鉱山名までは分かりませんが、特徴的な産状からエスペランサ鉱山(Mina Esperanza)産でほぼ間違い無いでしょう。 ただ確証が無いため、産地名にはあえて表記していません。ラベルは大切に扱って頂きたいものです。


■specimen_No.002_L Melchor Múzquiz, Múzquiz Municipality, Coahuila, Mexico

地名にもなっている「メルチョール・ムスキス」はメキシコの第5代大統領を務めた人物の名前。 この産地の標本は共通して結晶が濃い紫色であり、そして結晶面が複雑に乱れると言う特徴が見られます。 遠目に見るとクラックのように見えますが、近くで観察すると結晶面はしっかり整っているのが分かります。


■specimen_No.002_L Melchor Múzquiz, Múzquiz Municipality, Coahuila, Mexico

この産地の結晶はゾーニングが美しいことも特筆すべき点です。 結晶自体が濃色のため暗紫色にしか見えませんが、光を透かすと結晶の形状に沿って濃色のゾーニングが確認できます。 ちなみに結晶自体が淡色だと結晶の辺に沿って縁取りができ、一気に観賞価値が上がります。 デジャヴュを感じると思ったら、この雰囲気は本鉱物の有名産地エルムウッドと共通点が多いですね。

■specimen_No.002_L Melchor Múzquiz, Múzquiz Municipality, Coahuila, Mexico

実はこの標本、裏側に犬牙状のカルサイトの結晶が無数に付いています。 これはエスペランサ鉱山で産出する標本に見られる特徴で、私がこの産地を疑う理由の1つです。 暗紫色の結晶は短波でも長波でも紫外線ではほとんど蛍光しませんが、不純物の多い裏側は蛍光を示します。 ただ完全にカルサイトの蛍光に食われている感は否めませんが。





■specimen_No.003_M Clay Center, Allen Township, Ottawa Co., Ohio, U.S.A.

一応標本サイズは「M」となっていますが、無理矢理入れようとすればサムネイルケースに入らないこともありません。 基本的に母岩付き標本を集めたがる管理人が珍しく購入した小型標本、その理由はこの産地の本鉱物の蛍光が個性的なため。 オハイオ州クレイセンターにあるホワイトロック採掘場(White Rock Quarry)から産出するフローライトは、 母岩の種類や結晶の色、蛍光反応など他の産地では見られないような特徴が数多く見られます。

何と言っても最大の魅力は時間経過を感じないほどの滑らかな結晶面と驚異的な透明度。 そしてこの産地の代名詞とも言えるのがこのブラウンカラーの優しい色合い。 加えて母岩が真っ白な天青石と言う芸術的な組み合わせが追い打ちをかけます。

■specimen_No.003_M Clay Center, Allen Township, Ottawa Co., Ohio, U.S.A.

ここからはこの産地ならではの紫外線に対する反応を続けて掲載します。 まず最も有名なのが長波紫外線での乳白色の蛍光です。 蛍石の多くが青色や黄色に蛍光する中で、この白い蛍光は衝撃を受けます。 蛍光もかなり強く、周囲が青っぽく見えるUV照射環境下で違和感を放ちます。

■specimen_No.003_M Clay Center, Allen Township, Ottawa Co., Ohio, U.S.A.

次は短波紫外線ですが、こちらはあまり強く光りません。 長波紫外線よりも透過率が低いため、内部まで届かないのが原因のようです。 ただ、あまり知られていませんが、照射後に長波の時とは少し違った反応を見せます。

■specimen_No.003_M Clay Center, Allen Township, Ottawa Co., Ohio, U.S.A.

