■specimen_No.001_LL Cave-in-Rock District, Hardin County, Illinois, U.S.A.
■ Witherite / 毒重石
□ BaCO3
非常に魅力的な鉱物ですが、流通量的にも価格的にも良質な標本が入手困難な鉱物だと思います。
そもそも鉱物名に「毒」とストレートに入っているので、インパクトは中々のもの。
また「重」と言う文字も重厚感がある響きです。後述しますが、この名前は本鉱物の性質を的確に表現しています。
化学式を見れば分かるようにバリウムの炭酸塩鉱物であり、これが本種のこの禍々しい鉱物名の理由です。
「えっ?バリウムって造影剤で飲むじゃん」とお思いの方、あれとは訳が違うのですよ。
本鉱物の和名に「毒」と付くのは、その名の通り遊離したバリウムイオンが人体に強い毒性を持示すためです。
しかし本鉱物の成分である炭酸バリウムは水にほとんど溶けません。ではなぜ有害なのでしょう?
注目すべきは炭酸バリウムが化学で習う「弱酸の塩」であることと、胃酸の存在です。
造影剤として飲むバリウムは重晶石と同じ成分の硫酸バリウム、つまり「強酸の塩」です。
よって胃酸である塩酸より強い硫酸と結合したバリウムはイオンとして遊離しません。
しかし酸化力では炭酸<塩酸<硫酸の順となるため、塩酸より弱酸の炭酸と結合した炭酸バリウムは化学反応を起こします。
BaCO3 + 2HCl → BaCl2 + CO2 + H2O
まさに化学で習う「弱酸の塩と強酸の反応」ですね。
ここで生じた塩化バリウムは水溶性のため、有毒のバリウムイオンを生じ、我が国の基準では「劇物」となります。
オマケ的な情報ですが、漫画「Dr.STONE」にてカルピスを作る際に本鉱物が使用されて知名度が上がりました。
デンプンを硫酸で加水分解してグルコースを作る際に、残った硫酸を中和するために使用されました。
H2SO4 + BaCO3 → BaSO4 + CO2 + H2O
残留した炭酸バリウムも中和により生成した硫酸バリウムも水には不溶のため、濾過することでグルコースを取り出すことができます。
ただし上記の通り炭酸バリウムは胃酸で溶けるため、少量でも残っていると経口摂取時に中毒を起こします。
完全に除去することが前提となるため、あの世界観でのみと割り切って大人しくカルピスを買いましょう。
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■specimen_No.001_LL Cave-in-Rock District, Hardin County, Illinois, U.S.A.
実はこの標本はかなり貴重なオールドコレクションです。
ラベルの裏面には「11/15/68」の記載があり、この標本が1968年11月15日に採取された由緒ある標本であることが分かります。
またこのラベルには2人の人名が登場します。1人目は表面の「Collection of Dr. Eugene E. Sensel」。
調べてみましたが鉱物コレクターのようで、彼のコレクションは一種のブランドとなっているようです。
2人目は裏面の「Glenn Commons Gift」ですが、この人物からの贈り物と言うだけで人物までは特定できませんでした。
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■specimen_No.001_LL Cave-in-Rock District, Hardin County, Illinois, U.S.A.
標本の右側には複数の柱状結晶が集合して直径が4cmにもなった部分が存在します。
複数の結晶から成っていますが、よく見るとちゃんと六角形になっています。
ちなみにこの標本は母岩を含めた重量が400gを超えています。比重が「4.3」もあるためです。
あの黄鉄鉱が「5.0」であることを考えるとその重さが良く分かりますね。
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■specimen_No.001_LL Cave-in-Rock District, Hardin County, Illinois, U.S.A.
本鉱物の産出形態は大きく分けて2パターン存在します。
まずはこのイリノイ産のような六角柱状結晶が積み重なったような大型結晶。もう1つは炭酸塩鉱物らしい犬牙状結晶。
この産地の大型結晶はほんのりと黄色を帯びており、結晶面が積み重なるように形成されるのが魅力です。
紫色のフローライトを伴うのもこの産地らしい特徴でしょう。
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■specimen_No.001_LL Cave-in-Rock District, Hardin County, Illinois, U.S.A.
毒重石の大きな魅力は蛍光にあります。本鉱物は紫外線の長波短波ともに蛍光を示します。
また波長の違いによって若干蛍光が異なるのも興味深いですね。
まずは長波紫外線による蛍光を見てみます。
かなり明るく蛍光し、青白いですが若干乳白色にも見えます。
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■specimen_No.001_LL Cave-in-Rock District, Hardin County, Illinois, U.S.A.