実は本鉱物は紫外線照射後も蓄光したようにぼんやりと光り続けます。 この現象は「燐光」と呼ばれ、紫外線照射で励起状態になった化学物質が発する蛍光とは異なり、 照射が終わった後で励起状態から安定状態に移行する際にエネルギーを放出しながらしばらく発光する現象です。 燐光で有名な鉱物と言えばハックマン石が有名で、紫外線照射での着色(テネブレッセンス)後に、 徐々に退色しながら光り続けます。しかし燐光の性質を持つ鉱物の多くは数秒程度しか光りません。 ところがこの産地の本鉱物は30秒~40秒は燐光を放つため、短時間の露光でも撮影可能です。 長波紫外線でも燐光を示しますが、5秒~10秒で真っ暗になります。

鉱物自体の美しさ、そしてこの紫外線へのレスポンスのユニークさに惚れてしまった管理人。 大型標本が欲しい欲が溜まり、後にとんでもない標本に手を出すことになります。





■specimen_No.004_L Lucky Strike Prosp., Sierra Co, New Mexico, U.S.A.

購入した理由は「聞いたこと無い産地だったから」です。 ニューメキシコ州産と言えば青色で白熱灯下で紫色にカラーチェンジするビンガム(Bingham)産が有名ですが、 こちらの標本は同じニューメキシコ産でも結晶の雰囲気がかなり異なります。 調べてみると「Prosp.」は「Prospect(採鉱有望地)」の略であり、この段階ではまだ展望は不明だったようで、 現在のラッキーストライク鉱山(Lucky Strike Mine)の主要鉱物リストにフローライトは入っていません。 そう言う意味では貴重な標本なのかも知れません。


■specimen_No.004_L Lucky Strike Prosp., Sierra Co, New Mexico, U.S.A.

流石はニューメキシコ州と言うべきか、やはり系統的には青色のようです。 ただとにかく彩度が低くグレーのように見え、部分的に青色のゾーニングが確認できます。 また有名なビンガム産は結晶の表面が擦りガラスのようになっていますが、 この標本の結晶は完璧な形状を保っています。

■specimen_No.004_L Lucky Strike Prosp., Sierra Co, New Mexico, U.S.A.

購入時にカラーチェンジするとの説明があったので、多少色は変わると知った上で試しましたが、 白熱灯下で意外なほど肉眼的に色が赤紫色に変化しました。 カラーチェンジは元の色が濃いほど、結晶の透明度が低いほど視認しやすい傾向があるため、 この標本の結晶の色合いと透明度的に期待していなかっただけに驚きました。

■specimen_No.004_L Lucky Strike Prosp., Sierra Co, New Mexico, U.S.A.

紫外線へのレスポンスはあまり良くないようで、長時間露光で何とか撮影できるレベル。 黄緑色に蛍光しますが、これはオマケのようなものでしょうね。





■specimen_No.005_L Nashik District, Maharashtra, India

インド発の球状結晶標本が市場に流通した時は盛り上がりましたね。 本鉱物と言えば六面体結晶や八面体結晶と言うイメージをぶち壊す、そんな流れを感じました。 インドは物価が安く産出量も多かったことから、非常に安価に良質な標本が入手できました。 ただ本鉱物としてはニッチな部類に入るとは思いますが。


■specimen_No.005_L Nashik District, Maharashtra, India

流通初期かつ結晶の透明度が低いため、かなりのお手頃価格で入手した標本です。 このタイプの標本はほとんどがマハーラーシュトラ州のナーシク(Nashik)産です。 石英の晶洞内に球状に成長するのが特徴で、おおよそ本鉱物らしからぬ丸みを帯びた結晶が特徴です。 最盛期は旅行に行くと露店で観光客向けに売られていたと聞きました。

あと個人的に好きなポイントは本鉱物表面を微細結晶が部分的に覆っている点です。 まるで地球儀のようで好きなんですよね。

■specimen_No.005_L Nashik District, Maharashtra, India

標本No.005は球状結晶標本としては透明度が低く、観賞価値的にはあまり高いとはお世辞には言えません。 しかし管理人はこの標本の蛍光が大好きです。長波紫外線を照射するとその姿が一変。 蛍光する成分を多く含むためか元々蛍光が弱い産地でありながら比較的強く蛍光します。 また微細結晶が強く蛍光することで結晶の立体感が強調されます。 最初はこの微細結晶をドゥルージークォーツと思っていましたが、ルーペで結晶の形状を観察し、 蛍光が見られることから、この産地の代表的な共生鉱物の方解石として良いでしょう。





■specimen_No.006_LL Clay Center, Allen Township, Ottawa Co., Ohio, U.S.A.

標本No.003のクレイセンター産の標本を入手してからと言うもの、母岩付きの大型標本を手元に置きたい欲が激増。 そんな折にタイミング良く素晴らしい標本に出会い、迷わずお迎えしました。嘘です、かなり悩みました。 何せ巨大なキャビネットサイズ標本だったんです。お値段もその大きさに見合うものでした。 我が家で一番ヤバい標本はどれかと問われることがあったら、確実に候補の1つに確実に上がる素晴らしい逸品です。

結果論ですが、今思うとそれでも全然お手頃価格だったんですよね。 恐らくタイミング的に2006年の良質標本大量採掘時のものだと思われます。 正直今同じレベルの標本に国内で出会える気はしませんね。あの時のお値段では特に。


■specimen_No.006_LL Clay Center, Allen Township, Ottawa Co., Ohio, U.S.A.

母岩付き標本好きな管理人ですが、その中でもとりわけ「母岩付き」にこだわりました。 と言うのも、この産地の母岩は真っ白な天青石なのです。 鉱物標本の鑑賞価値は母岩が何かにかなり左右されるのですが、その点ではパーフェクトです。 真っ白な結晶を母岩にブラウンのフローライトの組み合わせは最早芸術の領域。

撮影していて思ったんですが、結晶の透明度、凄まじいですね。


■specimen_No.006_LL Clay Center, Allen Township, Ottawa Co., Ohio, U.S.A.

またこの産地の結晶はクラックや結晶面の風化がほとんど進んでいないことも特徴です。 そのため六面体結晶の辺がシャープに切り立っており、結晶面は板ガラスのように光を反射します。 これに加えて非常に高い透明度を誇るあたり、非常に良い条件で結晶が成長し、地下で守られて来たのでしょう。 ブラウンカラーは均一ではなく、ゾーニングのように内部で濃淡があります。

■specimen_No.006_LL Clay Center, Allen Township, Ottawa Co., Ohio, U.S.A.

長波紫外線での蛍光については標本No.003ですでに見ているのですが、この標本はとにかく大きい。 そのため紫外線での蛍光も大迫力で、正直いつまでも見ていられるレベルです。 また母岩となっている天青石は全く蛍光しないため、光源切り替えによって色が反転したかのように見えます。 やはりこの乳白色の蛍光は他の産地では見られないクレイセンター産の代名詞だとしみじみ感じますね。

■specimen_No.006_LL Clay Center, Allen Township, Ottawa Co., Ohio, U.S.A.

短波紫外線での蛍光は長波に比べて暗いので、詳細は標本No.003をご覧ください。 ただし照射を止めた後での燐光は短波紫外線照射時のほうが長時間に及びます。 10秒程度ではISO感度を上げても写せませんが、1分弱光ってくれれば長時間露光で捉えられます。

■specimen_No.006_LL Clay Center, Allen Township, Ottawa Co., Ohio, U.S.A.

締めは長波紫外線での乳白色の蛍光をアップで撮影。 こうして見ると強く蛍光している部分がゾーニングのように分布しているのが分かります。 てっきり内包している茶色い部分が強く光っているのかと思いましたが、 実際に色付いているのはもっと結晶の奥のほうで、強く光っている部分は無色透明です。 肉眼では確認のしようもありませんが、見えない何かが結晶の表面付近に内包されているようです。





■specimen_No.007_M Aouli, Midelt, Khenifra Prov., Morocco

ショップでお手頃価格で売られていたので購入したものの、モロッコ産はあまり聞かない気がします。 調べてみると紫色の多面体結晶や、この標本のような黄色の六面体結晶が主に産出するようですね。 ただ他の有名な産地に比べると若干マイナーなようで、印象が薄かったのはそのためかも知れません。 ちなみに良質な黄色い結晶はイギリスやスペイン、ドイツなど欧州から多く産出します。