次に短波紫外線を照射してみます。長波紫外線よりも少し弱いですが、明確に青色に蛍光します。
灰重石の短波紫外線による蛍光に似ていますが、本鉱物のほうが若干白っぽく見えるでしょうか。
どちらの波長でも蛍光鉱物としては比較的強く光ると思われます。
元々蛍光鉱物が好きな管理人としてはこの蛍光性こそ本種のステータスを持ち上げている要因ですね。
ちなみに主成分である炭酸バリウムのヒトでの最低経口致死量は「57mg/kg」とされています。
一般的なヒトの体重を60kgと仮定すると、3.42gを経口摂取することで致死量に達します。
この標本は母岩を含めて400g以上ですが、仮に400gジャストで60%が毒重石部分であると仮定すると
約70人の命を奪える計算になります。実際にはもう少し多いとは思いますが、そう考えるとかなり恐ろしいですね。
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■specimen_No.002_LL Nentsberry Haggs Mine, Nent Valley Alston Moor District, North Pennines, Cumbria, England, UK.
標本No.001を入手し魅力に取り憑かれてからと言うもの、ずっと欲しかったのが犬牙状結晶の標本です。
しかしアメリカ産の標本はそこそこ出回るものの、お目当ての産状のものには全然出会えませんでした。
そのためショップで見た瞬間に迷わず購入。とても満足の行く買い物となりました。
手に持つと驚くのがその重さ。No.001よりも一回り小さいのに重みはこちらのほうが上。
理由は母岩が比重7.6もある方鉛鉱で形成されているためです。
オールドコレクションであることは分かっていましたが、そこまで気にせず購入しました。
しかしその後、付属のラベルにしっかり目を通した管理人は驚くこととなります。
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■specimen_No.002_LL Nentsberry Haggs Mine, Nent Valley Alston Moor District, North Pennines, Cumbria, England, UK.
まず最初に視界に飛び込んで来たのが「11.5.5」の表記です。
海外だと日付はアメリカ式だと「月.日.年」、イギリス式だと「日.月.年」となるので、
11月5日か5月11日なのは分かります。でも最後が年であることは共通です。つまり「5」は1905年?
信じられませんが、事前に有名大学の放出品であると聞いていたのでありえると思います。
またラベル下の「J. Cilen」はアメリカの有名な鉱物収集家であるJoe Cilen氏で間違い無いでしょう。
採取地はイギリス、収集者はアメリカなので、ラベルでは日時特定には至れませんね。
裏面は個人的な識別番号でしょうか。メモ的なものなので意図は読み取れませんでした。
それにしても100年以上前の貴重なオールドコレクションが我が家に来てしまうとは。
これは大切にしなくてはなりませんね。
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■specimen_No.002_LL Nentsberry Haggs Mine, Nent Valley Alston Moor District, North Pennines, Cumbria, England, UK.
アメリカ産の標本とは結晶の構造が全く異なります。
この産地のものは方鉛鉱から無数の小さな犬牙状結晶がびっしり成長します。
一見すると方解石の結晶のようにも見え、一見すると毒重石らしくないかも知れません。
どちらも炭酸塩鉱物なので結晶構造が似るのは当然なんですけどね。
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■specimen_No.002_LL Nentsberry Haggs Mine, Nent Valley Alston Moor District, North Pennines, Cumbria, England, UK.
拡大してみると犬牙状と言うよりは石英のような六角柱状結晶に近いように見えます。
アメリカ産のものはこの径が大きい結晶が板状に重なり合っていると言うわけですね。
実際には柱状部分が短いので、ずんぐりした犬牙状結晶のようです。
同じ鉱物でもここまで構造が違うとコレクション価値が上がりますね。
結晶面はくすんで透明感が落ち、付着した微細な汚れがかなりの時間経過が感じさせます。
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■specimen_No.002_LL Nentsberry Haggs Mine, Nent Valley Alston Moor District, North Pennines, Cumbria, England, UK.
こちらも紫外線による蛍光を確認してしました。全体的にアメリカ産のものと比べると蛍光が弱いようですね。
まずは長波紫外線を照射してみます。やはり少し乳白色に見えますね。
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■specimen_No.002_LL Nentsberry Haggs Mine, Nent Valley Alston Moor District, North Pennines, Cumbria, England, UK.
続けて短波紫外線による蛍光を観察してみると、やっぱりこちらのほうが青く見えますね。
2つの光源を持って交互に照射してみると、短波のほうが青みが強いのが肉眼でもハッキリ分かります。
正直、本鉱物はこの2つの標本で現実的に一般人が入手可能な最高ランクの2系統が揃ってしまった感があります。
これを上回るクオリティのものに出会ったとしても、恐らく手が届かないお値段になるのではないかと。
それくらい良質かつ貴重な歴史を持つ標本が現実的な価格で入手できたのだと思います。
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