■specimen_No.007_M Aouli, Midelt, Khenifra Prov., Morocco

結晶は六面体で色ムラのない均一な黄色。ゾーニングも無く、某金色の飴を思い出す見た目です。 また黄色系の結晶はライトイエローのものが多いのですが、この標本はしっかりとした黄色なのが魅力的ですね。 さらに母岩が赤石英と言うのも面白いのですが、結晶が黄色なので色で押し負けている感が否めません。

■specimen_No.007_M Aouli, Midelt, Khenifra Prov., Morocco

一応紫外線による蛍光も掲載しますが、蛍光性はオマケ程度のもののようです。 長波紫外線で辛うじて黄色っぽく蛍光しますが、光量が少ないので撮影にかなりの長時間露光が必要です。 また短波紫外線でもクリーム色に蛍光しますが、長波に輪をかけて弱く、あえて掲載しないことにしました。





■specimen_No.008_L Nasik District, Maharashtra, India

ナーシク産の本鉱物はすでに標本No.005を所有していましたが、別に非常に透明度の高い標本を探していました。 納得の行くクオリティのものに出会うことができ、この頃はまだ安価で購入することができました。 しかしその後しばらくしてこの産地からの産出が止まったと聞き、 調べてみても詳細は分からなかったものの、その後実際に流通価格が高騰したのを覚えています。 特に透明度の高い結晶はケタ1つ変わるほどの上昇が起き、インド産はお値打ちと思っていた管理人には衝撃でした。


■specimen_No.008_L Nasik District, Maharashtra, India

結晶は石英の晶洞内に形成されるインド産特有の球状結晶で色は淡い黄色。 個人的に気に入っているのは表面に微細な石英の結晶が散りばめられ、ラメのようになっていること。 拡大するとちゃんと両端のある六角柱状結晶の形をしているのが確認できてときめいてしまいます。

■specimen_No.008_L Nasik District, Maharashtra, India

紫外線に対する反応ですが、面白いことに長波紫外線ではまったく蛍光せず真っ黒に見えます。 逆に短波紫外線を照射すると薄ぼんやりとですが黄緑色に蛍光するのが肉眼でも分かります。 本鉱物は短波長波両方で蛍光するか、長波のほうが明るいことが多いので、この標本は真逆ですね。





■specimen_No.009_L Frazer's Hush Mine, Rookhope District, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England, UK

今日、強蛍光性の蛍石と言えば先述の通りダイアナマリア鉱山やレディアナベラ鉱山が産地として有名です。 しかし管理人が標本No.001を購入した頃、つまりロジャリー鉱山が有名だった頃は代表的な産地は2つ。 1つがロジャリー鉱山、そしてもう1つがこの標本No.009の産地であるフレイザーズハッシュ鉱山(Frazer's Hush Mine)でした。 この2つの鉱山から産出する本鉱物は共通して非常に強い蛍光性を持つとともに、 それぞれの鉱山を代表する結晶の色が異なるためコレクション性が高く人気がありました。 ただ知名度的にはロジャリーに負けていた感は否めませんが。

なおフレザイーズハッシュ鉱山は1999年に閉山し、その後水没してしまったそうです。 そのためこの産地からの新規産出は絶望的であり、良質な標本を入手する難易度は跳ね上がっています。


■specimen_No.009_L Frazer's Hush Mine, Rookhope District, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England, UK

フレイザーズハッシュ鉱山の最大の特徴はこのパープルグレーの六面体結晶です。母岩が石英なのも美しいですね。 基本的に単色なのですが、若干ゾーニングによる濃淡が見られます。 光に透かすと紫色だと分かりますが彩度が低く、遠目に見ると灰色に見えます。 またこの標本はこの産地としてはかなり結晶が大型で、最も大きいもので1辺が2cmあります。


■specimen_No.009_L Frazer's Hush Mine, Rookhope District, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England, UK

この産地もロジャリー同様に貫入双晶が多く見られます。 結晶はどれも大型でクラックも少なく、かなり良質な標本だと思っています。 ですが、やはりこの産地と言えば蛍光について触れなければならないでしょう。

■specimen_No.009_L Frazer's Hush Mine, Rookhope District, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England, UK

この産地の結晶は長波紫外線で強烈な青色の蛍光を放つ性質があります。蛍光の強さは強蛍光で知られるロジャリーと同程度。 青色の蛍光は撮影するとどうしても暗く写りますが、実際には遠距離からの照射で蛍光しているのが分かるほど強烈です。 また照明を点灯した室内でもブラックライトをかざすと青く変色するのが分かります。 ここまでの強い蛍光性を持つ本鉱物の産地となると相当限られると思います。

■specimen_No.009_L Frazer's Hush Mine, Rookhope District, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England, UK

別の部位でも蛍光をさせてみました。ゾーニングの位置で蛍光の強弱が確認できます。


■specimen_No.009_L Frazer's Hush Mine, Rookhope District, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England, UK

実はこの標本購入時には「太陽光で蛍光」と言うどこかの鉱山産標本でも聞いた売り文句が謳われていました。 何とフレイザーズハッシュ鉱山産の本鉱物は太陽光に含まれる紫外線で蛍光して青く変色するのです。 写真は晴れた日にベランダに置いて撮影したもので、肉眼的にもハッキリと青くなるのが分かるほど。 太陽光で蛍光すると言えばロジャリーとフレイザーズハッシュ、そんな感じだったんですよね。

現在はレディアナベラ鉱山から蛍光するパープルグレーの結晶が産出しますが、太陽光で蛍光とまでは行かないようです。 そう言う意味ではこの産地の標本は現在では非常に貴重であり、大切にしようと思っている管理人です。 ただし当時はロジャリーと比べると人気は低かった印象があります。 恐らくですがそれは太陽光での変色の視認性にあったのではないかと思っています。 緑色が青色に変化するのは非常に分かりやすいのですが、紫色から青色の変化は同系統の色なのでやや分かりづらいんですよね。





■specimen_No.010_M El Hamman, Ouarzazate Prov., Morocco

比較的小さな標本ですが結晶そのものは非常に大型で、結晶のみで横幅が4cmもあります。 その大きさも魅力的でしたが、それよりも「カラーチェンジ」と言う甘い言葉に誘われて購入しました。 産地名で検索すると同様の結晶のみの標本をちらほら見かけるので、 恐らく同時期に採取されて市場に出回ったものと思われます。 モロッコ産と言えば初期から黄色い結晶の標本No.007を所有していますが、また毛色が全然違いますね。


■specimen_No.010_M El Hamman, Ouarzazate Prov., Morocco

この標本を一目見て気に入ったのは色です。 青系ではあるのですが少し緑がかって見え、日本の伝統色で表すなら「紺碧」でしょうか。 あまり他では見ない独特な色合いで興味を惹かれました。 また表面に微細な黄鉄鉱が共生しているのもワンポイント。乾燥剤を入れないといけないかもですが。

■specimen_No.010_M El Hamman, Ouarzazate Prov., Morocco

白熱灯下で観察して驚きました。想像していた以上に明確にカラーチェンジしたのです。 青色から紫色に変化するニューメキシコ産などと同じ変化ですが、 この標本のほうがどちらの色も落ち着いた色合いで、個人的には好きかも知れません。 購入当日は何回も光源を変えて遊びましたね。

■specimen_No.010_M El Hamman, Ouarzazate Prov., Morocco

紫外線による蛍光もちょっと変わっていて、他の青系の蛍光はもっと紫色っぽく見えるのですが、 この標本は濃い純粋な青色に蛍光しているように見えます。また短波でも長波でも蛍光の強さは変わりません。 結構尖った性質を持つ標本のように思います。





■specimen_No.011_LL Nasik District, Maharashtra, India

基本的に黄色系が多いインド産の球状結晶なのですが、見たことも無い色だったので衝動買いしてしまいました。 このタイプの標本はもう満足したかなと思っていたのですが、やっぱりコレクション性には勝てませんでした。 ただあまりにも「蛍石らしくない」んですよね。個人的にはめでたい標本だと思っています、紅白的な意味で。


■specimen_No.011_LL Nasik District, Maharashtra, India

石英の晶洞内に成長するのは他のナーシク産の標本と同じです。 ただ全体が石英ではなく、右側の晶系が異なる部分は方解石。 その上に成長したボコボコしたものが本鉱物なのですが、明らかに色が変なんですよね。


■specimen_No.011_LL Nasik District, Maharashtra, India

球状結晶ではあるのですが、透明感がほとんど無いだけではなく、色が赤いんですよね。 赤系だとピンクフローライトがありますが、ここまで赤い色にはなりません。 海外サイトを見ると赤鉄鉱による着色のようですね。 写真右の欠けた結晶の断面を見ると色素は表面付近にのみ存在しているようです。

この標本を見ていると無機物に見えないんですよね。 赤色の菌類が湧き出してコロニーを作っているような、今にもモゾモゾと動き出しそうな。 ちなみに紫外線照射による蛍光は短波長波共に見られません。鉄分が邪魔してるのかも知れません。





■specimen_No.012_L Frazer's Hush Mine, Rookhope District, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England, UK

2009年の「名古屋ミネラルショー」にて購入しました。 この手のイベントには初参加と言うことで、あまり予算も用意せずにお邪魔したのですが、 結局は衝動買いが多くて散財してしまったのを覚えています。イベントには魔物が棲みますね。

この標本はとあるショップをぼんやり眺めていて違和感を感じ手に取りました。 この頃すでに標本No.009を所持していたので、フレイザーズハッシュ鉱山産だとすぐに分かったのですが、 やや小型とは言え凄まじい透明度であり、クオリティの高さにしては5000円でお釣りが来ると言う破格。 するとショップの方が「やっぱり気付く人は気付くんだねー」と声を掛けて下さいました。 自分も少しは掘り出し物を見付け出せる目利きができるようになった気がしました。


■specimen_No.012_L Frazer's Hush Mine, Rookhope District, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England, UK

この標本が気に入ったのにはもう1つ理由がありあました。ラベルが付属していたのです。 採取年が1991年と書かれているので、採取から10年経って手元に来たことが分かります。 そしてこの8年後には閉山してしまうわけですが。

ちなみに手書きラベルは日本人の方が書かれたもののようですが、 「Durham」の誤字が凄くアバウトに修正してあったりと親近感を覚えます。 最初は「h」の書き始めが曲がっているので「m」に見えたのかなと思いましたが、 元のピンク色のラベルを見るに印刷が濃いせいで「H」が「M」に見えたみたいですね。


■specimen_No.012_L Frazer's Hush Mine, Rookhope District, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England, UK

この標本が同産地のNo.009と異なるのはその結晶の美しさです。 結晶のサイズでは流石に敵わない、と言うかNo.009はかなり大型の結晶なんですが、 今回の標本は驚異的な透明度を誇ります。 またユニークなことに結晶の角が削り取られたようになっているのが特徴です。 本当にクラックしているわけではなく、結晶面の端が斜めになっており、縁取りのようで面白いですね。

■specimen_No.012_L Frazer's Hush Mine, Rookhope District, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England, UK

フレイザーズハッシュと言えば先述の通りの強蛍光性が最大の魅力。 長波紫外線で驚くほど明るい青色に蛍光します。


■specimen_No.012_L Frazer's Hush Mine, Rookhope District, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England, UK

そしてロジャリー同様に太陽光による蛍光も健在です。 晴れた日にベランダで背景に黒い板を置いて撮影したもの。 この標本は元々の色が薄いため、太陽光での蛍光が非常に分かりやすくて助かります。 紫色から青色への変化は同系色のため分かりづらいですが、 この標本に関してはロジャリー産より視認性は良いかも知れません。





■specimen_No.013_LL De'an Mine, Jiujiang Prefecture, Jiangxi Province, China

中国江西省九江市徳安県産。購入当時はまだ発見されて間も無かった産地だったと記憶しています。 後に「De'an Fluorite Mine」とラベルに書かれるほどに蛍石に特化した鉱山となります。 ちなみに「De'an(徳安)」は「ドーアン」と発音するようです。

クラスターのみで幅14cmもあるキャビネットサイズ標本なのですが、手前の結晶がクラックしているとは言え、 流通初期に購入したため驚くほど安価で購入することができました。 現在ではネームバリューも上がり、高級蛍石の仲間入りを果たしている印象を受けます。 一方で結晶が大型で含まれる色も多様なため、お土産として水晶のような形状に加工されて販売されています。 確かに一般受けはすると思いますが、原石収集する身としては勿体無いの一言です。


■specimen_No.013_LL De'an Mine, Jiujiang Prefecture, Jiangxi Province, China

この産地の結晶はブルーグリーンをベースに結晶の端が紫色に縁取られる八面体結晶が特徴。 結晶面に光沢はありませんが、大型の結晶のクラスターになるので迫力が尋常ではありません。 この標本だと見えている範囲で結晶の1辺が4cmもあります。


■specimen_No.013_LL De'an Mine, Jiujiang Prefecture, Jiangxi Province, China

そう言えばここまで12個も本鉱物の標本を入手しているのに八面体結晶はこれは初だったんですね。 結晶に光沢は無いとは言え、結晶そのものの透明度は高いので、曇ガラスのようでそれもまた良し。 個人的に大好きな産地なので、機会があれば少し違った産状の標本をお迎えしたいなと願う次第です。 ちなみに紫外線による蛍光は短波長波共に視認できませんでした。





■specimen_No.014_L Moscona Mine, El Ponton de Solis, Corvera de Asturias, Asturias, Spain.

鉱物標本の収集趣味を一時休止して何年も経ちました。 復帰することもないと思っていましたが、コロナ禍で室内系の趣味の需要が高まり、 別趣味の知人に影響を受けたのもあって久し振りに販売イベントに参加。 以前から気になっていたスペインのモスコナ鉱山(Moscona Mine)の標本を発見して迷わずお迎えしました。 大きさも十分、透明度も高く、とんでもない掘り出し物だったと思います。

この産地では白い苦灰石と共生するのが一般的なのですが、この標本は本鉱物のみから成ります。 共生標本もあったのですが、今回はあえてこの標本を選びました。


■specimen_No.014_L Moscona Mine, El Ponton de Solis, Corvera de Asturias, Asturias, Spain.

この鉱山の本鉱物はアンバーイエローと呼ばれる少し琥珀色がかった黄色い結晶が特徴です。 この産地のものとしては結晶面の状態が非常に良いように思います。 サイズと結晶の状態から考えても、ネットで買うとお値段5桁くらいは行きそうなものですが、 その半分の半分くらいのお値段でしたね。


■specimen_No.014_L Moscona Mine, El Ponton de Solis, Corvera de Asturias, Asturias, Spain.

若干結晶の角がクラックしていますが、ほとんどの結晶は無傷ですし、結晶面や内部の透明度は素晴らしいの一言。 結晶面が平滑ではなく、階段状になっている部分が多いのも写真映えポイントです。好きなんですよね、こう言う結晶。 表面に黒いゴミみたいなものが点々と付いていますが、良く見ると黄鉄鉱の微細結晶のようです。 ただそれほど目立ちませんし、良いアクセントになっていると思います。

■specimen_No.014_L Moscona Mine, El Ponton de Solis, Corvera de Asturias, Asturias, Spain.

この産地の本鉱物は紫外線による蛍光も面白いのでご紹介。まずは短波紫外線での蛍光の様子です。 あまり明るくはなく薄ぼんやりと黄緑色に蛍光します。

■specimen_No.014_L Moscona Mine, El Ponton de Solis, Corvera de Asturias, Asturias, Spain.

短波紫外線ではあまりパッとしませんが、長波紫外線での蛍光は芸術的ですよ。 結晶の角や周辺部は青く蛍光するのですが、内部からは湧き上がるように黄色っぽい乳白色の蛍光が見られます。 雰囲気的には標本No.003やNo.006のような乳白色系に見えるのですが、長時間露光で撮影すると全然違いますね。 あとここでも蛍光しない黄鉄鉱の粒が良い味出しています。




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